第30話 女子会

「遥さん!遅れてしまいすいません!」

「久しぶりー!有紗ちゃん!気にしてないから平気だよ!」


 銀髪美少女こと有紗ちゃんが輝かしい笑顔を称えながら、小走りで近寄ってくる。

 最後に会ったのは、朝日と同居直後のショッピングなので、およそ二週間ぶりだろうか?


「お久しぶりです、遥さん!今日は誘いを受けてくれて、ありがとうございます!」

「相変わらず固いなぁー!友達だし、遊びに誘われたなら行くでしょ?」

「それもそうですね」

「よし、行こっか!今日は、ショッピングって言うより女子会だねー」

「女子会……。楽しみですっ」


 嬉しそうに微笑む有紗ちゃんを見てると、私も楽しみになってくる。



 ◇◇◇◇◇



「ほい!ここが、私の行きつけのカフェなんだ!」

「わぁ……すごくオシャレですね」

「でしょー。早く入ろっ」


 店員さんに席に案内され、各々のケーキセットを注文し、待っている間に有紗ちゃんが口を開く。


「遥さん」

「ん?」

「お話……というより、報告と相談なんですけど……」

「およ?そうなの?報告と相談?」


 コクリと頷く。


「私が一条君のお家に居候することになった経緯をお話しましたよね?」

「うん、お父さんと喧嘩したんだっけ?」

「はい。ですが、先日和解しまして、今までより融通が効くようになったんです」

「お!良かったじゃん!これで、堂々と街を歩けるね!」

「はいっ」


 神妙な顔つきで『報告と相談』なんて言われたから、何を切り出されるのかと思えば……。

 と、安心した瞬間、ピリッと私の中のアンテナが反応した。


 そう!『幸せアンテナ(恋愛における)』だ。

 恋愛で何かしら進展があり、幸せオーラを放っている人が近くにいると反応する。

 ……まぁ、言ってしまえば女の勘だ。


「……それと、もう一つ。こちらが本命の報告と相談の内容で……」


 頬を紅色に染めて俯く。


 あ、これだ。

 私は、直ぐに勘づいた――ていうか、分かりやすすぎっ!!


「うんうん!何かな?」

「えっと……その……」

「いいよ、ゆっくりで」


 すぅ……はぁ……と深呼吸をして覚悟が決まったのか、私を真っ直ぐ見つめてくる。


「私、一条君とお付き合いすることになりました」

「おぉ!おめでと!幸せにしてもらいなよ!」

「はい、ありがとうございます」


 内容は想像通りではあったけど、それでも嬉しい報告だ。


「それで、相談ってのは?たぶん、恋愛関係だと思うけど」

「そうなんです。恋人として進展できたのは嬉しいのですが……」

「ですが?」

「い……いざ、お付き合いすると、恋人っぽい事が分からなくて……」


 ははぁ……なるほど。

 恋人になった事でより親密になれるカップル、少し距離ができてしまうカップル。

 友達の延長線の様な付き合い方になったり、恋人として強く意識しちゃって気まずくなったり……。


 正解と模範解答が無いのが恋愛だ。

 ちゃんと、アドバイスをしてあげたいけど……。

 なにせ有紗ちゃんは、純新無垢を体現したかのような存在だ。

 いきなり『押し倒せっ!』なんて、ざっくばらんなアドバイスなんて出来ない。


「そうだね……恋人っぽいことか」

「は、はい」

「苗字呼びから名前呼びに変えてみるとか?」


 有紗ちゃんは、ハッとした表情を見せる。


「朝日も有紗ちゃんも、苗字呼びが定着しちゃってるから恋人感が無いんじゃないかな」

「も、盲点でした……。確かにそれなら……」

「名前で呼び合うだけで、グッと距離が縮まるよ?」

「今度会う時、挑戦してみます!」


 自分を鼓舞するように、グッと両手で握る姿は健気そのものだ。


 話が一区切りしたタイミングで、注文していたケーキセットが届いた。

 店員さんが下がったのと同時に、有紗ちゃんが少し食い気味に私に質問を投げる。


「ちなみに、遥さんは彼氏さんとどんな風に過ごされているんですか?」

「ングっ!?ゲホッ!ゲホッ!」

「わっ!ご、ごめんなさい!」


 まさか、私の恋愛面を聞いてくるとは思わず、むせてしまった。


「え、なんで、私に彼氏がいるって知ってるの?隠すつもりは無いけど、言ってなかったような」

「すいません。勝手ながら、一条君からお聞きしました」

「あ、なるほどね?そんなに、私の恋愛事情って気になる?」

「よろしければ参考にしようかなと」


 私は悩んだ。

 今の彼氏とは付き合って長いし、やることもやっている。

 話すのも躊躇われる経験だって……あるにはある。


「まぁ……?私は付き合って長いし……それなりには」

「そ、その……手を繋いだり、キスをしたり……とかですか?」

「うん、まぁ……してるかな」


 質問しながらも、紅色の頬がさらに濃くなる。

 いや、ピュアかッ!!

 手を繋ぐとかキスだけで赤くなられると、この後の展開を聞いたら卒倒するかもしれない。


 だが、有紗ちゃんは、その後の展開より気になることがあるらしい。


「ちなみに……キスは……お付き合いしてどのくらいで……?」

「え?そうだね……。一週間とかかな?」

「一週間……なるほど」

「あ、別にしたかったら付き合った日でもいいんだよ?」

「ふぇっ!?いや、それは……!」


 思ったより過剰に反応したのが妙に気がかりで、少しだけ突っついてみる事にした。


「有紗ちゃんはしたくないの?」

「したいかしたくないかで聞かれれば……したい……ですが」

「ですが?」

「その……お付き合いして数日でキスをせがむのは……はしたないと思われてしまいます」


 有紗ちゃんの脳内では、欲望と理性が激しい葛藤を繰り広げているらしく、口ではハッキリと否定しているのに表情は乙女の顔をしていた。


「好きな人と触れ合いたいっていう気持ちははしたなくないよ。当たり前で真っ当な気持ち」

「本当ですか?」

「有紗ちゃんは嬉しくないの?朝日にそういうスキンシップされてさ」

「…………嬉しいですし、ドキドキしちゃいます」


 少し考えたあとにポツリと呟く。


「心配なら朝日に聞くのもありだよ。恥ずかしいかもだけど、言葉にするのも大事」

「朝日くんも言ってました。『何かあったら言ってくれ』って」

「なら、平気だよ!まぁ、まずは名前呼びだね」

「はいっ!頑張ります」


 不安が解消されたのか、晴れ晴れとした表情だった。

 有紗ちゃんの笑顔は癒されるなー。

 なんて、思いながら有紗ちゃんと女子会を楽しんだ。

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