第37話裏方
初めての…それも異性の我が子はより一層可愛いとは言うが、まさかここまで愛しいとは…そうアヴェントは思う。
初めて彼女を自身の手で抱いた時、自分の命に替えてでも彼女を守り抜こうと心に誓うのであった。
それからというもの、彼女はすくすくと成長していき、誕生からわずか数年で早くも能力の鱗片がその姿を垣間見せていた。
見ている相手を不思議と元気にしてくれる踊りと、聴いた相手の五感を狂わす歌声なのではないかと分析する。
自分を守れるくらいの能力なら親としては有難いが、強力過ぎる力にはどうしても強大な宿命が纏わりつく。
アヴェントとエセル。二人は迷っていた。
このままエリーに能力を扱えるように教育するべきか、はたまなエリーには能力を使わないように教育するべきか…
正直な所、娘には普通の人生を生きて普通の幸せを手に入れて欲しい。
そんな親心が能力を使わないように教育するべきだと何度も訴える。
だが、両親である二人に与えられた役割は娘に目一杯の愛情の注ぎ、一人前の人間になるよう教育し、彼女が巣立つまでの間、魔の手から守り抜くこと。
彼女の能力が本物で宿命に選ばれたのなら、自ずと運命の方からもそうなるように誘導を仕掛けてくる。
違ったのならそれはそれでいい。他の誰かが宿命を背負ってくれるはずだ。
二人はきっかけなどというものが本当にやって来るのかどうかを座して待っていればいい。っと考え直す。
だが…きっかけとやらはそんな二人の考えを嘲笑するかのように自ずと早くやって来た。
前戦の英雄の一人でもあり、現勇者のかつての恋人でもあったエリザベス・メルロが娘の指導者として選ばれ、二人の前へと現れたのだ。
アヴェントとエセルは驚愕し、同時に宿命を受け入れた。
そして、運命は新たな結び付きを与える為、娘に新たな試練を課す。
そのきっかけとなったのが、娘の新たな日課となった教会への通学。
アヴェントも行きと帰りに娘を送り迎えするのが日課となり、そんな日常が数日繰り返されたのちのある日…
その日も授業が終わる時刻を見計らい教会入り口辺りで待機していると、教会裏の別館からこちらに向かって歩いて来る娘と合流し、二人で帰路へと着く。
すると帰り道の途中で何者かの悪意がアヴェントの最上級能力【危機察知】に引っ掛かったのだ。
この能力は自身の身、もしくは自身の大切な人物に危険が迫ると発動し、
その原因を特定出来るという能力である。
アヴェントは危機察知によって悪意が迫り来る方角を感じ取るとそちらへと視線を向けた。
するとシスター服を着た女性の姿が脳裏に写り、
「リスティヒ・シム・ラーティオー…千里眼か…」
この時、リスティヒの正体は既に特定されていた。そして、悪意の内容さえも…
この人物はかなりエリーに執着していたようで、何度も千里眼を使い娘のことを覗き見しようと試みており、
アヴェントが対抗策として取った行動は常に娘の側にいることだった。
悪意ある視線を感知したらすぐに対応できるようにと…
肝心のエリーはと言うと、どこへ行くのにも常に付き纏って来る父親に多少の疎ましさを感じていたがらも、結局の所、それはアヴェントがいつもしている行動となんら変わらないことだった。
翌日の朝、アヴェントはエリーをメルロ達の元まで送ると、いつもなら自宅兼職場でもある我が家に帰るのだがこの日はまだ帰らず、
親友と呼ぶには年齢が離れ過ぎてはいるが、
Bクラス冒険者の肩書きを持つ、ブロック・ストロングの住まいへと赴く。
彼の家の前まで来るといつもの通り、家の庭先でトレーニング兼肉体美をお披露目している彼を呼び止める。
ある頼みごとを依頼する為に、
「おや⁉︎先生ではありませんか‼︎」
「いつもながら、朝早くから精が出ますね。」
「ワッハッハ‼︎いくつになっても汗を掻くのは良いものですよ‼︎っと、先生…
本当はそんな世間話をしに来たのではないでしょう?私にはわかりますぞ!
なにやら大事なお話があるのではありませんか?」
「いや〜、こんなに簡単に見透かされてしまうとは…相変わらずブロックさんには敵いませんね。」
「ワッハッハッハ‼︎またまたなにをご冗談を‼︎…して、私はなにをすれば宜しいのですかな?」
「話が早くて助かります。」
アヴェントは伝えた。
危機察知により得た情報からエリーが近々誘拐されるだろう事実とその元凶でもあるリスティヒの存在。
それが村外れのに潜んでるいる売買屋の手先共によって行われること、誘拐される場所、日時まではまだ分からないが近々行われるであろうこと、
その為、こちら側の人員は既に動いており、売買屋の連中を既に監視していることを伝え、最後に…
その時が来たら奴等を消す役目をブロックに頼むと、
「そうですか…彼等が動きましたか。とうとうですな…お辛いでしょう…
わかりました。私もいつでも動けるよう、心の準備をしておきましょう。」
「すいません。いつも損な役回りばかり押し付けてしまいまして…」
「なにをおしゃられますやら、私がこれ程の力を手に入れられたのはなにを隠そう、貴方様のおかげじゃありませんか‼︎
この力、先生の頼みとあらば思う存分振るわせて頂きますぞ。ワッハッハ‼︎」
「そう言って頂けると助かります。お礼と言ってはなんですが、今度、ブロックさんの大好きなエールでも差し入れしますね。」
「それは楽しみですな!ワッハッハ‼︎」
そして、それからそう遠くないうちにアヴェントからブロックに売買屋の手先、キドナップ等を始末する為、呼び声が掛かるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます