第46話分岐②

ランとの不毛なやりとりを終えた後、すぐさま自宅の自室へと帰って来ると、全てを悟った私は崩れ落ちるかのようにベットの上へとうつ伏せに倒れ込む。


枕に顔を埋め、精神的には二十歳を超えているのに余りの悲しみで溢れ出る涙の止め方がわからない。


漏れ出る心の声を両親に聞かれないよう更に深く枕へと顔を埋める。


「わーん、アイドルが存在しないなんて、私どうしたらいいのよぉー‼︎

そもそもなんでこんな世界に生まれちゃったの…


あぁ…私はもうアイドルにはなれないんだわ…じゃあ、これから私はどうすればいいの?なにを糧に残りの人生を生きていけばいいのよ…


ねぇ…誰か教えてよ…しくしく…」


独り言のつもりだった…


前世、今世を踏まえての長かった生き甲斐を失い、弱った心が独りでに吐いた泣き言のつもりだったのに、あの人物はちゃんと聞いていたのだ。


弱音を吐き終えるや否や、柔い枕や布団の感触は一瞬にして失われ、地べたのような硬く冷たい感触が入れ替わるように肌へと伝わって来るとそのことに驚き、


「ひゃあ!冷たい‼︎なにコレ⁉︎」


不可解な出来事に悲しみの感情は掻き消され、私は慌てて上半身と頭を上げると涙でぼやけた視野で辺りを見渡すが、そこはなにも物体が存在しない全てが白一色に覆われた空間。


「ウソ⁉︎ここって…」


「そう。白面世界さ。ようこそエリー。」


不意に背後から聞こえた声にまたしてもおどろかされると、その反動によって慌ててその場から起き上がる。


「ひゃあ⁉︎」


そして、声のした方へと視線を振り向けると案の定そこに居た人物は…


「うっ…眩しい…」


「あっ…ごめんごめん。眩しすぎたね。僕、いい男過ぎたね。」


地球の創造者こと、創さんだった。


「ちょっと輝きを抑えるから待っててね。」


前にもこんなやりとりをしたなっと思いながらも、彼から発せられる光を手のひらで遮っていると、ものの数秒もしないうちに輝きは収まる。


なのに不思議なことに、相変わらず創さんの全体像の輪郭くらいしかはっきりとは目視できない。


「久しぶりだね、エリー。元気にしていたかい?僕はとっても元気だったよ。」


私を気遣うように聞いてはいるがあの発言の後のこの場だ。

どうせ私の私生活は覗き見されていたんだろうと理解すると、自ずと返事は質問へと変わっていた。


「…あの、なんで私はここに?今回はなにが理由で呼ばれたんですか?」


「おっと!僕の挨拶はまるっきり無視して、いきなり本題を追求してくるなんて、エリーもなかなか強引な手法を使うようになったね?」


「…すいません。無視した訳じゃなくって今は…ちょっと落ち込んでいた所だったんで…

っと言うか、きっと見てたんですよね。

一部始終を…だから、私はここに呼ばれたんですよね…?」


「そうだね…見ていたよ。確か…財布を無くしたから泣いていたんだよね?」


「全然違います。」


「はっはっは。エリー、今のは冗談さ。創ちゃんジョークさ。」


「…。」


「っと、いけない。悠長に世間話しをしている時間は僕達にはないんだった。

そうそう。キミをここに呼んだのはお察しの通り…」


「…この世界にアイドルは存在しないことを知って落ち込んだ私を…励ます為ですか?」


「エリー…キミは妙な誤解をしているね?励ます?違うよ。コレはチャンスさ、」


「チャンス?…そんな訳ないじゃないですか、前世からあれだけなりたかったアイドルへの道が閉ざされたんですよ!

それのどこがチャンスなんですか‼︎」


「僕からしたらそこが不思議なのさ、なぜ存在しないからアイドルにはなれないとそう結論づくんだい?」


私は創さんの質問の意図がわからず言葉を濁してしまう。


「そ…それは、だって、存在しない職業なのに…どうやってそれになれって言うんですか…」


創さんはそんな返事を聞くなり数秒の間を置いた後、私に向かって背中を向けると後ろで手を組み、何もない白い空間の中で、まるで空でも見上げるように顔を上げこう言った。


「アイドルと言う概念が存在しなければ、アイドルにはなれないのかい?エリー、それは違うんじゃないかな?」


「えっ…?それって…どういう意味ですか?」


「アイドルっと言う職業がないのなら、キミが作れば良いんじゃないのかな?」


「わっ…私がアイドルっと言う職業を作るんですか⁉︎む、無理ですよ…とてもそんな…

そもそも今後どうしたらいいのかもわからないのに…」


創さんはそんな私の言い訳など聞いていないかのようにある一言を言い放つ。


「始まりのアイドル…なんて、良い響きだとは思わないかい?」


創さんの横顔が少しだけこちらを向くと、私は無意識に彼の言い放った言葉を復唱していた。


「はじまりのアイドル…ですか…?確かに…いい響き…ですね…」


「わかってくれたかい?僕の言いたいコトが…キミはね、ありきたりなどこにでも居るようなアイドルなんて存在ではなく、

もっと特別な…始祖になるっと言うチャンスをこの世界で与えられたんだ。」


「始祖…」


「そうだね。キミは後にこの世界でこう呼ばれることになるのかもしれないね…

始まりのアイドル。エリー…っと、」


「…やります……わたし、やります!なります。始まりのアイドル、エリーになります‼︎」


こうも簡単にコトが想定通りに動いたことにより、創の口元がいびつに微笑むと、エリーには聞き取れないような小声で、「良い子だ。渚…」そう呟いた。


そして、そんな発言は無かったかのように続け様に、


「…わかってくれたようで嬉しいよ、エリー。

コレはねキミにとって終わりではなく、これ以上にまたとないチャンスなんだよ。」














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