episode.10
皆さまご機嫌よう。
キティ・ドゥ・ローズ(10)でございます。
えっ?急に巻き上げてきたなって?
ええ、いつまでもサ○○さんという訳にはいきませんからね。
拝啓。今でしょ!先生。
私は今、勉学の楽しさ、大切さをしみじみ噛み締めております……。
勉強なんて、どこで誰に習っても同じだなどと、前世の私はどうして思えていたのでしょう……。
教えて頂く方によって、こんなに変わるだなんて……。
もっと早く気付けていたら、迷いなく貴方にご師事致しましたのに……。
お父様が紹介してくれた教師陣は本当にトップクラスの凄い先生方だった。
算術・幾何学・天文学。
文法学・修辞学・論理学。
これらを教えてくれるのは共に王立大学で教鞭をとられている、ロベール教授とリーコネン教授。
2人とも前世では定年前くらいのお年なのに、まだまだ現役で溌剌としていらっしゃる。
そしてマナー教師のグローバ夫人。
この方は高位貴族のご令嬢や王族のお姫様からも厚く信頼を得ている、マナーのスペシャリストなのだ。
本来なら何年も待たなければ教えて頂けないような方なのに、一体お父様はどうやってこんなすごい方々を私ごとき小娘に用意出来たのだろう…?
私は改めて侯爵家の強大さに慄くばかりだった。
この御三方に教えを乞う日々はとても楽しく有意義で、月日はあっという間に流れ、私は10歳の誕生日を迎えていた。
7歳の時、クラウス王子からの縁談をお断りしてから……クラウス王子は我が邸に一切ご訪問されなくなる事は無かった……。
んっ?されなくなるなるなく?
いや、とにかく、まるで何事も無かったかのように、まぁ大体週2くらいでやってくる。
わたしの授業が月曜日と火曜日と木曜日。
そしてクラウス王子が押し掛け(ん"ん"っ)ご訪問されるのが週末。
教師の授業の無い平日は自主学に励み、クラウス王子のご訪問される週末は何やかんやと翻弄されまくり……。
歳の割にまぁまぁハードな日々を送っております。
更にクラウス王子からの縁談の申し込みですが……。
こちらも何故か続いているのです。
私の誕生日前になると、まるで季節の挨拶かの如く、毎年クラウス王子からの縁談の申し込みが届き……。
今年も丁重に丁重にお断りさせて頂いたところです。
そして週末になれば、まるで何事も無かったかの様に現れるクラウス王子……。
流石に、一体この人は何がしたいのかと思い始めた今日この頃……。
物思いに耽りながら中庭に続く吹き抜けの廊下を歩いていると、数メートル先にお兄様が立っていて、無言で顔の前で×印を作っている。
私も無言で頷き、来た道を戻ろうと踵を返した途端、トンッと誰かの胸にぶつかってしまった。
「キティ、どこに行こうと言うのかな?」
にっこり微笑むクラウス王子を見上げ、私はアワアワと慄いた。
しかし、それならばっ!と再び踵を返しお兄様の所に走り出そうとして、ヒョイっとクラウス王子に抱き上げられてしまう……。
お兄様司令官、ミッション失敗です。
涙目でお兄様を見ると、お兄様はあぁ〜と悔しそうに片手で両目を押さえていた。
不甲斐ない妹で本当にすんますん…。
「ふふっ、キティ、今日は良い陽気だね。
侯爵家ご自慢の中庭でお茶にしようね」
すっかり勝手知ったる何とやらで、クラウス王子は私を抱えたまま、スタスタと中庭に向かう。
後ろから悔しそうなお兄様がついて来る。
うぅ、自分の鈍間さが恨めしい。
中庭に着くと、すでに3人の少年達が楽しそうにお茶をしていた。
「おや?キティ様、今日も早かったですね」
そう言って笑うのは、大司教様のご子息である、ミゲル・ロペス・アンヘル様。
(病死ルート)
背中の中ほどまである淡い水色の髪をゆるく後ろで結んでいる。
そして銀色の瞳を優しく細めて、クスクスと笑う。
「ノワール、負けっぱなしじゃ男が廃るぞ?」
お兄様の背中をバシバシ叩いて豪快に笑っているのは、ジャン・クロード・ギクソット様。
(刺殺ルート)
王宮の近衛騎士団、団長様のご子息。
深いブルーの髪を短く刈り込んでいる。
瞳の色は燃えるような赤。
「侯爵令嬢を人形のようにいつも抱き抱えるなど、関心できることでは無いな」
金色の瞳をキリッと光らせ、至極真っ当な事を言って下さったのは、レオネル・フォン・アロンテン様。
(絞殺ルート)
宰相のアロンテン公爵様のご子息。
長い漆黒の髪が印象的。
この高貴な御三方とお兄様(転落死ルート)の4人で、クラウス王子の側近を務めている。
あらあらあらあらあらぁ?
