幕間〜ノワールの憂鬱②〜

ご機嫌よう。妹の事を語らせたら意外に長くなり、2つに分けられてしまいました。

ノワール・ドゥ・ローズです。




突然ですが、僕には親友といっても過言ではないだろう友がいます。

彼の名前は、クラウス・フォン・アインデル。

この国の第二王子。


王子達と同じ年頃の貴族の子息を集めた茶会で、何度かご挨拶したり話をする内、彼は何故かいたく僕の事が気に入ったようで、自然と彼の横に侍る事になりました。


クラウス様は自由奔放で強引なところがありますが、幼い頃よりその才能を開花させた天才なのです。

勉学や帝王学等は既に王立学園で学ぶレベルに達しているとか。

また、この国では希少である魔法の腕も飛び抜けていて、何個かの魔法は無詠唱で扱えます。

きっと、産まれながらの天才なのでしょう。


ですが、その弊害なのかは定かではありませんが、クラウス様には感情というものが所々抜け落ちているのです。

そんなクラウス様が人に興味を持ち、側に置きたいと願った事で、僕は一も二もなくクラウス様の側近となりました。

2人でいると自然と他にも気の合う仲間が増え、今では、近衛騎士団長子息、神殿の神官長子息、宰相子息のだいたいこの5人でいる事が多いです。


この中で妹がいるのは僕と宰相の息子だけ。

宰相の息子は妹に対してとても淡々としていて(それは妹も同様のようだ)キティ最推し妹天使の僕とは正反対。

元々人への興味が気薄で、それは自分の兄弟に対してもそうであるクラウス様は、いたく僕の妹に興味を持ちました。


僕のキティ話を聞きたがり、しまいには一目会わせろと侯爵邸に訪問してくる始末。

(いつもは僕達が王城に参じています)


僕は迷いに迷いましたが、第二王子からの願いを無碍に出来ず……いえ、本当はしようと思えば出来ましたが。

ちょっとキティを他人に自慢したい気持ちもありまして……。

結局は2人を会わせる事にしました。


本来なら天使の如く可愛らしいキティですが、今は本人の願いでその顔は分厚い前髪に隠れていますし。

万が一も無いだろうと慢心していたのが悪かったのです……。


そもそもクラウス様はさまざまな事に興味を持ちますが、どれもあっという間に理解してしまい、途端に興味を無くす方です。


キティの事も、僕達の兄妹愛を一目見れば納得して、直ぐに興味を無くすと踏んでいました。


……それなのに……。

僕は目の前の光景に呆気にとられ、暫く動く事も出来ませんでした。


クラウス様は僕のキティを嬉しそうに膝に乗せ、その髪に顔を埋め、僕がキティに毎日しているように、スリスリハムハムスンスンしているではありませんか!


そ、それは僕の専売特許です!

とか。

こんなクラウス様初めて見た……。

とか。

プルプルして怯えてるキティかわゆす。

とか。


色々な思いが一気に頭を駆け巡りますが、いや、その前にっ!


僕はベリっとクラウス様を可愛いキティから引き剥がします。


「さっきからうちのキティに何をしているんですか?」


ニッゴリ笑って問い掛ければ。


「なんだよ、どうせお前もこれくらい毎日してるだろ?」


ムッとした様子で返されてしまい、僕はウッと言葉に詰まってしまいました。


何故知っているんだろう?僕はそんな事まで話しただろうか?


「っ…僕は兄妹なのでいいんですっ!」


動揺しつつ答えれば、クラウス様はしてやったりといった笑みを浮かべました。

……っしまったっ!

焦る僕を尻目に、クラウス様は決定的な言葉を放つのです。


「なるほど……兄妹ならいいと……なら、それ以上ならもっと愛でまくれる訳だな?」


僕は内心、顔面蒼白になりました。

これはつまり、キティを婚約者に内定するぞ、との脅しです。


キティは生まれながらにクラウス様の婚約者候補としてその名前を連ねています。

上には公爵家の娘(例の宰相息子の妹)他がいるものの、家柄的にもその順位はかなり高い。

クラウス様が気に入ったとなれば、早々に婚約者に内定されてしまう。


そうなれば、王子妃教育の為、毎日王城に参じる事になるし、下手したら王城に部屋を賜り、僕達家族から離れなければいけなくなる.…。


やっと家族4人で暮らせるようになったばかりだというのに……。

その事はクラウス様もご存じの筈だ。

感情が抜け落ちているとはこれほどにやっかいな事なのか……。


僕は痛む頭を押さえ、深い深い溜息をついた。


「うちのキティはいけません。怖がりで人見知りで繊細な子なんです。お願いですから、変な気を起こさないで下さい……その代わり……」


何とかそこまで言って、言い淀む。

そんな僕を見て、クラウス様は楽しそうに笑っている。

最初からクラウス様の掌の上で転がされていたような気さえする…。


「その代わり?」


相変わらず楽しそうに僕の言葉の続きを促す。


僕は血を吐く思いで言葉を続けた。


「……っ!その代わりっ!僕と同等程度、あくまで兄妹程度に、キティの事を可愛がる事は………っ許容しましょう……」


ああ……。なんて事だ……。

僕の可愛いキティを他の誰かと分け合わないといけないなんて……。

くっ、耐えられない。



これ見よがしにキティにスリスリハムハムスンスンするクラウス様をどうやって亡き者にするか……。

その夜密かにお父様と話し合った事は言うまでもない。

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