第14話 家出デート 前編
駅から街の中心に向かって歩いていると一つの大きな書店が目に入った。
「一条君。あちらの書店を見てもよろしいですか?」
「お、良いぞ!俺も漫画の新刊出てるか気になってたし」
一条君も用事があったみたいなので、気兼ねなく立ち寄る事が出来た。
「わぁ…………ものすごく広いです。それに、書籍もこんなに」
自動ドアをくぐると外観の大きさに比例して店内も相当な広さで、思わず感嘆な声が漏れる。
アイドルの雑誌、エッセイ集、ビジネス書、文学作品、レシピ本……。
当たり前だが、図書室とは比べものにならないくらい、種類に富んだ書籍が並んでいた。
「天童の目がキラッキラだ」
「本当にすごいです……。ここに一日居れちゃいそう」
「それは……すげぇな。まさに、本の虫ってやつだな」
「幼少時代は本ばかり読んでいたので……」
友達を作ることが出来ず、ただ一人で本を読む。
そんな風に過ごしていた事を思い出し、自虐的に笑ってみせる。
「そっかー。なら、天童が読んで面白かった小説教えてくれよ」
「え?構いませんが……。一条君って小説は読まれるのですか?」
「いや、あんまり読まない。漫画ばっかりだな〜。でも、天童が面白いって言うやつは読んでみたい」
だから教えてくれ――と、正面からニコッと微笑みかけられる。
私は、そんな笑顔を直視することが出来ず――
「は、はいっ。お気に召すか分かりませんが……私のおすすめで良ければっ!」
少し顔を背け、声を上ずらせながら、なんとか言葉を絞り出した。
書店全体をぐるりと一周したあと、私のオススメの文学作品を幾つか一条君に教えると、その内の二冊を期待感を称えた表情で手に取っていた。
「私のオススメをお教えしたので、一条君のおすすめも教えていただけませんか?」
「え?俺、小説あんまり読んだことないぞ」
「はい、知っています。なので、小説ではなく漫画を」
「お、漫画デビューか?良いぞ!」
一条君に連れられ漫画コーナーに足を運ぶと、文学コーナーに負けず劣らず、たくさんの作品が置いてあった。
「そうだなぁ……これとか?」
そう言って手渡して来た作品は、以外にも恋愛漫画だった。
「一条君って恋愛漫画も読まれるんですか?」
「読むね。最近のは男が読んでも面白いしな」
「これは、どう言った作品で?」
「そうだな……。彼氏に振られて傷心中の女の子が、元彼に進められたゲームを通じて一人の男の子と出会うんだよ。その後、ゲームで言い合いをしながらも恋に発展していく話」
「なるほど……とても面白そうです」
その後も、鬼と人との闘いを描いた漫画やヒーローを志す少年の物語を描いた漫画も勧められた。
一気に全部は買えないので、一番最初に勧められた恋愛漫画を買うことに決め、レジで会計を済ませ外に出る。
「夢のような時間は、あっという間ですね」
「だな。また来ようぜ」
「はいっ!ぜひ!」
「じゃあ……それ貸して?」
私の漫画を指さして、渡すようにと右手を伸ばす。
「え?」
「手塞がってちゃ不便だし、何かの拍子に忘れたりしたら大変だろ?俺のバッグに入れとくから」
「あ、そうですね。ありがとうございます」
確かに、今日はポーチもなにも持ってきていない。
辛うじて持ってこれたのは、お財布くらいだ。
一条君は、漫画を丁寧にバッグにしまい、ゆっくりと歩き出す。
「んじゃ、行くかー!――――ってか、もう昼だな。何か食べたいものもとかあるか?行ってみたいお店とか」
「え!私が決めても良いのですか?」
「おう、もちろん!」
「では、ファミレスに行ってみたいです!」
「え?ファミレス?そんなとこでいいの?」
「はい!一度も行ったことがないので気になっていたのです!……ダメでしょうか?」
「いや、天童が行きたい所なんだからダメじゃねーよ。なら、行くか」
※※※
十分ほど歩き、ファミレスにたどり着いた。
「これが……ファミレス……!」
「ガチ初見なんだな」
私の反応に苦笑を浮かべ、扉をくぐり入店すると――
「いらっしゃいませー!何名様ですか?」
「二人です」
栗色のフワフワな髪の毛をポニーテールに纏めた店員さんの元気な挨拶が店内に木霊する。
だが、私はその店員さんに見覚えがあった。
「二名様ですね!こちらの席どーぞ!」
「え?ここ四人掛けだろ?」
「大丈夫ですよ!」
「あ、そう……」
二人では広すぎる席に向かい合うように座る。
「ご注文は、そちらのタブレットからお願いしますね!ただいま、期間限定のパフェあるので宜しかったらどーぞ!」
店員さんは、視線を私と一条君それぞれに往復させ、ニコリと笑って下がっていった。
「今の店員さん……
