エピローグ
――三年後
ガタンッという音ともに浮遊感が無くなり、飛行機は徐々に速度を落とし停止する。
一週間の海外出張を終え、アメリカから帰国した私を眩い太陽が出迎える。
ロサンゼルスに一週間滞在していたので、この時間帯に太陽を見ていることが不思議でならない。
疲労感を滲ませつつ、荷物を受け取りターミナルに出たと同時に肩を叩かれる。
振り向くと――
「おかえり、有紗」
「ただいまっ。朝日君!」
私服姿の朝日君が立っていた。
高校生の頃よりも、身長が伸び体格も良くなって、更に大人っぽくなっている。
一週間ぶりに朝日くんと会えて、我慢できずに声が弾んでしまう。
「お疲れ様。荷物持つよ」
「ありがとうございます!疲れてるのにごめんなさい」
「一週間会えなかったんだぞ?疲れてるとか言ってらんないだろ」
「流石、体力モンスターと言われるだけありますね」
「俺が化け物なんじゃない。皆が弱すぎるんだ」
私と朝日君は卒業後、天童製薬会社に入社した。
私は、秘書補佐という役職でお姉様のお手伝いや出張に行った際の資料まとめ、各会談の予定の取り決めを行っている。
最初こそ、あまりの忙しさに目を回していたが、ようやく海外出張にも付いて行く事が許されるくらいには成長できた。
朝日君は、体力とコミュニケーション能力の高さを買われ、営業課に配属された。
一ヶ月のノルマの高さや丸一日を外回りに使ったりと、他の課と比べてかなり厳しい環境となっている。
そんな中、高い成果を挙げ、意欲的に取り組む朝日君の事を人外扱いする発言を何度か聞いたことがある。
「それで、初海外はどうだった?」
「ものすごく大変でした……。移動手段の確保、会議の議事録を取る事すらついて行けませんでした」
「言語の壁とか大変そうだもんな。三日間は休み貰えるんだっけ?」
「はい。と言っても、時差ボケを直しつつ資料をまとめなければなりませんが」
「家事とか俺やるから、ゆっくり休めよ」
そう言いながら荷物を車に積み込み、私たちのマンションに向けて車を走らせた。
※※※
「はぁ〜〜……やっぱり、自分の家のベッドの方が落ち着きます」
ポスンッと倒れ込むと、緊張の糸が切れたのか睡魔が襲ってくる。
「寝るならせめて部屋着に着替えた方が良いぞ?スーツがシワになる」
「そうしますね。その前に朝日君。こっちへ」
「ん?あいよ」
朝日君は、素直に私の近くに腰をかける。
私は起き上がると、朝日君に抱きつき、そのままベッドに倒れ込む。
「…………充電させてください」
「おう。好きなだけ充電してくれ」
「じゃあ、一週間このままで………」
「それは話が変わってくるな。けど、充電する前にスーツは脱ごうな」
部屋着に着替え、再び朝日君に抱きつきながらベットに潜り込む。
私をしっかりと抱き抱え、ゆっくりと優しく頭を撫でる。
「ね」
「うん?」
「キスしたいな」
「有紗って本当にずるいなぁ……。そんな顔されたら断れないって」
と、顔を寄せ深いキスを交わす。
最初はお互い横向きだったのに、気づけば朝日君が私に覆い被さる形になっていた。
もっと、くっついていたくて背中に手を回そうした時、朝日君が私の唇から離れていった。
「もう、終わりですか?」
「これ以上は俺の自制が効かなくなるからな」
「確かに。それは、困ってしまいますね」
「本当に思ってる?まぁ、いいか。安心してゆっくり休んでくれ」
「はい」
朝日君は私の頬に手を添え、優しく撫でる。
安心感に包まれながら、私は目を瞑った。
※※※
「んっ……」
いつの間にか寝ていたらしく、気づけば日が暮れ始めていた。
ぐっすり眠れたおかげで帰国した時より、ずっと体が軽かった。
ベッドの隅に畳んであった部屋着を着て、リビングに出ていくと朝日君がキッチンに立っていた。
「おはよう。身体は平気か?」
「はい。ぐっすり眠れたおかげでバッチリです」
「そっか。でも、無理するなよ?」
朝日君は、安心したように優しく微笑む。
「ありがとうございます。それで、何を作っているんですか?」
「ほら。ずっと、洋食ばっかだったろうし、和食をと思ってさ。お腹すいてる?」
そう問われ、タイミング良くお腹が鳴る。
現金なことに睡眠欲が満たされると、次は食欲を満たせと身体が訴えてくる。
「…………今聞いた通り………かなりペコペコです」
「ハハッらしいな。まだ、かかるし休んでなよ」
恥ずかしくて俯きながら答えると、朝日君は笑いながら休むよう促される。
◇◇◇◇◇◇
その一時間後に、朝日くんの作った夕食を食べて二人でくつろいでいると――
「有紗、ちょっとまってて」
「え?はい」
自室に入って数分後に戻ってくる。
その行動と緊張した表情に、私は既視感を感じていた。
ストンッと私の横に座ると――
「なぁ、有紗。俺は、有紗に相応しい男になれたかな」
「え?」
「今日まで努力を欠かさなかったつもりだ。自分と向き合って、必死にやってきたと思ってる。…………だから、有紗からはどう見えてるかなって」
朝日君は、珍しく不安を滲ませた表情で私を伺い見る。
私は微笑みながら、不安そうな朝日君の両頬を、両手でソッと包み込む。
「何を言っているんですか。朝日君が頑張っていた事は、ずっと隣にいた私が知っています。今の朝日君は、これまでで一番素敵です」
微笑みながら、不安を取り除くのように言葉を紡ぐ。
「そっか…………。なら、自信を持って渡せるな」
私の手を解き、隣から正面に移動して片膝をつく。
朝日君の手には、いつの間にか手のひらサイズの小さなケースが握られていた。
そして、中から、ダイヤモンドがあしらわれた指輪が顔を見せる。
「改めてお願いします。俺と結婚してください」
「……………………え?」
朝日君の表情と指輪を交互に見ていると、段々と実感が湧いてきて――――気がついたら勢いよく抱きついていた。
「ありがとうございますっ!お願い……します!」
「……はぁ〜……良かったぁ」
朝日君は私を抱いたまま、安堵のため息を吐く。
「今の少しの間がめちゃくちゃ怖かった」
「ご、ごめんなさい!まさか、今日プロポーズされるなんて思ってなくて……」
「いやいや、良いんだ。待っててくれてありがとうな――――指輪……いいか?」
「はい。お願いします」
左手の薬指にはめられた指輪は、箱の中にいた時よりも、ずっとずっと綺麗に見えた。
左手の薬指を照明にかざしてみると、キラキラと照明が霞む程の輝きを放つ。
「朝日君と結婚かぁ………。ふふっ」
「な、なんだよ」
「人生って何があるか分からないなって思っただけです」
「それが、人生だしな。先が見えたらワクワクしないだろ」
「そうですね。私、今すごくワクワクしてるんです。これから、どんな楽しいことがあるんだろって思っちゃって」
「お、奇遇!俺もだ」
その後も、二人で寄り添って今に至るまでの思い出を話して過ごした。
朝日君が、私に声をかけたことで動き出した物語はこれでおしまい。
これからは、二人で楽しい物語を紡いでいくんだろうなって、私はそう予感し、楽しみで心を弾ませるのだった。
〜〜~完~〜〜
モノクロ令嬢は青春の色を知る 水無月 @nagiHaru
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