episode.6-2

そんな風に育てられてきた幼いキティは、家に戻ってから混乱の嵐の中に居た。

無償の愛情を向けてくる家族。

温かな日常。

優しく穏やかな家庭。

どれもキティの知らない事ばかり。


愚鈍な筈の母親は優しく聡明で、父親はどこまでもキティに甘い。

優しく美しい兄も、キティを甘やかしたくて仕方の無い様子だった。


これが私を産まれて直ぐに捨てた家族なのか?

キティは疑問に思った。

疑問を持つ事が出来た。

それはひとえにお祖父様がお祖母様の目を盗んでキティが歪みきってしまわぬよう、フォローし続けてきたお陰だった。


だかそのお陰でますますキティは混乱した。

幼い心はアンバランスな気持ちをコントロールしきれず、癇癪という形で表に現した。

いっそお祖母様に染まりきっていた方が、幼い心は傷付かずに済んだかも知れない。

愚鈍な母親。その愚鈍さを愛する愚かな父親。

何も知らず、穏やかな家庭でぬくぬく育てられてきた憎い兄。

キティは自分の心を守る為、そう思い込もうとしたが、お祖父様の善良さがそれを許してくれない。

ますます心のコントロールを失い癇癪に拍車をかけた。


早く家族に見限られたい。いや、もう二度と捨てられたく無い。

幼すぎる心にはとてもではないが耐えられない苦痛だっただろう。

私はキティの痛いほどの思いを追体験したのだ。


ここからは私の唯の憶測なんだけど。

そんな時に兄の親友のクラウス王子に出会ってしまったら?


まるで絵本の世界から飛び出してきたような、完璧な王子様。

お祖母様の言っていた、キティが嫁ぐべき相手。

そして、間接的ではあるが、キティをあのお祖母様から救い出してくれた人。


キティがクラウス王子を渇望するには充分な条件が揃っていた。

それは、純粋な恋心というよりも、執念のようなものだと思う。

キティは今だ、お祖母様の呪いの言葉から解放されるに至らなかった筈だ。


私が転生前の記憶を思い出さなかったら、きっとキティはクラウス王子に執着したまま、成長したのだろう。

それでも、どこかでお祖母様への反発心は燻り続ける。

無意識にでも、お祖母様の言うなりになる事を良しとしなかったキティは、わざと学ぶ事を放棄した。

学力も教養も気品も一切身に付けず、自ら王族に嫁ぐ可能性を投げ出した。

そして迎える王子ルートの最後。


お祖母様に言われるがまま、王族であるクラウス王子に執着し、お祖母様への反発で、大好きなクラウス王子に嫁ぐ可能性を踏み潰してきた。

そんなキティは、王子と自分以外の女性の結婚式をどんな想いで見ていたのだろうか?


これが、王子ルートでキティが自殺を免れない理由だった。


だけど、前世を思い出した今、回避出来るきっと出来る。

このままクラウス王子と接触さえ無ければ……。


前世の私も、ごめんなさい……クラウス王子に狂っていましたっ!

もうっ!同担拒否は当たり前!主人公拒否だってそりゃ必然っ!

画面越しでも狂おしいくらい愛せたのに、生身のしかもショタ姿ってど〜ゆ〜事っ⁈

推せるっ!どこまでも推せるっ!

クラウス王子のショタからシニアまで見守りたい。

けどっ!悲しいかな、キティは婚約者候補ほぼ最下位…。

私とクラウス王子がどうかなるなんてあり得ない。

そもそも9年後には主人公が現れるし、それでクラウス王子ルートのハッピーエンドに辿り着く可能性の方がよっぽど高い。


彼が他の女性と結婚する姿とか見たくないっ!

目よっ潰れろっ!いやいっそ、心臓よ止まれっ!


……ってね。

もう狂ってんの……あたい狂ってんの。


昨日の初対面だけで、この威力。

これ以上接触なんかしたら、破滅真っしぐら!

破滅ルート回避する自信なぞ無いっ!(キッパリ)


どう考えても1番破滅ルートに近いのが、このクラウス王子ルートなのだっ!

お分かり頂けただろうか?


自分の為に、キティの為に、1番お近づきになりたく無かったのが、クラウス王子だったのに……。

折角の貴重なショタ姿も、後ろから死神がデスサイズ掲げてる幻覚と重なって、ガクガクブルブル震えが止まらなかった、という訳だったのです。


ご理解頂けただろうか?

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