第21話8月6日 遊園地デート 前編

 ――居候を始めて三日


 朝七時。


 今日は、待ちに待った遊園地に遊びに行く日だ。

 洗面台で顔を洗い眠気を覚まし、ヘアブラシで髪をとかす。

 遊園地に行くので、ヘアスタイルは、シニヨンヘア。

 コーディネートは、先日購入したストライプシャツとフレアスカート。


「少し……気合いを入れすぎでしょうか」


 前日まで、悩みに悩んで決めたヘアスタイルとコーディネート。

 遊園地に遊びに行くだけなのに、まさに意気衝天の勢いだった。


 私が居候を始めた頃から、一条君はずっと『行きたい行きたい』と言っていたのだが、あまりの猛暑に断念していた。

 一時的にだけど、猛暑が落ち着くらしい今日が決行日に選ばれた。


 というより――


「流石に……準備支度を始めるには早すぎましたね」


 九時に家を出る事になっているのに、朝七時の時点で私は既に準備万端。

 かくいう一条君は、未だに夢の中だった。



 ※※※



 それから、一時間後の八時に一条君が起きてきた。


「おはよ……――って、もしかして準備万端?」

「は、はい……」


 寝起きでポーッとしていた一条君が、目をパチパチと瞬かせる。

 その反応に、ほんの少し気まずくなり目を逸らす。


「おー!そっかそっか!天童も楽しみにしてくれてたみたいで嬉しいわ!で、いつから準備出来てた?さっき?」

「い、一時間ほど前から……」

「………………ククッ。楽しみにしすぎだろ」

「初めてなので楽しみなんです!今、朝食温めてきますっ!」


 一条君は可笑しそうに笑う。

 恥ずかしさが限界に達し、私はキッチンに逃げ込んだ。



 ※※※



「ご馳走様!今日の朝ごはんさ、俺好みの味付けですげー美味かった!」

「ありがとうございます。一条君のお口にあって良かったです」


 恥ずかしくなってしまうほど率直に、感想を述べてくる。

 わざわざ言わなくても、残さず綺麗に食べてくれてるのを見れば分かるのに。

 これも、一条君の良い所なんだろう。


 朝食を終えた一条君は、テキパキと動き、たったの十分ほどで準備を終えていた。


「うし、待たせてごめんな。忘れもん無いか?」

「いえ、私が早すぎただけなので……。忘れ物はありません。そうだ、一条君は日焼け止めは塗らないのですか?」

「いつも塗ってないな。まぁ、平気だろ?」

「暑さが控えめになっても、紫外線の量は変わりません。私ので良ければお使いください」

「お、おぉ……わかった。でも、使ったことないからさ……どうすればいいんだ?」


 私が手渡した日焼け止めを、困った顔で見つめる。


「なるほど……。では、洗面所まで来て頂いてもよろしいですか?」

「お、おう?」


 洗面台の鏡の前に立ってもらい、一条君から日焼け止めを受け取る。

 適量を手に取り、おでこ、両頬、鼻頭、下顎にチョンチョンと置くように塗る。


「各部位の日焼け止めを満遍なく伸ばすように塗ってください」

「こ、こうか?」

「はい。たったこれだけですよ」

「結構簡単だな。メイクとかみたいに、色々複雑なのかと思ってた」

「一条君は、お肌が凄く綺麗なので、外出時は日焼け止めを塗ることをオススメしますよ。……あ、少し塗りムラがありますね」


 私は、一条君に一歩近づき、グッと背伸びをして右頬に指を滑らせムラをなくす。


「ッ!!あ、サ、サンキュ!よし、行こうぜ」

「へ?は、はいっ」


 一条君は、何故か息を飲むような雰囲気を見せ、慌てて洗面所から出ていく。

 その行動に首を傾げながらも、急いで後を追った。

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