第22話勇者
これからは歌の訓練や能力を調べる時は、この小屋を使用するそうだ。
能力の把握に夢中になっていたせいか、時間が過ぎるのはあっという間で太陽が真南に登ると時刻は正午をまわっていた。
私達は教会の敷地内の別館へと戻り、遅めの昼食を食べ、午後からは勉学の予定だったが、
私は両親からこの世界の読み書きの仕方などは既に教わっていて、先生は六歳にして文字の読み書きが出来ることに驚いていた。
どうやらこの世界では識字率が低いらしく、庶民にいたっては大人でも読み書きができないなんてザラのことらしい。
あと、この世界で必要な計算力は地球の小学一年生で学ぶような数式を理解できれば充分で、前世のように実用性のない数式などは教育では教えていないようだ。
ちなみに算数も両親から一通り教育を施されているから、っと言っても前世では中学生一年生までの知識はあるので逆に苦戦するフリをするのが大変だった。
算数の勉強も両親から教わっており必要ないと知った先生は、「若いのに立派な親御さんだわ。」っと感心していた。
文法も算数も教える必要がないと知った先生は、次にこの世界の歴史について詳しく教えてくれた。
この世界【ツェアシュテールング】は、デンアス山脈と呼ばれる天にも届くほどの高い山脈が大陸を分断するかのように端から端までそびえ立っており、それによって北側の大陸と南側の大陸で世界は二分割されているようだ。
南側は主に人間種が繁栄していて、主にヒューマン、エルフ、ドワーフ、獣人。
北側は魔族種の領域とされている、言わば魔界だそうだ。
今から数百年前、魔神によって統一された魔界は、次に人間種の繁栄している南側を侵略する為、先行として海を渡り、次に山を掘り進めて地上から進行して来たようだ。
おおよそ体格やその残虐性で勝る魔界の住人達に人間種は劣勢を余儀なくされ、次々と領土を奪われては撤退を余儀なくされる。
人間種の必死の抵抗も虚しくいつしか局地へと追い詰められ、もう少しで北側の手に全てが落ちようとした時、ひと組の双子が人類に誕生した。
それが今から八十年と少し前のこと。
その双子の姉弟は幼少期の頃から戦闘において天賦の才を発揮していて、十歳になる頃には人間種に置いて彼等の右に出る者は既に存在しなかった。
二人はそこから七年もの間、次々と侵略してきた魔族達を撃退し続け、いつしか戦場には彼らの名が轟く。
姉【グリレット=カデーレ】
弟【オスキュリテ=カデーレ】
人間種はこの姉弟を英雄と称え士気を上げ、
逆に魔族側は二人の余りの強さに後退を余儀なくされる。
ただ、コレをよく思わない魔神は前線にて腹心でもあり魔界にて自身に次ぐ強さを持つ鬼人王デスペルタルを二人の元に送り込む。
流石のカデーレ姉弟もデスペルタルの強さには敵わず、姉グリレットは弟オスキュリテを庇う形で戦死を遂げる。
弟オスキュリテは自身の半身であるグリレットの死を深く深く嘆き、今まで感じたことのないほどの悲しみに心が満たされた時、突如、天から聖剣が彼の元へと舞い降りたのだ…
資質のみでは与えられん
大いなる痛みを知らぬ者に偉大なる力は
授けられん
オスキュリテが勇者として聖剣に認められた瞬間だった。
勇者へと覚醒したオスキュリテはデスペルタルを見事討ち果たし、グリレットの仇を取った。
人間種の間で新たなる勇者の誕生と共に英雄グリレットの戦死が知れ渡ると、各戦場で活躍していた英雄達は彼女の死を嘆き、悲しみに暮れる勇者の元へと集まった。
勇者は英雄達の献身的な支えにより再び戦場へと舞い戻ると、彼等と共に次々と魔族に奪われた領土を奪還し、そこで魔族の奴隷や食糧として生かされていた人々を次々と解放していく。
いつしか南側の勢力は人間種に取り返されると、魔神は自らではなくては勇者を討ち果たせないと悟り、腰を上げた。
そして、魔神率いる魔族軍と勇者率いる人間種の軍団による最大にして最後の戦いは大陸の中心でもあるデンアス山脈の南側、
魔族が侵攻して来た際に掘られたトンネルを防衛する為に建てられた魔族軍の武装要塞侵攻にて行われた。
魔神と勇者の戦いは熾烈を極め、山脈の一部は吹き飛び、地は揺れ、天は咆哮する。
そして、長きに渡る激戦の末、
最後まで地に足を着いていたのは勇者でもあるオスキュリテであった。
魔神が地に倒れ消滅すると大地に辛うじて立つ勇者の姿を見た魔族達はその姿に恐怖し、その大半が魔界へと撤退してゆく。
魔神といった強大な求心力を持つ指導者を失い、そして、それを打ち果たした勇者が存在する南側の大陸に侵略するメリットなど、もはや魔族達にはなく、
疲弊しきった人間種もこれ以上の追撃は無意味と判断し、魔族と人間種の戦いは冷戦時代へと突入する。
だが、共通の敵でもあった魔族が南大陸から消えた今、人間種の新たな脅威は人間種となり、各国による小競り合いは後を立たない。
そして、それから数年もしないうちに魔族への最大の抑止力でもあった勇者オスキュリテは、突如として歴史の表舞台から完全に消息を断つこととなった…
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