第42話初めての戦い
一時的に気を失っていたらしく、意識を取り戻した時には周辺の景色は黄昏れ刻となっていた。
僕は先程の出来事を思い出し惨め過ぎて泣きはしたものの、懸命に足を引きずりながら日が暮れる前になんとか下山しようと奮闘していた。
なにせ松明さえ持っていないのだ。完全に日が落ちれば暗くて身動き一つ取れなくなる。
そんな中、山腹から麓を見渡した時、地の果てまで続く森の中から空に向かって煙が立ち登っている場所がある。
僕はそれを見つけるなり、きっと彼等以外の冒険者がキャンプしているんだと願い、助けて貰おうとその場へ急いで向かったのだが…
そこに居たのは成人男性程の大きさの人ではない人型の生物。
ネズミのような薄汚れた灰色の肌、特徴的な大きな耳や鼻は先端に向けて尖っており、醜くも凶暴そうな見た目をしているそいつらは粗悪な甲冑を着込み剣鉈や斧などを腰に掛け、武装している。
こいつらの種族名はホブゴブリン。ゴブリンの上位種だ。
僕は自ら奴等の住処へと赴いてしまい、身の危険を感じ慌てて身近な草むらの中に隠れたのだが、この状況、もはや下手に動けず…
そう遠くないうちに周辺の景色も暗くなり、このままでは暗闇によって視界を奪われ身動きもままならずに、いつかは見回りによって見つかってしまうかもしれない。
例え運良く逃げきれたとしても他の凶悪なモンスターに出くわす可能性も否めない。だからこそ、ここは最終手段を取ることとした。
彼等には教えてはいなかったが、僕は付与したきび団子をいつでもどこでも解除できるのだ。
今日まで1日も欠かさず彼等に能力を付与し、魔力も限界まで変換してきた僕のきび団子の総額は65700個。
その全てを手元に戻すが、僕はパンツ一丁。
防御力には多少の不安が残るのでパンツにきび団子、上限9999個付与。
手持ちの武器がないので草むらに落ちていた木の枝を拾い、ソレにも9999個付与。
準備が整いこの場から逃げようと体勢を動かした時、不覚にも地面に落ちていた木の枝を踏み、パキッと枝の割れる音が周囲に広がった…
当然ながらホブゴブリンの群れはその音を聞き逃してくれなどせず、彼等の視線は僕を捕らえるなり一斉に襲いかかって来たので、
僕は恐怖の余りパニックとなり、手に持っていた木の棒をホブゴブリン達に当たりもしない距離から宙に向かって闇雲に振り回してしまう。
すると振りかざされた木の枝の直線上にいた敵の数体が、まるで体がプレスでもされるかのように血飛沫をあげ地面へと押し潰されてゆく。
そう。木の枝の描いた軌道に沿って剣圧、もとい発生した風圧がボブゴブリン達を押し潰しているのだ。
奴等は仲間の不可解な死に多少は動揺したものの、獲物は見た所、パニックになり闇雲に木の枝を振り回しているだけの素人。
攻撃の軌道はデタラメで読みにくいものの、大振りな素振りに加えて、無駄に力み過ぎてもう息を切らし始め動きも鈍くなってきている。
こうなれば当たりもしなければ避けるのも簡単だ。それに数で勝る彼等はただ波の様に押し寄せるだけでいい。
案の定、距離を詰められると僕は彼等の持つ刃こぼれした剣や錆びた斧などで体中を滅多刺しにされて死んだ…
…かと思ったが全然痛くない。
いくらパンツの防御力を上げたとは言え、肌を露質している部位には刃が通ると思っていたが、どうやらその考えは間違っていたようだ。
ホブゴブリン達は動揺を隠しきれないでいる。いくら斬りかかってもかすり傷一つ付けられないからだ。
そして、近寄りすぎたのが仇となり、コクウが振りまわす木の枝に次々と当てられ、ホブゴブリンは味方の数を一気に減らしていく。
こんな敵には今まであったことがない。
未知数の力を持つ強敵を前にホブゴブリン達は劣勢を感じとると住処を捨てこの場から逃げ去ることとした。
コクウも敵前逃亡した敵を追いかけることなどしない。今はなによりも生き延びることが最優先だからだ。
「た…助かった。」
死のイメージが何度も脳裏を過ぎったが、それでも生き伸びることができ、人生でこれほど安堵したことがあっただろうかとその場にへたり込むと、
全身から疲れがどっと押し寄せ、なんなら、ここで一夜を明かすという手もあるんじゃないかと考える。
だが、奴等の住処をくまなく散策してみたが、どこもかしこも汚く衛生上よろしくない。
それに油断するのはまだ早い。なにせ全滅させた訳ではないのだ。
奴らがいつ戻って来ても不思議ではなく、寝込みを襲われる可能性さえ有る。
なのでゴブリンの住処から片手剣と松明を拝借し、他にも色々物色していたら丁度サイズが合いそうな衣類を発見すると、
その側に落ちている、人のものだと思われる無数の白骨遺体に手を合わせ、誰が持ち主だったかはわからないが許可を願ったのち袖を通す。
僕は次に木の枝からきび団子を回収し、新たに手に入れた武器と衣類に能力を上限まで付与すると、準備が整ったので暗い山道を歩いて、ここから一番近い村へと向かうことにした。
それから数キロ程は運良く魔物にでくわすこともなかったのだが、松明の灯りが周りを薄暗く照らす中、突如、進行方向の先の地面にしゃがみ込み丸まった大柄な人型生物の背中が現れたのだった…
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