幕間〜ノワールの憂鬱①〜
ご機嫌よう。淑女の皆様。
僕は、ノワール・ドゥ・ローズ。
このアインデル王国の貴族、ローズ侯爵家の嫡男です。
突然ですが、僕には2歳離れた可愛い妹がいます。
妹の名前は、キティ・ドゥ・ローズ。
僕の可愛い天使。
キティは多少我儘なところがあるものの、可憐で繊細な自慢の妹なんです。
そもそも、キティの我儘や癇癪持ちなところにもちゃんと理由があるんです。
キティを産んで直ぐ、お母様は体調を崩されてしまいました。
産後の弱った身体を流行病に侵されてしまい、寝床から起き上がれない日々が続きました。
その為、母方のお祖母様が半ば無理やり、キティを連れ帰ってしまいました。
キティはお祖母様の邸でそのまま4歳になるまで過ごす事になります。
その頃にはお母様も体調を取り戻し、僕達家族はお祖母様に再三キティを我が家に帰すように言ったのですが、お祖母様はまったく聞いて下さいませんでした……。
お祖母様は良くも悪くも貴族の淑女そのもののような方です。
貴族、従者、召使と平民、全てをそれぞれキッパリと分け、貴族らしく贅沢を好み、華やかな場や権力を愛し、我儘という概念は無く、少々ヒステリック。
全ての物事を自分の思い通りにしないと気が済まない、という性分なのです。
そんなお祖母様の元で育ったキティは、正にお祖母様のミニチュア版のように育ちました。
それでもまだ幼い子供。
僕達家族は今まで離れていた分、惜しみない愛情をキティに注いだのです。
特にお父様は、溜まりに溜まった愛情を吐き出すが如く、キティを甘やかします。
それがキティの我儘を増長させているとは、つゆとも知らず。
きっとキティは幼心に家族と離された哀しみを持て余していたのでしょう……。
そして自分をいつもお祖母様の家に残して帰る家族をどこか憎んでいた事でしょう……。
我儘を言うキティに仕える者が中々定着しない中、元々母の侍女だったマリサが1人手を上げてくれました。
優しく慈愛に満ちたマリサの元で、キティは徐々に落ち着いていくかに思えましたが……やはりお祖母様の呪い(?)はそんなに簡単ではありません。
マリサが結婚すると、キティはまた激しく荒れ始めたのです。
キティは繊細で人の機微に聡い子です。
きっと、家族の代わりに心から信頼していたマリサが、他に自分の本当の家族を作った事に裏切られたと感じてしまったのでしょう。
以前にもまして我儘、癇癪に磨きがかかったキティをそれでもマリサは優しく包み込んでくれていました。
そんなマリサに徐々にまた心を開きかけていた頃、ある日を境にキティは急に大人しくなったのです。
まるで別人のように落ち着き、言葉遣いも丁寧に、そして何故か僕に対してもじもじと恥ずかしそうにし始めました。
以前は、父と母を独り占めにしてきた敵のように、遠くから僕を睨んでいたのですが。
それでも僕は妹が可愛くて、見つめられているとニコニコしてしまい、近づこうとしますが、フシャーッとまるで猫のように威嚇されて逃げらていました。
もう、それさえも可愛くて仕方ありませんでしたが。
それが、最近のキティは僕が近づいても逃げないどころか、もじもじしながらでも会話をしてくれるのです。
なんて事でしょう……。
キティがますます可愛くなってしまいました。
これでは直ぐに他家から婚約希望者が群れをなして押し寄せてきてしまいます。
僕はまだまだキティを他の男の所にやるつもりなどありません。
それはお父様も同じ気持ちでしたので、僕らは最近のキティの愛らしさにやきもきしていたのです。
そんな日々の中、キティは前髪で自分の顔を隠し出したのです。
きっとキティはやっと自分の愛らしさに気づいたのでしょう。
このままでは早々にまた僕らと離されてしまう事になると、自らその可愛い自分の顔を隠してしまう事にしたに違いありません。
何て賢く聡明な子なのでしょうかっ!
まだ6歳だと言うのに……生まれて直ぐに苦労をさせてしまった事が、キティを早熟な精神に導いてしまったのでしょう……。
ああっ、キティ。僕はそんなキティがやっぱり可愛くて仕方ない。
僕に出来る事なら何でも強力するからね。
全てお兄様に任せてほしい。
そうして僕は今日も、すっかり顔の半分を覆い隠してしまったキティの厚い前髪を愛おしげに撫でて、そのふわふわの髪に顔を埋め、スリスリハムハムスンスンするのです。
「あの……お兄様……?」
おずおずと不思議そうに聞いてくるキティに、僕はにっこり笑って答えました。
「僕らは兄妹なんだから、これくらい普通の事だよ」
その僕の言葉に、キティはフンスフンスと頷きます。一生懸命さがもはや天使です。
「流石西洋人(?)設定……兄妹でもスキンシップ多め……」
よく分からない単語も混じっていましたが、キティは納得してくれたようです。
以前の近づくとフシャーッと逃げてしまうキティも可愛かったのですが、やっぱりこうして近くで思う存分愛でる事が出来る幸せを僕は噛み締めていました。
……えっ?洗脳?
ふふっ。何の事でしょうか?
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