第47話助言
だが、しかし…
言うは易く行うは難し。なんて言葉があるように、私にはアイドル事業の立ち上げ方などわからず、
創さんに聞いてみたはいいが、私が想像していた答えとは大きく違っていた。
「そうだね…アイドルになるにはまず、王都オラシェスタットにある冒険者ギルドに登録すると良いね。」
「えっ?冒険者ギルドにですか?」
「そうさ、エリー。変に思うかも知れないがこの世界と地球とでは常識や概念がそもそも違うんだ。
冒険者ギルドなんて名称ではあるけれど登録している人達の職業もさまざまさ。
故にこの世界の冒険者ギルドでは多種多様な分野の依頼が集約されていて、中にはキミの望むようなアイドルらしい仕事もあるかもしれない。
逆に無いなら無いでキミがアイドルとして知名度を上げれば当然、噂を聞きつけた人々がキミの望むような、それこそ日本でおこなわれていたアイドルのような仕事内容の依頼も舞い込んで来ることになるかもしれないね。」
「なっ、なるほど…この世界ではそうやってアイドルとして売り出していけば良いんですね…」
「そうだね。この世界ではネットもなければテレビもないからね。
もし名を売りたいのなら、それこそ冒険者達に認知されることこそが一番の近道さ。
なにせ彼等は横のつながりが深く、命を懸けている分だけ情報の重要性をよく理解している。
だからこそお互いに日々の情報交換を欠かさないし、結果的には人助けをしているから人脈も幅広い。
そんな彼等に認められれば、勝手に至るところにキミの良い噂を広めてくれるだろうね。
アイドルっと言う素晴らしい職業が誕生したとね。」
創さんの話をひとしきり聞き終えた時、私は感動の余り表情を隠すように頭を下げつつも、意に反し肩は小刻みに震えている。
それは不安が消えて安堵したからだろうか…
私は目元から滴り落ちそうな涙を指先で拭うと、その仕草を見た創さんは、
「おや?どうしたんだい?」
「うっ、うう…よかったです。」
「ん?なにがだい?」
「ついさっきまでは本当に絶望しかしてなかったのに…今は本当に創さんに相談出来て良かったと思ってます。」
創さんは私の発言を聞くなり、同意するかのように何度も頷きつつ、
「うん、うん。キミにもようやく僕の偉大さが理解してもらえたようだね…」
「はい…理解しました。創さんのお陰で、私、また頑張れます!」
「そうかい。それは良かった。なら、今回はこれでもう大丈夫そうだね?
善は急げと言うくらいだからね、行動に移すなら思い立ったが吉日だよ。
それじゃあ、名残惜しいけどもキミはもう自分の世界へとお帰り。あっ…それとギルドへ登録するならダンとソフィアとパーティを組みなさい。」
創さんの口から思い出したかのように言い放たれた最後の一節に私は驚き、間の抜けた返事を返してしまう。
「えっ?」
なんでダンとソフィア?二人とパーティを組めってことは、要はみんなでアイドルを目指せってコトだよね?
だけど…二人は別にアイドルを目指してる訳じゃないし、ソフィアに至っては完全に拒否されてしまったのだが…
そのことを知ってか知らずか、創さんは話を続ける。
「彼等とならきっと人として、アイドルとしても立派に成長出来るくらい、いい経験がたくさん積めると思うからね。
では体調には気をつけて、くれぐれも風邪には注意するんだよ。ひいて辛いのは自分だからね。それじゃあ、バイバイ。」
「あっ…あの、ちょっと創さん…」
呼び止める掛け声も虚しく、またしても白面の世界からいつもの見慣れた自身の部屋へと一瞬で移り変わると、私は気づけばベットの上で呆然と立ち尽くす形となっていた。
去り際の最中、創さんのほくそ笑んだ表情から垣間見えた、白く光り輝いた歯が印象的で、あの人はとても楽しそうだった。
そんな彼の最後の助言が脳裏によぎる。
あの二人とパーティを組む…それってすなわち、実はあの二人もアイドルになりたいってことだよね?
要はみんなでアイドルを目指しなさいってコトだわ…
っと言うことは、ソフィも口では散々なことを言っていたけど実はアイドルになりたかったんだ…
そうか…素直になれない子なのね…
にしても意外なのはダンの方。まさか…ダンまでアイドルを目指していたなんて…
創さんの言い方からして、要は男女混合のアイドルグループをつくれってコトだと思うけど、
私の勝手な思い込みかもしれないけどアイドルの男女混合グループってあまりヒットしないみたいな印象があるから、実際乗り気はしないけど…
でも、創さんの助言のおかげでリリィ先生やソシエに会えて、その結果、音痴も治り、自身の能力も掌握出来て、アイドルに一歩近づけた訳だし、
なによりあの人の助言にはご利益があるんだよね…でも、それにしたって男女混合グループはなぁ…
そう頭の中で葛藤していたが、勝手な偏見や思い込みがある中で考えても仕方なく、創さんが言っていたように思い立ったが吉日。
要は行動せよ。ってことだと理解した。
なにより私自身、居ても立っても居られない。
なにせ一度失いかけた分、出来るだけ早く夢を実現させたがっている。
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