第48話家族会議

それから程なくして夕飯どき、家族三人で食卓を囲う中、私は両親にアイドルを目指して冒険者になることを打ち明けていた。


それは若干八歳にして、王都オラシェスタットへ上京することを意味していて、当然ながら二人は大反対するだろうと思っていたのだが、それは杞憂だった。


二人は初めは驚いた表情をしていたが、程なくして真剣な面持ちへと変わるとお互いに視線を合わし、少しだけ頷く。

そして、二人の視線が再び私に向くと両親の表情はどこか寂しげだ。


「…そうか、とうとうこの時が来たんだね。」


「エリザベス様にお会いした日から、いつかこんな日が来ることを覚悟はしていたけど…あなた…まさかこんなにも早いとは思っていなかったわね…」


意外だったのはアヴェントもエセルも驚きはしていたもののたいした反対もなく、むしろ素直に受け入れてくれたこと。


そして、その理由も母エセルの発言を聞いてどことなく納得できた。


リリィ先生が初めて両親と会った時、私には大いなる宿命がある。みたいな変な流れが出来ていたが、よくよくそれが功を称していたようだ。


私はただアイドルを目指しているだけなのに勇者か聖女になる。ならない。がどうのこうの…

あの時のやり取りのお陰で既に二人には私が宿命のもと、そう遠くない日のうちに親もとを旅立つだろう現実を受け入れていたのだ。


…にしても、八歳で上京するのを認めるって凄い価値観だわ…


やはり、創さんが言っていたように、地球とこの異世界では常識が違うのだろう。

そう言えばダンやソフィだって、十歳と九歳で冒険者ギルドに登録しているんだし、この世界では割と一般的な話なのかも…?


などと考えていたのも束の間、


「エリー、冒険者を目指したいのなら反対はしないよ。きっと強力な能力に選ばれた者の宿命なんだろうしね。

だけど、エリーはまだ子供だし、世間の仕組みをまだよく理解していないと思うんだ…

かと言ってパパやママはここを離れる訳にはいかないし、残念だけど着いて行くことが出来ない。


それにエリーにしたって、いきなり王都に行って冒険者として出稼ぎするにも住居もなければ、金銭的にも余裕はないはず。

ちなみに向こうでどうやって生活していくかなどの計画はあるのかい?」


当然のことながら、アヴェントに言われた通り、計画はない。

昔から薄々とは考えてはいて、家事や両親の仕事の手伝いをし、お小遣いをもらい、いつか上京する為にお金を貯めたりはしていたが…王都がどうゆう場所かもわからない。


なにせ今回は創さんに言われたから突発的に行動しただけ…


「うっ…でも…」


言葉を詰まらせる私を見て、アヴェントはしばしの間をおくと、それでも発言を撤回しないからか、私にある提案をしてきた。


それは上京するにあたって、私に保護者をつけると言うものだった。


その人は両親がとても信頼している人物らしく、私がなろうとしている冒険者を生業としている、言わば先輩冒険者であり、

その実力はなんと冒険者では実質トップに位置するCクラス冒険者らしい。


「で…でも、私の保護者など頼んでも大丈夫な方なんですか?」


「実はいつかこんな日が来るんじゃないかと、その時が来たらエリーをお願いしますとブロックさんに頼んでいたんだよ。」


「えっ!保護者はブロックさんなんですか⁉︎」


「…の娘のサンティエラくんだね。彼女も快く承諾してくれたよ。」


「娘さん?」


「そうよ、エリー。ティエラちゃんはまだ若いのにもうCクラス冒険者になっちゃうくらい、冒険者として有能な子なのよ。」


エセル曰く、そのサンティエラと言う人物は数少ないBクラス冒険者でもあるブロック・ストロングの次女にあたる娘で、

齢十八にしてCクラス冒険者であり、今では王都にあるギルド内ではトップクラスの実力者のようだ。


ただ…普段は笑顔を絶やさない礼儀正しい人らしいが怒らすと父親譲りの鋭い眼光から放たれる眼力によって、いつからか"凄みのサンティ"の異名でギルド内では恐れらている存在だとかなんとか…


「…」


「だからね、エリー。ティエラちゃんに余り迷惑はかけちゃダメよ。いい子でいなさい。」


「…はい。」


なんて人を保護者として付けてくれたんだと思いながらも、だからこそ、荒くれ者も多いとされる冒険者ギルド内でも安心でき、冒険者としても一流な彼女だからこそ、色々な危険からも身を守ってもらえるようだ。


それに普通にしてればそうそう怒ることもないらしいく、とにかく可愛いモノが大好きな女性なようだ。


私は二人の条件を受け入れると、翌日、アヴェントはブロックの奥方でもあるルイズに話を通すと、そこから早馬を出し手紙を送っても、サンティエラが迎えに来るまで一週間程時間がかかるとのことで、


私はその間、上京の支度を進めながら、当面の間会えなくなるであろう両親の仕事を手伝いながら、二人との残りの時間を名残惜しむ。


そして、時間は過ぎ去り、ルイズから明日サンティエラが迎えに来ることを教えてもらうと旅立ちの日の前夜。

私達は久々に家族三人でベッドを共にすることとなった。

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