第40話 クリスマスと誕生日
婚約者として生活を初めて一週間が経過した。
恋人から婚約者に呼び名が変わった所で、私たちの日常に変化はなかった。
朝日君のお家で、ゆったりとしたひと時を過ごす事も変わらずだった。
そして、話題はクリスマスへ。
「えっ!?有紗、クリスマスと誕生日一緒っ!?」
クリスマスと誕生日が一緒だと告げると、目をまん丸にして驚いていた。
と、同時にホッと息を吐いていた。
「はい。けど、そんなに驚かれる事ですか?」
「いや、誕生日をスルーしちまう所だった。セーフセーフ」
「けど、朝日君が自身のお誕生日を教えてくれなかった事は残念です」
「い、いや……不可抗力だろ。有紗と出会う前に誕生日迎えてんだから」
私のジト目を申し訳なさそうな笑顔で受け入れる。
明日は、恋人になって初めてのクリスマスだ。
クリスマスは特別なもので、恋人と過ごす事が通説らしい。
「で、有紗は欲しいものとかあるのか?」
「欲しいもの……?」
「おう。誕生日とクリスマスのプレゼントだよ。サプライズとかの方が良いんだろうけど、どうせなら喜んで欲しいし」
「お誕生日もクリスマスもプレゼントを貰うことが無かったですし……改めて聞かれると悩んでしまいますね」
「え、プレゼントもらった事ないってマジ?」
朝日君は、驚愕の表情を浮かべていた。
私にとっては普通の事だったのだが、朝日君から見れば驚くべきことだったらしい。
「お父様は多忙でしたし、お兄様もお姉様も同様です。私にとっては普通の日常と変わりませんでしたから」
「なら尚更、プレゼントをあげたい!絶対!」
「お気持ちは嬉しいですが、一緒に過ごせるだけでも十分すぎるくらいのプレゼントですよ」
朝日君は、私の手を握り首を横に振る。
そして、少年のような笑顔ではなく、大人びた表情で私を見つめてくる。
「今年のクリスマスは、有紗にとって初めてな事が多いだろ?なら、初めては最高の思い出にしたいじゃんか」
「ッ!!あ……ありがとうございます」
ドキッと心臓が大きく跳ねる。
朝日君の真っ直ぐな言動に慣れてきたかと思っていたけど、そんなことは無かった。
「では……欲しいもの考えておきます。逆に、朝日君の欲しいものは何ですか?」
「いやー…………有紗に聞いといてなんだけど、俺もパッと思い浮かばないんよな」
「ふふふっお互いに欲がありませんね?」
「ならさ、明日ショッピングモールに行ってみようぜ?見て回れば欲しいものが見つかるかもよ」
名案とばかりに太陽のような笑顔で、私に提案をする。
私も同じことを考えていたので、気持ちが通じあった気がして私も自然に笑顔になってしまった。
「良いですね。それに、この時期はクリスマス仕様になっているみたいですよ?」
「お〜!そういや、大通りの方はイルミネーションをやっているみたいだし、帰りに見て行こうぜ!」
「まるでデートみたいですね?」
「……っ!そ、そうだな。うん……デートみたいだな」
分かりやすく動揺し、何度も『デート』と繰り返していた。
これまでも二人で出かけた事は何度かあった。
ただ、デートと言うより朝日君の行きたい所に私もついていくという構図だった。
二人で計画を立ててお出かけするのは、今回が初めてで少しだけ意識してしまう。
「明日が楽しみですね」
「ついでだし、ケーキとか買って帰るか」
「賛成です。楽しみすぎて、今日は寝られないかもしれません」
「明日が楽しみで寝れないのは分かるっ!でも、寝ないとサンタさん来ないぜ?」
「それは、困りますね」
朝日君の冗談に、互いに顔を見合せ笑い合う。
寝れないかもと心配していたが、全くの杞憂だった。
朝日君の腕に包まれた私は、あっという間に夢の世界に旅立っていた。
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