第49話門出

翌朝、私達は朝食を頂いたのち、最後の身支度の確認を終えると、まるで頃合いを見計らったかのようなタイミングで玄関の扉が誰かが来たことをつげるノック音を立てた。


とうとう来たのだ。私の王都での保護者、サンティエラが。


私は数日分の着替えと生活必需品を入れたリュックを背負い、緊張の中、両親とともに玄関へと向かう。


そして、扉を開け、日差しが室内に入り込んでくると逆光を背に佇む、初めて対面するブロック・ストロングの娘は…


父親とは似ても似つかず、艶鮮やかなブロンドヘアーを腰の辺りまですらりと伸ばした目鼻立ちの整った美少女で、

更に細身でしなやかでありながら、衣類の上からでもわかる適度に鍛えられているだろうその肉体美は、薄手の鎧、細身の剣を携えることで、まるで女性聖騎士のようないでたちは格好良さまでもかね揃えている…


私はそんな彼女を見て唖然とした。


本当にブロック・ストロングの娘だろうか?

いや、これは人違いなのでは?


だって、あの筋肉と巨体から来る暑苦しさは微塵も受け継いでおらず、むしろ笑顔を絶やさないその表情に陽だまりのような暖かささえ感じる。


本当にこの人が"凄みのサンティ"と呼ばれる程の恐ろしい人なのだろうか?

っと言うか、この人は母親のルイズ似だ。


「お久しぶりです。アヴェント様にエセル様。

それとこんなに朝早くから、そして、随分とお待たせしてしまい申し訳ありません。」


彼女は剣の柄に片手を添え頭を下げた。


「いえいえ、そんなことないのよティエラちゃん。寧ろ無理を言って来てもらったのは私達の方なんだから頭を上げて。」


「そうだよティエラくん。さ、こんな所で立ち話もなんだから家に上がって、」


「あっ…いえ、馬車の出発時刻もありますので、」


「大丈夫よ。出発の時刻まではまだ時間があるわ、」


「そうだよティエラくん。さっ。さっ。」


両親に促され、サンティエラは我が家に上がると、私はまだ出立しないことに気づき、背負ったリュックを玄関先に下ろした…


そして、一度リビングへと戻り、アヴェントと私、サンティエラがテーブルの席に座ると母エセルは人数分用意された茶菓子を各々の前に置いた。


「さっ、ティエラちゃん、たいしたものは出せないけど遠慮せず食べていってね。」


エセルはサンティエラに茶菓子を食べるよう促し、それを後押しするようにアヴェントも、


「冷めないうちに沢山たべておくれ、我が家自慢の特製クッキーだからね。」


「はい。ありがとうございます。…ん!出来たてですか?温かくってサクサクですね!

それでいてほんのり香るバターの甘みが口の中に広がってとても美味しいです。

流石は奥様。お料理もお上手なんですね、」


「まぁ、ティエラちゃんったら、沢山お褒めいただきありがとうございます。ウフフ。」


「フフフ。」


二人が微笑み合う中、アヴェントは時間もあまりないことから、まずは彼女に感謝の意を伝えた。


「それにしても、今日は遠路はるばるご足労頂きありがとうございます。」


「い、いえ、そんなお気になさらずに…なにより今回の件は私が自ら望んでやって来たことですので…」


そう言い終わるとサンティエラは私を見て「ねっ。」っと微笑み、私もアイドルの性質がてらもあり、笑顔には笑顔を釣られて返すと、


「わっ!!」っとサンティエラが肩を軽く揺らし驚いた。


私はまたしても無意識に能力【笑顔の力】(アイドルパンチ)を発動してしまい、勝手に能力をかけてしまったことに罪悪感を感じ、


「あっ!ごめんなさい!勝手に能力が発動しちゃって…」


「フフッ。気にしなくていいのよ。これが噂に聞いていたエリーちゃんの能力なのね。ウフフ、心地良いわ。

それに私の方こそいきなり変な声をあげてしまってごめんなさいね。驚かしちゃったね。フフ。」


「い、いえ…」


私は事前に聞かされていたこの人への怖いイメージは覆され、なんなら、この人となら上京生活も上手くやっていけるかもしれないと感じた。


するとサンティエラはそんな私の表情をまじまじと見てくると、


「フフフ、ご両親のいい所どりをした可愛い子ですね。目尻はお父様似ですかね?」


その一言を聞くなりアヴェントは待ってましたと言わんばかりの勢いでテーブルを両手で叩くと、衝撃と共に立ち上がり、


「そうだろう‼︎流石はティエラくんだ。エリーは僕達のいい所どりをしていて、とても可愛いいんだよ。」


「はい。そのお気持ち、よくわかります。」


「なのに…皆んな母親似だの言って、誰も僕似だなんて言ってくれないんだ…それは例えブロックさんでも…」


「アハハ。すみません。ウチの父が気も利かず、どうかお許しください。フフフ…」


「まったく、あなたったら…さっきから何を言っているの…ティエラちゃんが困っちゃうじゃない。

でも、良かったわね。そう言ってくれる人が現れて…やっぱり、ティエラちゃんにならエリーを安心して任せられるわね。」


「まさに同意だ!!ティエラくん。

キミには大変な役割をおしつけてしまい心苦しいが…」


アヴェントが会話の語尾を口籠ると、エセルと視線を合わし、それを受け取ったエセルはアヴェントの隣に立つと二人は声を重ね、「「どうか、エリーのことをよろしくお願いします。」」っとサンティエラに頭を下げた。


そんな両親の姿を見て、私も慌てて彼女に向かって「よ、よろしくお願いします。」っと続けて頭を下げた。


すると、そんな私達家族の姿を見た彼女は、席から勢い良く立ち上がると姿勢を正し、胸元に右手の拳を当て、


「はい!私めにお任せを!ご息女エリー嬢はこのサンティエラ、命にかえてでも必ず守り抜く所存です。」


こうして、私の新たな門出が始まったのだった…

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