幼少期編

第4話新たな両親

目の前には新たな母親、エセルがいた。

彼女は生後八ヶ月になる我が子を猫可愛いがっていて、


「あんよが上手。あんよが上手。」


っと手招きをしていた。

精神年齢が十三才の私でさえ、赤子の体となると一人では上手く歩けない。っと言うか扱えない。


一人で練習しても良いのだが、万が一、転んで頭を打ったり、怪我でもしたらいけないので、今はエセルに手伝ってもらっている最中なのだ。


まぁ、実際問題、赤子を演じなければいけない訳だし…そうこうしている内にエセルの元までたどり着くと、


「きゃー‼︎エリーちゃん。よくできまちたねぇ!んちゅ。んちゅ。」


私を抱きかかえ、ほっぺにキスをしてくる。前世の記憶があるだけに精神的にはなかなか辛い状況だけど、エセルにとっては初めての我が子だから、私はなされるがまま受け入れている。


でも、エセルよりも厄介なのが新たなる父親のアヴェントで、エセルは頬擦りや、ほっぺへのキスまでだからまだマシだけど…


「きゃー‼︎パパにも貸してー‼︎」


アヴェントはほっぺだけでは済まなく、唇にまでキスしようとしてくるから、


「やぁべろー。(やめろ。)」っと両手で阻止する。


初めての我が子。それも愛娘に拒絶され、この世の終わりのような表情をするアヴェントには悪いのだけど…


前世、今世を含めたファーストキスを新たな父である貴方に捧げることはできないの…


だからごめんなさい。アヴェント。


そこは分かって…


放心するアヴェントからエセルが私を取り上げると再び抱きかかえ、


「今、やぁべろって…あなた。エリーが初めて喋ったわ‼︎」


私はどうやらこの体になってから初めて喋れたみたいだ。

声帯がまだ出来上がってないのと、ようやくこちらの原語がなんとなく理解出来てきたところだったからかな?


「やぁべろって、やめろって意味かしらね?

エリー、今、やめろって言ったんでちゅかー?」


新たな母は相手の傷口に塩を塗るタイプなのだろうか?


なにせ初めて喋った言葉が自身を拒絶した言葉だと知り、アヴェントは更なる追い討ちを喰らうと足にダメージがきたのか、その場に立っているのも辛そうだ。


それにしてもこの二人、始めての我が子というのもあるのだろうがかなりの親バカだ。


最初は他人行儀だった私も、いつも甲斐甲斐しく世話をしてもらい、ここまで愛してもらえたからかこそ、二人を信用することができたし、この現実をだいぶ受け入れるコトが出来た。


それに、よくよく見れば二人共なかなか容姿端麗で美男美女な夫婦でもある。

二人共若く見えるし、まだ20代前半っと言ったところだろうか?


母エセルは細身の長身だ。甘栗色の綺麗な髪が胸元辺りまで伸びていて、童顔で可愛らしい顔をしている。


父アヴェントはエセルより多少背が高く、日本人男性の平均身長より少し高いくらい。

髪は肩辺りまでスラリと伸びていて男性にしては長髪。ちなみに長方形型フレームのメガネをかけた優男て感じ。


アヴェントはちょっと弱そうだけど、この二人の子ならルックスは期待出来るかも知れない。


なにせ、私にはこの世界でも目指さなければいけないモノがあるのだ。

それはなにかと聞かれたら、答えは決まっている。


前世では夢半ばに終わってしまったアイドルへの夢を、今世では必ず叶えてみせる‼︎


故にルックスが良いコトに越したコトはない。本当はすぐにでも確認したいのだけど、私はまだ赤ちゃん。

よちよち歩きだし、まだこの家の中を自由に探索はできない。


よくエセルに抱っこされながらリビングとかに連れていかれたりもするんだけど、この家…もしかしたら鏡とか無いかも知れない。


それ以前にテレビも冷蔵庫も無い。


家は木と石を基本として造られた二階建ての建築物でそこそこ広いのだけれど、前世で私が住んでいた家の方が綺麗だったし快適だった。


なにより室内に照明器具もなく、夜は蝋燭を焚いていたり、暖炉があって家には煙突が付いている。


両親が着ている服は中世ヨーロッパの人が来ていそうな服ばかりだし、金銭的に最新の衣服が買えないのかもしれない…


子供部屋の窓から見える景色は自然豊かで、どこか田舎の田園地帯のよう。

一面に広がる小麦畑だったり、水郷があったり、景色は綺麗だけど生活するには多少、不便そうだわ。


もしかしたら新たな両親はお金に苦労しているのかも知れない。若い身空で考えもなしに結婚して、子供まで生んで…


だからこそ私が早く大人になってトップアイドルになれれば、お金を稼いで二人に楽をさせてあげられる。


そう覚悟を決めてからは早くアイドルになれるようにと前世同様、訓練に明け暮れる日々が待っていた。


赤ちゃんだからって甘えず、まだ上手く喋れないながらも歌の練習。

ダンスはまだ無理だから、しっかりと歩けるようにと歩行の練習。


アウアウ歌ってただけだけど、両親は私の歌を聞いてよく喜んでくれた。


ただでさえ陽気な二人が私の歌声を聞いて更に陽気になっていったの。

そんな二人の姿を見るのが好きで、歌うことが更に好きになたわ。


そういった日々が続いていくうちにある時、


体の内側、胸の奥辺りからナニか温かいモノの塊を感じると、それが胸元から喉へと流れ歌声に乗り、外へと流れでる感覚を覚えた。


これがなんなのかわからないけど、私はなんとなく歌声が進化したかのような印象を感じていた。


前世ではこんなこと感じたことなどなかったけど、これが経験を積むってことなのかも。

っとこの時は深く考えてなどいなかった…












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