第34話リスティヒ、抗う
シスターの朝は早い。
未明午前3時には起床し、そこから一時間ごとに教会の鐘が鳴るたび神への祈り。
朝の9時頃からは畑作業。
日中になる頃には石鹸やらクリーム作り。
そして子供達へ読み書きや裁縫を教え、夕方15時頃に昼食。そして、また神への祈り。
そうして夜の21時頃、軽く夕食を食べた後ようやく睡眠だ。
それを六日繰り返し次の日にようやく祝日。
そんな毎日を私は繰り返して来た訳だが、今日と言う日はいつもと違い、私の日常が大きく様変わりしていた。
昨日の出来事もあり、リスティヒは疲労からか、目を覚ましたのは時刻が朝の六時頃。
いつもの起床する時刻からは大幅に時間が過ぎている。
だからと言って彼女は慌てる訳でもなく、いつものように適当に神への祈りを捧げ、使徒職をこなす為、部屋を出るなり同僚の皆に笑顔をつくり挨拶をする。
「おはようございます。」
いつもならにこやかに挨拶を返してくれる同僚達が今日に限っては返事を返してくれない。
リスティヒは自身がなにか皆の感に触れることでもしたのだろうかと考えたがなにも心当たりなどなく…
なのに同僚達とすれ違うたび、皆が皆、自分を睨みつけているような錯覚に襲われる。
寝坊したからだろうか?いや、そんなことは誰もがやっていることだ。
するとエロジジイこと、この教会で一番上の立場でもある司祭から懺悔室へと呼び出されると、昨日、なにをしていたのかを問いただされた。
真実を話す訳にはいかないので、彼女は咄嗟に事実に嘘を混ぜ祭司に聞かせた。
すると司祭は頭を抱え、実は彼女にある容疑が掛かっていることを極秘裏に伝える。
それは、リスティヒが人攫いに協力しているのではないかという疑惑。
予想外の話を切り出された彼女は、内心、動揺を隠せないでいた。
なぜバレた?このエロジジイはどこまで知っている。いや、そんなことはこの際もうどうでもいい。
事実だろうが、例え無実だろうが、こんな噂が広まった時点でここでの生活はもう終わりだ。
彼女は自身の身に危険が迫っていることを理解し、早くこの場をなんとかやり過ごし、今すぐこの村から逃げ出さなくてはいけない。っと考える。
「司祭様お願いです。信じて下さい!わたくしはそんなことは致しません。」
「いや…その…キミを信じたいのだがね…」
リスティヒには口ごもり、煮え切らない態度の司祭の相手などしている暇など最早無い。
今すぐこの場から逃げ去る為、司祭の返事など待たずして、突如、彼女は涙ぐむと、
「ぐすっ…司祭様は…私のことを信じて下さらないのですね…ぐすっ…酷いです…ぐすぐす。
しっ…司祭様のバカァーーー。シクシク。」
「まっ…待つのだ…待ってくれーー!リスティヒーーッ!!」
リスティヒは無罪の罪を着せられた弱者の女を演じ、涙を流しながら勢いで逃げきる作戦を実行した。
だが、そうコトが上手く運ぶ訳もなく…
懺悔室の扉を開け逃げ切ろうとした瞬間、彼女の前にはメルロ等が立ち塞がり、
リスティヒはその姿を見て躊躇し、不覚にもその場に足を止めてしまう。
「す、すみません。グスッ…私、グスッ…そこを通りたいのですが…」
「申し訳ないのですがそうはいきませんよ。リスティヒさん。」
「なっ、何故ですか…グスッ…まさか…メルロ様もあんな根も葉もない噂を信じていらっしゃるのですか…グスッ、
私、そんなことが出来る人間ではありません…」
リスティヒは焦る。こいつ等の説得などしていられない。早く教会から…この村から逃げ出さないと…
残す手立ては勢いだけだと彼女は覚悟を決めて、
「皆さん酷いです‼︎」
彼女達の立ち塞がる間の隙間を狙ってすり抜けようとしたのだが、ソシエが一歩前へ踏み出すとリスティヒの首元に手刀をかまし、
「ぐえッ⁉︎」
その衝撃でリスティヒは地面に倒れ、叩かれた首筋を押さえながら地面にひれ伏し泣いた。
「なぜ!なぜ…皆んなして私を虐めるんですかぁ‼︎わぁーーーん!」
こうなったら徹底的に弱者を演じ、同情によって隙を引き出すしかない。
それに引っかかるように懺悔室から追いかけて来た司祭が倒れた彼女を抱き抱え、
「リスティヒーッ!?大丈夫か!」
司祭はメルロ達を見ると、
「し、失礼ですがメルロ様。彼女は長い間この教会に…神に尽力してまいりました。
その分、私はあなた様方よりも彼女のことをかねてよりよく存じ上げております。
リスティヒは昔から誰にでも優しく、平等でいて、お淑やかであり、それでいて可憐で儚げで…
人より若干気の弱い彼女が本当に人攫いなどと非人道的な行いが出来る人間とは…私には到底思えませぬ‼︎
しょうめい…そう!なにか証明出来るモノはおありでしょうか⁉︎」
「えぇ、ちょうど今、彼女に誘拐されかけたと言う子供達を連れて来ますので、
この場でお待ちを、では、ソシエさん。」
「はい。少々お待ち下さい。」
リスティヒは耳を疑った。
誘拐されかけた子供達?まさか…アレからあの娘共が救出でもされたのか?
だとしたら…まずい……
その推測が的中したかのようにソシエが二人を連れてこの場に戻ってくる。
「おはようございます。」
「おはようございます。」
「おはよう、エリーさん。ソフィアさん。」
リスティヒは二人の無事な姿を見た瞬間、全身の血の気が引いていくのを感じた。
なぜこの場にいる?救出されたのか?あの状況から?一体どうやって?
いや、今はそんなコトを考えている場合じゃない!!
リスティヒは時間を稼ぐ為、司祭の胸元で泣き喚き、二人に顔を見せないことにした。
「二人を連れて来ましたよ。さぁ、リスティヒ。彼女達にその顔を見せなさい!」
ソシエの発言など無視し、リスティヒは未だ泣き止まない。
ただ、その最中、彼女は必死に考える。じゃあ、キドナップ達は捕まったのか?
それだとまずい。今は拷問中か?
私のことを全て喋ったのか?
いや、だとしたら孤児院の子供達を売買屋に流していた話がでてこないはずがない!
そうだ‼︎こいつ等が先程から私にかけている容疑は誘拐だけだ。
そして、それを証明出来るのはこの二人だけ、
なら徹底的にシラを切るしかない。
最後の最期まで悪あがきする!!だって…
認めれば想像を絶する程の拷問の末、縛り首。
例え命を拾えたとしても待っているのは、去勢されて人類防衛の最前線、壁送りにされて魔族に怯えながら死を待つ日々だけだ…
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