閑話 裸の付き合い
「……………ふぅ」
私の頬を滝のような汗が滑り落ちる。
隣を見ると、楓さんは気持ちよさそうに目を瞑っている。
居候が決まった日、早朝七時という時間帯に、私は楓さんと二人でサウナに来ていた。
「有紗ちゃん、無理しなくて良いからね」
「いえ、平気です。だんだん、気持ちよくなってきました」
「お、いいねぇ」
薄らと目を開け、嬉しそうに微笑む。
上気した頬に整った容姿も相まって、妙な艶やかさがある。
女性相手にドキリとしたのは、初めての経験だ。
それにしても……。
本当にスタイルが良い。
タオルでは隠しきれないバスト、ウエスト回りも細く、背丈も女性の中では高身長の類に入るかもしれない。
「どうかした?そんなに、ジロジロ見て」
「いえ……改めて見るとスタイルが良くて羨ましいなと」
「まー、体型が命の仕事をしてるからね」
「お仕事?」
あれ?と疑問に思った。
一条君からは、大学生と伺っていたはずだけど。
「うん。私モデルやってるんだ」
「モ、モデルッ!?」
ハッとなって、口を抑える。
幸いサウナの外にいるお客さんには聞こえなかったようだ。
「大丈夫だよ。一応、表紙も飾ったことあるから、顔はバレてるの」
「そ、そうだったのですね。大学生とお伺いしてたので……驚いてしまいました」
「大学生とファッションモデルを兼業してるんだ」
「どこか事務所に所属されているのですか?」
「モデルエージェントってとこ」
いま、ファッション誌で引っ張りだこな事務所だ……。
ファッションに疎い私ですら聞いたことがある。
「す、すごいです……。だから、たゆまぬ努力を続けているのですね。お辛く無いのですか?」
「辛い……めっちゃしんどい……。美味しいお肉とかおなかいっぱい食べたいのにーって」
「お肉は、かなり罪悪感ありますね」
仕事のためとはいえ、好きな物を我慢するのは辛そう……。
「……で、有紗ちゃんはさ、そんな素敵なプロモーションをどうやって維持してるの〜?」
「え?私は……そうですね……。うぅん、これといって特別なことは……」
「ほぉほぉ、特別なことはせずに?こんな曲線美を維持できるんだぁ〜へぇ〜??」
「ひゃあっ!か、楓さん!」
楓さんは、爪の先で私の腰から脇腹にかけてツーッとなぞる。
くすぐったさとゾワリとした感覚に、嬌声に近い悲鳴をあげてしまった。
私の反応を見て、クスクスと楽しそうに笑う。
「私、妹欲しいな〜って思ってたし、有紗ちゃんが
「え??えぇっ!?私と一条君はそういうんじゃ無いですからっ!」
「青春だねぇ〜羨まし〜――よし、二十分経ったし出よっか」
もう、そんなに経っていたんだ。
最近気づいたことだけど、楽しい時間ほどあっという間に過ぎる。
「有紗ちゃん、どれが良い?」
「え?いえ、自分の分は自分で買いますので」
「良いから良いから。お姉ちゃんに言ってごらん」
「えっと……じゃあ、フルーツ牛乳で」
控えめにフルーツ牛乳を指さす。
楓さんは、嬉しそうにお金を入れ、フルーツ牛乳とコーヒー牛乳を購入する。
キャップを外し、クピッと一口。
楓さんは、腰に手を当て煽るように飲んでいた。
端麗な容姿とかけ離れた豪快さに、つい見入ってしまった。
「ん?なに?」
「いえ……豪快だなぁと」
「こういう風に飲んだことない?」
「は、はい。淑女らしくないと窘められてしまいます」
「なら、いま淑女らしさなんて求めてないからやってみなよ。淑やかに飲むより美味しく感じるよ?ほら、手を腰に当ててさ――」
言われた通りに実践してみる。
味は同じはずなのに、少しづつ飲むより美味しく感じた。
「よーしっ!帰ろっか!……外、暑そー」
楓さんは空き瓶をケースに入れ、伸びをしながら出口に向かって歩いていく。
私は、無意識に駆け足になって楓さんの後を追いかけた。
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