第19話能力を把握しよう①

私はこれから週に五日、リリィの教え子として村外れにある教会へと通うこととなった。

まだ私が幼いと言うこともあり、送り迎えはアヴェントがしてくれる。


私の両親は特に信仰深い人達ではないので、教会へこまめに通うという習慣がなかったので教会へと通うというのは新鮮だった。


と言ってもシスターになる為に通っている訳ではないので、教会の本館へと入るのではなく、リリィ達がいる別館に用があり、教会の正門辺りでアヴェントとは一度別れ、

私は一人で教会本館横の脇道を壁沿いに歩き、裏の別館へと向かう。


この別館は孤児院も兼ねているようで、本館の裏庭には様々な年代の子供達が数名のシスターに見守られながら遊んでいた。


私は別館の入り口付近で待っていたソシエに会うと、挨拶をしたのちリリィが待つ部屋へと案内された。


別館の中は石を基礎として造られており、どうやったらこんなに凄い建築物が造れるのか不思議でしょうがない。


玄関を通り少ししたら外に吹き抜けの廊下。真上から観たらきっと正方形を描いた回廊でその中心のスペースは中庭となっている。

二階建てで、見渡す限りは結構な部屋数がありそうだ。


その中の一室に私は通されると中にはリリィがいた。


「リリィ先生。おはよう御座います。」


「おはよう御座います。エリーさん。」


挨拶を交わすと、リリィは早速今日からどういうスケジュールで私を教育していくのか話を進めた。


午前中は主に能力の把握と歌の練習。昼食を挟んだのち、午後からは読み書き、清掃、勉学に励むのだそうだ。


文字の読み書きなどは両親から既に教わっているから、私には必要ないとは思うが、今はリリィのスケジュールに従っておこうと思う。


最優先なのは能力の把握らしく、ここでは練習が出来ないとのことで、

リリィとソシエは私を連れて教会からはそう遠くないひと気のない林の中へと移動すると、誰も住んで居なさそうな小さな小屋があり、歌や能力の訓練はその中でするそうだ。


「じゃあ、先ずはエリーさんの能力の把握から始めましょうかね。」


そう言うとリリィはソシエに目配りをするとソシエは小屋から出て、どうやら周囲を見張っているらしい。


「さぁ、エリーさん。先ずは貴方の能力を把握しましょうか。

おっと、いけないわね。その前に…」


そう言うとリリィは慌てたように両手を胸元で握りしめ、神に祈るかの様に目を閉じた。


「恵みの源なる光の女神ディアの名において、主の恩恵により身を守り、試練へと立ち向かう勇気を恵む。『プロテクション』」


そう言葉を唱え終わるとリリィの体の周りから光の粒子が発生すると、それらが連なる様にして彼女の周りに集うと、次の瞬間、強力な光を放った。


すると光はすぐさま収束し、


「じゃあ、エリーさん。始めましょうか。」


私は初めて間近で見た魔法に驚きを隠せなかったが、プロテクションとはゲームなどでも防御力を上げる魔法かなにかだと知っていたから、

私の歌声を聞く前に防御を固められたコトにショックを隠しきれないでいた。


いや、彼女の行動は正しいのだ。


今までだって私の歌声はみんなを苦しませてきたんだから。

だから、防御を固めた彼女を前に遠慮などいらなく、私は大きな声で前世で好きだったアイドルソングを歌った。


すると数秒もしないうちにリリィは私に向かって手を差し出し、それが中断を促しているモノだとすぐさま気付き、私は歌うのを止めた。


椅子に座るリリィは肘掛けに肘をつけ具合が悪そうに垂れる頭を手で支えていた。


「困ったわね…どうやらプロテクションですら防げないようね…」


リリィは具合が悪そうにそう呟くと、私は罪悪感を感じ彼女に駆け寄るとリリィは微笑み、


「まぁ!心配してくれたのね、ありがとう。でも、もう大丈夫だから続きを始めましょうか、」


そうして訓練を続けようとした時、リリィは次に条件を出してきた。


「次は小さな声で歌ってみましょうか、

そうね…鼻歌くらいでいいわ。」


言われた通り、鼻歌を口ずさむと先程とは違い彼女は額に汗を浮かべながらもなんとか耐えている。


だが、三十秒もしないうちにまたもや中断させられた。


「聞いたコトのない不思議な詩ね。吟遊詩人の詩とは全然違うわね…」


どうやら、今回は歌詞までしっかりと聞き取れたようで、リリィの発言を聞くなり自身の失態に気づくのだった。


なにせ、私の歌を何度も聞いて来たであろう両親でさえ、今まで歌詞の内容には触れてこなかったので完全に油断していた。


「この不思議な歌詞はエリーさんが考えたの?」


「…はい。…そうです。」


流石に前世の好きだったアイドル歌手の歌です。とは言えず、私は咄嗟に嘘をついてしまった。


「そうなのね。素敵な詩だわ。」


「ありがとうございます。」


罪悪感を多少は感じたが、私以外には知りようのない話なだけに誰かに迷惑がかかる訳ではないと自分を納得させる。


「うっふふ、エリーさんの歌声はとっても不思議だわ。

最初に貴方が歌う前にね、不思議とどこからか演奏が聴こえてくるのよ。

ここには演奏道具が一つもないのに、それも聴いたことがないような、愉快で軽快な旋律で…

これは貴方の能力によるいわば幻聴を聞かされていると考えた方がいいわね。」


リリィは私の歌声を聞き、そうして得た情報から能力を分析しだした。


「最初のメロディーは心地よいのだけど、エリーさんの歌声が入って来ると…その…あれよ、あれなのよ。」


語尾を濁らす先生は優しい人だわ。


大丈夫。私はちゃんと現実を受け入れているから…

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