episode.6-1

あら?何だかお久しぶりですわね。

皆さまご機嫌はいかが?

キティ・ドゥ・ローズでございます。

前回私の救援要請を華麗にスルーされた事は、どうかお気になさらないで下さいな。

私は忘れませんけれど……。



「さて、どうしたらいいかしら……」


私は無意識にそう呟きながら、さっきからただ部屋の中をウロウロと歩き回っている。


あの、突撃!自国の第二王子襲来!からひと夜明け、私は今後どうすべきか必死に考えていた。


クラウス・フォン・アインデル。

アインデル王国の第二王子。

輝く黄金の髪にアイスブルーの瞳。

身長182㎝。彫刻のような顔とスタイル。

頭脳明晰で魔法も使え、剣術にも長けている。

優しさと厳しさを合わせ持つ、王道王子様キャラ。

「すまない。もう、逃してやれない」

(某イケメン声優:cv)


キャーッ!クラウス様ーっ!

私はクラウス様特性うちわ(幻覚)を両手に持って、特大超美麗スチル(幻覚)に向かって黄色い声援を送る。


そう………もうお気づきの事かと思いますが……あえてぶっちゃけると……。

私の前世最推し最萌最尊っ!それがクラウス王子なのっ!キャーッ!


って、丸わかりよね。スン。

それで最推しに会えたと言うのに、何故ああも恐怖に震えていたかと言うと……。

このっ!クラウス王子ルートのキティの死因がっ!

ハッピーだろうがバッドだろうが、有無を言わさず自殺なのっ!

いやいやいやいやっ!無理無理無理無理っ!怖い恐い怖い恐いっ!

どう死ねのも怖いけど、やっぱり自殺が1番怖いっ!


私が1番避けたいと思っているのが、このクラウス王子のキティ自殺エンド。

いやいや、自殺なら防ぎようあるじゃん?

しなければいいだけだし。

1番生存確率高くない?

って思うよね?思っちゃうよね?

でもね、このキティ自殺エンド。

ファンの間では実は他殺じゃないかってまことしやかに囁かれているの。

キティ、暗殺説があるのもこのルート。


まぁ、暗殺については真相は定かでは無いけど、クラウス王子ルートでキティが自殺を選ぶのも、実は避けられない事でして。


キティは本気でクラウス王子を愛していた。

お兄様が友達でお会いする頻度の高かったキティは、小さな頃からクラウス王子が好きで好きで、それだけでただひたすらに突っ走っていたのだ。


結果、王子と主人公の周りをキャンキャン吠え回り、ハッピーエンドでは王子が主人公と結婚する事に耐えられず自殺。

バッドエンドでも、王子が他の婚約者候補と結婚する事に耐えられず自殺。


キティにはクラウス王子が唯一で、大きな大きな心の拠り所だったから、耐えられる訳が無かったのよね。

キティってば、元々繊細な質だったみたいだし。


生まれ変わりに気づいてから、家族やマリサに色々聞いて回り、本編では知り得なかったキティの事を知れば知るほど、あぁ、王子ルートのキティの自殺は避けられなかったんだなってしみじみ思う。

例え暗殺だったとしても、自殺に見せかけて殺されても誰も疑わないくらい、キティは王子に夢中だった。


初めて知ったキティの生立ち。

産後、ベッドから起き上がれなくなってしまったお母様。

それを良い事に、産まれて直ぐにお祖母様に連れて行かれた事。

そしてそれから4年間、この家に戻してもらえなかった事。

お祖母様の元で何不自由なく育ててもらったけど、ずっと本当の家族が恋しかった事。

毎週末会いに来てくれるけど、決して自分は一緒に連れて帰ってはもらえなかった事。


聞けば聞くほど当時のキティの記憶や感情が湧き上がってきて、悲しくて辛くて寂しくて、涙が止まらなかった。


そうしてキティの記憶を思いだした事で、私はキティがなぜあんなにクラウス王子を盲目的に愛し、執着していたのかに気づいた。


そう、全てはやっぱりあのお祖母様が元凶だったのだ。


そもそもが何故お祖母様があんな暴挙に出たのか……と言うと。

それは娘を育てるのに失敗したから。

と本人が思い込んでいるから。


お祖母様の娘、つまりはキティの母親だけど。

お母様はお祖母様とまったくの正反対な性格。

お母様の穏やかでたおやかな様子を、お祖母様は愚鈍でノロマだと言っていた。

無欲な性格を、貴族のくせに平民根性が染み付いている、と罵っていた。


間違いなく自分がお腹を痛めて産んだ娘なのに、何故それ程までに蔑めるのか、本当に不思議でならない。


たぶんお母様はお祖父様に似たんだと思う。

つまり、母親では無く父親似。

お祖母様は自分のクローンのような娘が欲しかったみたいで、自分の思い通りに育たなかった事でお母様を失敗作と評していた。


キティはそんなお祖母様に、自分の母親のようにはなるな。

愚鈍でノロマで平民のように卑しい娘は2人も要らない、と言われて育った。

更に、お前がそんな風になりそうだから、お前の家族はお前を捨てた。と嘘をついた。


結果キティは家族から見捨てられたのだと勘違いしたまま、お祖母様にまで捨てられないように、お祖母様のクローンのように育つしか無かったのだ。


そして、お祖母様はキティにこうも囁き続けた。


「お前は必ず王家に嫁ぐのですよ」


それは呪いの言葉として、幼いキティの心に刻み込まれた。

実際キティが家に帰されたのは、お兄様がクラウス王子の側近に選ばれたからだ。

お兄様の側に居た方が、クラウス王子との接触が図れるだろうと判断されたから。

更に、いつまでも小さいままのキティを内心気味悪がっていたのもあった。

それを他人の機微に聡いキティは薄々気づいても居た。


どこまでも報われない、可哀想なキティ。

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