第36話 文化祭 中編
――文化祭二日目
校内は、昨日の比では無いくらいの賑わいを見せていた。
私の通う高校は、地域との繋がりを大事にしているので、老若男女様々なお客さんが足を運んでくれていた。
「はい、どうぞ。ゆっくり食べて下さいね」
「うんっ!ありがとう!おねーちゃん!」
幼稚園児くらいの女の子が、ニコニコ笑顔でお礼を言ってくれる。
そうして、キラキラした目で私を見上げ――
「マナもおねーちゃんみたいなメイドさんになりたい!」
「ふふっ応援していますね。そのためには、お母さんのお手伝いをしてあげて下さいね」
「わかった!今日からやる!」
大きく頷いてニコリと笑顔を見せる。
あぁ、可愛いなぁ。
子供は、素直で可愛いくて接していると心が自然と穏やかになっていく。
私も微笑み返し、仕事に戻った。
「あ!有紗ちゃん。ちょっと手伝ってもらえる?」
「はい!」
料理の乗ったトレーを受け取り、遥さんについていく。
「お待たせしました〜♥」
「お、お待たせしました」
テーブルで待っていたのは、三組の海染君と
遥さんが海染君と鳴上君の前に品を出し、私が朝日君に提供する。
「ククッ、有紗?顔引きつってるぞ?」
「すみません……。流石には、少し恥ずかしいです」
朝日君は、私を見ながら面白そうに笑う。
「メイドさん?何時まで仕事?終わったら俺たちと遊ばない?」
「えぇ〜なにするんですかぁ?」
「俺たちのクラスの出し物おもしれーから行こうよ」
「奢ってくれるですかぁ?ありがとうございます〜!」
「いや、自腹切らせるけど?」
「けちん坊」
遥さんは、プクリと頬を膨らませる。
「ハハッ!ま、暇だったら覗きに来いよ。引き止めて悪かったな」
海染君は満足そうに笑って片手を上げ、私たちは会釈をして、その場を後にする。
別れ際、朝日君は私を見てニッと笑った。
「ねぇ、そこの銀髪のメイドさん」
「はい、どうかしましたか?」
二人で来ていた男性の一人が、私を呼び止めてきた。
見た目もチャラチャラしてて、態度もあまり良くないので、無意識に私の中で警戒心が高くなる。
「君さ可愛いね。一番人気でしょ」
「それはどうでしょう?他のメイドさんにも失礼なので、あまりそういった発言は控えて頂くと幸いです」
「つれないねぇ。そうだ、君のこと知りたいからさ、連絡先交換しようよ」
「申し訳ありませんが、それは出来ないです」
「えぇ?お客さんが頼んでるのに?」
「はい」
「あーそっかー……。ま、しゃーないか。じゃ、行っていいよ」
あまりの不躾な態度にムッとしたが、早めに解放してくれるならそれに越したことはない。
「それでは、失礼します」
背を向け歩き出そうとしたとき――
「ちょーいちょいちょい!それは、ダメだろ」
教室内に響く、朝日君の大袈裟なほど大きな声。
お客さんも遥さんを含むメイドさんも、何事かと動きを止める。
私が慌てて振り向くと、朝日君が先程の男性の手首を掴んでいた。
男性の手は、私の下半身に向けて伸びていた。
それを見た瞬間、背筋がゾワリと総毛立ち、スカートを掴み二〜三歩後ずさる。
「なんだよおまえ」
「それは、こっちのセリフだっつーの。何しようとしたんだよ」
「いやいや、お客さんの頼み断ったんだぜ?なら、これくらいサービスするべきだろ?」
「随分身勝手だなぁ。やめろよ、そーゆうの」
学生に
「さっさとこの手離せよ。触ってねぇし冤罪だろ、これ。それとも女の子の前でカッコつけちゃったか?」
「触ったとか触ってないかの話じゃないんだよな。俺は触ろうとした事にムカついてんだけど」
「は?」
「その汚い手で俺のメイドに触れんなよ」
「ちっ……!てめぇ……」
至近距離で睨み合い、まさに一触即発の状態。
だったのだが――
「朝日〜先生連れてきたよ〜」
張り詰めた空気の中、鳴上君の緊張感の無い声が二人の間に割って入る。
その後は、先生達によって男性二人は連れていかれた。
男性二人が去った後の教室内は、賑やかな空気から一変し静寂な空気に包まれていた。
このようなトラブルは想定していなかったため、誰もが動けないでいた。
――――パンッ!!
また、突然鳴り響く破裂音。
朝日君が手を合わせて頭を下げていた。
「皆すまん!変な空気にしちまって!もう、今みたいな事は起きないはずだから、安心して楽しんでくれ!――――あ、そうだ。メイドさんって触ったら溶けちゃうってプロのメイドさんが言ってたから、皆は見て楽しんでくれな!それじゃ!!」
そう言って、教室から出ていく。
それから数分後には、ぎこちないながらも賑わいを取り戻し始めた。
「有紗ちゃんさ、早めに休憩取っていいよ」
「え?ですが……」
⦅朝日頑張ってたからさ……ね?⦆
「……わかりました。休憩いただきますね」
※※※
「やっと見つけた……」
「え、有紗……?なんで、メイド服のまま?」
「休憩の度に着替えるのも大変なので」
「そっか」
既に、定番となりつつある屋上のベンチに気だるげに座っていた。
その横に、私は腰を下ろす。
朝日君は、『はぁ……』とため息をついて、私の太ももに倒れてくる。
「本当に好きですね。そんなに良いものですか?」
「うん……。落ち着くんだよ。今とか特に」
そう言う朝日君の手は、微かに震えていた。
「どうしたのですか。震えていますよ」
「アドレナリンが切れた……」
「え……??」
「いや、思い出すと凄い怖かったなって。ああいうの初めてだからさ」
「以外です。朝日君にとって日常茶飯事かと……」
「そんなわけ」
私は、朝日君の手をソッと握る。
それでも、まだ震えていた。
「私は嬉しかったです。自身の危険を顧みず私を助けてくれた事が。とても、かっこよかったですよ」
「くそぅ……。これで、震えてなかったらカッコつけて終われたんだけどな」
朝日君は私の手を握り返し、心底悔しそうに言葉を漏らす。
「私としては、新しい一面を知れましたから」
「有紗が良いなら良かったよ」
苦笑気味に話す朝日君の手は――――もう震えてはいなかった。
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