第41話 クリスマスイブ
――クリスマスイブ
私たちは、計画通り大型ショッピングモールに来ていた。
目的は、もちろんお互いのクリスマスプレゼントだ。
「昨日、考えてみたんだけどな?今更だけどマフラー欲しいなって思ってさ」
「そういえば、朝日くんコートだけですもんね。見に行きましょう」
ショッピングモールの二階には、ファッションブランドが隣接している。
その中から、良さげなお店を見つけて中に入る。
「めっちゃあるな。どれにしよう」
ここのお店はマフラー陳列エリアを広めに確保していて、色や柄を含めて三十種類は有に並んでいた。
目玉商品や流行の柄などは、見栄えよく展示されており多くの人が手に取っていく。
「色とか柄とか……たくさんありますね」
「な。これ思いつく人凄いよなぁ――――ちなみに、有紗はどれが俺に似合うと思う?」
「え?朝日君が気に入ったものを買わなければ意味が無いですよ」
「俺は、有紗に選んで欲しいなって思ってるんだけど…………ダメ?」
「なるほど。そう言うことでしたら」
とはいえ、これだけの種類から朝日君に似合うものを選ぶのは至難ともいえる。
好みの色や柄、マフラーの形や素材……考え出したらキリがない。
私は、赤と黒のストライプ模様のマフラーを手に取る。
とりあえず反応を見よう作戦の行動だ。
「これ…………とかどうでしょう?」
「お、良いな!じゃあ、それに――」
「や、やっぱり、もう少し考えますね!」
「え?あぁ、わかった」
あっさりと受け入れられてしまったので、慌ててマフラーを元の場所に戻す。
今ので朝日君は私が選んだ物なら、なんでも喜んでくれると分かってしまった。
「朝日君の好きな色は――――って、なんで笑っているんですか?」
「いやなに。有紗が俺のために、真剣にプレゼントを選んでくれてるって思うと嬉しくてさ」
「選ぶに決まっています!…………喜んで欲しいので」
妙に気恥ずかしくて、語尾が尻すぼみになってしまった。
その後も、悩みに悩んだ末、赤と黒のチェック柄のマフラーに決めた。
朝日君は買う前に一度首に巻いて、姿見の前に立つ。
「おー!カッコイイな!」
「朝日君は、赤のイメージが強いので赤が多めに配色されているマフラーを選んでみました」
「確かによく言われる。ありがとなっ」
「喜んで頂けたようで嬉しいです」
互いの気持ちを言い合い、微笑み合う。
私は、朝日君の首からマフラーを外し、綺麗に折りたたむ。
無事、朝日君のプレゼントが決まった事に、ホッとしつつ会計を済ませた。
※※※
次は私のプレゼント選びなのだが……。
「どう?ピンとくるものあるか?」
「すいません……。今のところ無くて」
「謝んなって!時間も回ってない店もたくさんあるし、楽しく見ようぜ?」
ニッと楽しげに笑い、私の手を取る。
ドキリとして慌てて周りを見ると、ほとんどの人達がカップルで、私たちと同じで手を繋いでいた。
「そっか。今日はクリスマスなのですね」
「ん?何だよ、そんな改まって」
「あんまり実感が無かったのですが…………ようやく気持ちが追いついてきたんです」
その後も、ブラブラしていると一つのお店が目に止まった。
それは、とあるジュエリー店でポスターや立て看板には、『婚約指輪、結婚指輪の相談はお任せ下さい』と書かれていた。
婚約指輪…………かぁ。
「悪い。それは、もう少し待っていて欲しいんだが……」
「えっ!いえいえ!無くても大丈夫です!」
「そんな熱い眼差しで見ていたら、説得力ないぞ?」
どうやら、急に動かなくなった私を不審に思って、視線を辿ったら婚約指輪を見ていたらしい。
「朝日君。やっぱり私もマフラーが良いです」
「え?でも、有紗って送迎だろ?」
「朝日くんのお家にお伺いする時は歩いてきてますよね?」
「む、確かに……――え?有紗はそれでいいの?」
「はい。お揃いが良いなって…………ダメですか?」
「ダメじゃない!行こうぜっ」
朝日君のマフラーを買ったお店の真向かいに位置するブランド店が目に付いたので、足を踏み入れる。
「今度は、朝日君が選んでください」
「お?良いぜ、さぁて…………何にしようかな〜」
顔を輝かせ、隅々まで視線を向ける。
一つ一つ手に取って、私と見比べ元に戻すという動作を繰り返す。
表情は楽しそうだけど、目は真剣そのものだった。
先ほど、朝日君の言っていたことが分かる気がする。
私のために真剣に選んでくれている事が伝わって、心が温かくなってくる。
およそ、十分ほど悩み――
「これにする。ちょっと巻いてみてよ」
朝日君は、チェック柄のロイヤルブルーとスカイブルーが交互に配色されたフリンジマフラーを私に手渡す。
定番の巻き方で首に巻いてみる。
ふわふわとして肌触りのいい質感が首を覆い、ポカポカと温かくなってきた。
「お!良さげだな。有紗と言えば寒色だから青にしたけど…………バッチリだな!ちょー可愛い!」
「わ、わかりましたからっ!声が大きいですっ」
「え、ごめん」
朝日君は、そこまで大きな声を出していた自覚は無いらしい。
ただ、よく通る声なので店内のお客さんは、私たちを見て微笑ましそうに笑っていた。
※※※
その後、昼食を取ってから雑貨店や書店を周り、あっという間に夕方になった。
「この後は、イルミネーションでしたよね?」
「…………あ〜イルミネーションは明日行こう。有名なとこ」
「え?はい、私は構いませんが……。なにかありましたか?」
「イブに観るのもいいけど、本番のクリスマスに見る方がもっと綺麗だろうなって」
「はぁ……なるほど。では、このままお家に帰りますか?」
「帰るんだけど……。有紗はさ、今日は一旦自分の家に帰ってくれないか?送っていくから」
「え……?」
イブもクリスマスも一緒に過ごせると思っていただけに、この申し出はショックだった。
ただ、朝日君自身も申し訳なさそうな表情をしていた。
朝日君は、素直な心の持ち主で、良い意味で不器用な性格だ。
嘘をついたり、演技をしたりできる人では無い事くらい分かっている。
「その……本当にごめんな」
「いえ……わかりました。では、明日必ずですよ?」
「もちろん!」
その日は、朝日君が私をお家まで送ってくれた。
お父様や兄上が泊まっていけと言っても頑なに首を縦に振らず、帰ってしまった。
その背中は、どこか急いでいるようにも感じた。
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