第37話 文化祭 後編

 ――文化祭最終日


「いやぁ、最終日にしてじっくり見れるな」

「そうですね。気になってはいましたが、それどころでは無かったですから」


 一年生である私たちにとって、初めての文化祭。

 そして、ただの学生行事と侮っていた。

 まさか、こんなに地域の方が訪れる歴史あるものだとは知らなかった。

 廊下は人の波が作られ、普段の学校では見られない光景だ。


「それにしても、相変わらず目立つな」

「はい……休憩の後はすぐに当番に戻るので」


 制服の朝日くんとメイド服の私。

 他にも、似たような状況の生徒が見受けられるが、注目度合いがまるで違うように感じる。

 特に、生徒からの視線を集めヒソヒソと話をしているのが見えた。


「まぁ…………。見た目だけでは無いと思いますが……」

「え?それ以外にある?」

「…………なんでもないです」



 ――――俺のメイドに触れんなよ



 この発言が生徒間で波紋を呼んでいることに、朝日くんは気づいていないらしかった。


「それより、三年のクレープ食べに行こうぜ!初日から噂が立ってたんだけど行けなくてさ」

「行きましょう!クレープ食べたいです!」



 ※※※



「美味いっ!さすが三年生だ……」

「生地もモチモチですし、イチゴも美味しいです」

「味もそうだけどさ、見た目が完璧すぎるよな」

「これなら、お店も出せちゃいますね」


 朝日くんは、バナナクレープ。

 私は、イチゴクレープを頼み、一口食べると顔を見合せ、笑顔で感想を言い合う。


「俺と有紗のクレープって果物以外に何か違う?」

「どうでしょう?食べてみますか?」

「良いの?んじゃ、一口――」


 朝日くんは、私の差し出したクレープの手前でピタリと止まる。


「有紗…………イチゴ食べたら怒る?」

「ふふっ。怒りませんよ?まだ、残っていますから」

「よし!んじゃ、遠慮なく」

「どうですか?」

「なんか……こっちの方が甘い気がする――ほれ」

「そうなんですか?――いただきます」


 私も、朝日くんのクレープを一口頂く。

 確かにこれは――


「甘いですね。私のよりも」

「んんん??結局分からんかったな」


 二人揃って首をかしげ、他の催し物へ足を向けた。

 三年生エリアを少し歩いていると、ソースの香ばしい香りが漂ってくる。


「凄く良い香りがしますね?」

「な!お腹減るよなぁ……行ってみるか」


 美味しそうな香りを漂わせているクラスに入ると、鉄板の上でたこ焼きが千枚通しで綺麗にひっくり返されていた。


「わぁ……お上手ですね」

「お、俺にだってあれくらい……」

「出来るのですか?」

「…………わかんない」


 妙な対抗心を燃やす朝日くんにクスリと微笑み、私はたこ焼きを一つ購入して、用意されていた席に座る。

 熱々のたこ焼きの上では鰹節が踊っていた。


「六個あるので半分こしましょう」

「そうするか?食べれそうなら、有紗が全部いっても良いんだぞ?」

「それなら、二つ買っています!は……半分こして一緒に食べましょう」

「お、おう……。そうするか」


 朝日くんは、フイっと目を逸らし賛同する。


「有紗が買ったんだし、先いいぞ」

「ではお言葉に甘えて……」

「熱いから気を付けろよ?」

「はい、いただきます――あっふいっ!?」

「言わんこっちゃない」


 朝日くんは、熱に悶絶する私を見て困った笑顔を浮かべていた。

 熱さも落ち着いてきて、ようやくたこ焼きの味を楽しむ余裕が出てきた。

 トロッとした生地と柔らかなタコにソースが絡んですごく美味しい。


「お、美味しい……!このたこ焼き美味しいですよ!朝日くん!」

「お、本当か!有紗のお墨付きなら間違いないな――うん、美味い」


 と、熱々のたこ焼きを美味しそうに頬張る。


「熱くないのですか?ふーふーもしてませんでしたが……」

「俺、熱いの平気なんだよね」


 そう言って二つ目を口の中に放り込み、幸せそうな顔をする。

 なんか、ちょっとだけ負けた気になった。



 ※※※



 二年生エリアに歩いてくると、一層賑やかになる。


「朝日くん、あれは?」

「あぁ、ストラックアウトか。枠にはめられた九枚の板をボールで打ち抜くんだよ」

「へぇ〜……やってみたいです」

「お、良いぜ。やろう!」


 ルール説明を受けて、テープの引かれた場所に立つ。


「全部ぶち抜いちまえ!」

「プ……プレッシャーをかけないで下さい」


 深呼吸をして――


「それっ!」


 勢いをつけすぎたせいで、ボールは的から大きく外れてしまった。

 十球のうち、当たったのは僅か三球という不甲斐ない結果に終わった。


「思ったよりずっと難しかったです……」

「よぉし!俺が有紗のリベンジしてやる!」


 宣言通り、一球ずつ丁寧かつ豪快に的を撃ち抜いていく。

 そして、最後の一枚もなんなく抜いてしまった。


「す、凄いですっ!本当にやってしまうなんて……」

「任せろって!」


 朝日くんは、得意気に鼻の下を人差し指で擦る。

 ただ、朝日くんがクリアしたのは初級だったらしく、上級では五枚が限界だった。



 ※※※



 その後も、輪投げや射的など一通り楽しんだところで制限時間がやって来てしまった。


「あ〜……もう、休憩終わっちまうな」

「あっという間でしたね。まだ、遊んでいたかったです」

「そうだな。ま、残りの時間も頑張ろうぜ」

「はい!それでは、また後で!」


 お互い微笑み合い、それぞれのクラスまで戻っていく。

 こうして、残りの時間も忙しさに目を回しながら楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。

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