「そうだな。知ってたのか?」
「えぇ、同じクラスですので。話したことはありませんが……」
「これから、嫌ってほど話すことになりそうだぜ?」
「??」
一条君の真意は分からなかったが、とりあえずタブレットのメニュー表に目を通す。
「ゆっくり見ていいからな」
「は、はい……。メニューが豊富で悩んでしまいますね」
「天童の好きな物ってなんだ?」
「そうですね……。嫌いな物は無いので何でも好きですね。一条君はなんですか?」
「俺は肉だな〜」
「一条君らしいです」
イメージと相違ない答えにクスリと笑ってしまう。
「私は決めましたよ?一条君の番です」
「んや、俺はもう決めてるから良いよ。注文するからタブレット貸して」
「はい、どうぞ。一条君は何にしたんです――」
「あ、ちょい待って待って。あたしも頼みたい」
「へ?」
突然、フワフワのポニーテールを揺らしながら、私服姿の西渕さんが一条君の隣に滑り込んできた。
突然、横に座ってきた西渕さんに対し、一条君は顔を顰めながら――
「えー嫌なんだけど」
「あたしの分はあたしが払うからさ」
「ならいいよ」
「こういう所はケチ臭いなー」
「うるせ。つか、バイト終わったのかよ」
「バイト上がる直前に2人が来たからね。あたしも座れるように、この席に案内したんだー」
私は、一条君と西渕さんのやり取りを聞いてて、妙な胸騒ぎというか……引っ掛かりを覚えていた。
けど、西渕さんは、一条君との話を切り上げて、私の方を見る。
「天童さんっ!こんにちは!」
「は、はいっ!こんにちは……」
「あたしさ、天童さんとお話してみたかったんだー!」
「そうなのですか?」
「うんうん!最初は、二人にしてあげるべきかなって思ってたんだけど……ごめん!我慢できなかった」
「いいえ、構いませんよ?私も西渕さんとお話してみたかったですし」
両手を合わせて頭を下げる西渕さんに、やんわりと首を横に振る。
謝られることでは無いし、一条君さえ良ければ問題ない。
「ねぇ!天童さんって呼び方さ、他人行儀っぽくて嫌だから有紗ちゃんって呼んでいい?」
「はい、大丈夫ですよ」
「やった。じゃあ、私のことも遥って呼んでね!」
「分かりました。よろしくお願いします、遥さん」
「ん!よろしく、有紗ちゃん!――んで?いつの間に朝日は有紗ちゃんと仲良くなったの」
私の時とは打って変わって、ジロリとジト目で一条君を見る。
「え?勉強を教えてもらい初めてからかな」
「ふぅん?あたしがものすごーく貴重な時間を使って教えてあげてたのに?」
「『こうしてああすれば簡単に解けるよ!』のどこが教えてんだよ」
「はぁ……朝日は相変わらず手がかかるなぁ」
西渕さんは、ため息混じりに首を横に振る。
二人の軽妙なやりとりに、胸騒ぎが止まらなかった。
「お二人は仲が良いのですね。――――その……お付き合いされていたり……するのですか?」
「「え?」」
私の問いかけにポカンとした表情で固まる二人。
そして、互いを指さし――
「俺が遥と?『私が朝日と?』」
「はい、そうです」
「「無いわぁー」」
二人して嫌そうな顔で否定する。
ここまで、息がピッタリだと余計に怪しく見えてしまう。
「俺と遥かは、幼馴染ってやつだよ。幼小中高って一緒だったってだけ」
「そーそー。大体、朝日みたいにそそっかしい男の子タイプじゃないし」
「俺だって、出会い頭でプロレス技仕掛けてくる暴力的な女の子はタイプじゃないね」
「とてもお似合いに見えたのですが……そうなのですね、安心しました」
西渕さんは、顎に手を当て『ほぅ』と漏らしたあとに一言――
「有紗ちゃん」
「はい?」
「朝日って意外と倍率高いけど……応援してるぜっ!」
「い、一体何のことでしょうかっ!?」
グッと親指を立てた拳を突き出してくる遥さんに、思わず突っ込んでしまった。
「じゃあね!有紗ちゃん!また、夏休みあそぼーね!!」
遥さんは、大きく手を振って私たちとは反対の方向へ走っていった。
「騒がしいやつだったろ?」
「えぇ、そうですね。でも、凄く魅力が詰まった女の子でお話出来て嬉しかったです」
「連絡先もゲットできたしな?」
言われて改めて携帯を見ると、新しい友達の欄には『西渕遥』と登録されていた。
遥さんらしくお友達と二人で撮った写真を、アイコンに設定していた。
「一条君のおかげです。ありがとうございます」
「俺が言わなくても、遥が自発的に言ってた気もするけどな」
「ふふっそうかもしれませんね」
「うし、腹も膨れたし、次行くか」
「はいっ!」
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