皆さま、まさか気付かれてしまわれました?
いや、そんなワザとらしい()あったら誰でも気付くわ!って?
だって、早めに気付いて欲しかったんですものぉ。
お一人お一人紹介するのも、大変だったんですのよ?
そう!この3人とクラウス王子、お兄様を合わせた5人が何を隠そう!
「キラおと」の攻略対象オールスターズなのである!
えっ?だから、隠せてなかったし、やたら丁寧な紹介と()の内容で誰でも気付くって?
あらあら、そうかしら?
独特な紹介方法(髪の色、瞳の色を必ず入れる)。
やたら長い名前。
王、公爵、宰相、騎士団長、大司教のそれぞれの子息達。
このテンプレかつ!様式美で、彼らが攻略対象だと気づいてしまった方は!
乙女ゲーム(またはそれに付随する創作物)に見識があるって事よっ!
乙女ゲーム(またはそれに付随する創作物)にまったく面識の無い人なら、えっ?急にいきなりいっぱい人が出てきたんですけど?
程度の感想よ。
間違っても、はいはい攻略対象、攻略対象〜。
知ってた〜。なんて!態度では無いのよっ!
ふふふ、まぁ、これはまだまだ初歩の初歩でしたわね……。
ですが、まだ入り口と思っているその先は、一歩踏み出しただけで直ぐに沼でしてよ。
さぁ、沼から顔だけ出してる私達と、あ〜そっび〜ましょ〜………。
私が1人ドゥフドゥフ笑っていると、クラウス王子が当然のように膝に乗せている私をぎゅーっと抱きしめた。
「どうしたの?キティ。
ご機嫌だね?可愛いよ」
クラウス王子の言葉に、騎士団長子息、ジャン様が顔を引き攣らせて言った。
「おい、これが本当に可愛いか?」
あら?侯爵令嬢を指差さないで頂きたいわ。
私はプイッとそっぽを向いて、抗議を表す。
そもそもね、貴方達攻略対象オールスターズが悪いんですのよ?
ショタから少年へと変わっていくその姿をガッツリ間近で拝見してきたのですもの。
あの美麗スチルの青年達の少年時代ーー!
貴重過ぎて眼福が止まらないーー!
ドゥフドゥフせずにいられようかーー!
たとえ気味悪がられようともーー!
ドゥフドゥフドゥフドゥフドゥフ……。
「おいお前、マジで大丈夫か……?」
流石に心配そうに私の顔を覗き込もうとするジャン様の顔を、クラウス王子がぐぐぐーと押し返す。
「可愛い、キティ」
そう言ってクラウス王子は私の顔を覗きこむと、私の後ろ頭をそっと押さえてすっと顔を近づけてきた。
その綺麗な顔のドアップに、私は動く事も出来ず、ボーっと惚けてしまった。
そして………。
チュッ。
クラウス王子の形の良い唇が、私の唇にそっと重ねられる。
私の頭は一瞬何が起こったのか、理解出来なかった。
音を立てて離れていくクラウス王子の唇を見つめて……やっと何をされたのか、理解した。
「ごめん、可愛かったから、つい」
嬉しそうに笑うクラウス王子の言葉に、瞬間顔に一気に熱がこもった。
キ、キスされたっ⁈
今、キスされたの⁈
しかも、唇が離れる瞬間、上唇と舌で私の下唇をチュッて吸わなかったっ⁈
カッとなった私は、『ふざけないで下さいまし!』とバシーンと叩いてやろうと、クラウス王子を涙目でキッと睨みつけた。
「ふっ!」
「ふ?」
「フッ!」
「フ?」
「フシャーーっ!」
私は全身の毛を逆立て、目を更に吊り上げながら、クラウス王子の膝に爪を立てた。
そしてクラウス王子の膝から飛び退くと、日頃では考えられない速さで逃げた。
吹き抜けの廊下の柱に身を隠し、そこから頭だけ出して、もう一度「フシャーっ!」と威嚇してから邸の中に逃げていった………。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ああ、キティ。そんな……」
クラウスは両手で自分の口を覆うと、肩を震わせている。
流石に反省したのかとミゲルがその顔を覗きこむと、しかしクラウスはその瞳を嬉しそうにキラキラさせて、頬を染めていた。
「可愛すぎるよ……」
続くクラウスの言葉に、これはダメだとミゲルはこめかみを押さえた。
「お〜い、流石に今のはダメだろって、おい!ノワールっ!」
隣から漂ってきた尋常じゃない負のオーラに、ジャンは慌てて飛び退いた。
「やめろっ!ノワールっ!氷塊の呪文を詠唱するんじゃないっ!」
「落ち着けっ!ノワールっ!」
ジャンとレオネルの静止も虚しく、ノワールは呪文を最後まで唱えきった………。
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