幕間〜第二王子の情念〜②

衝撃的なキティとの初対面後、俺はノワールを半ば脅して、キティを心ゆくまでモフったり抱っこしたりした。

キティはどこもかしこもフニフニのモフモフで、可愛くて仕方ない。

俺の膝でプルプル震えている様子など、もう天使以外の何者でも無い。


フワフワの髪に顔を埋めてスリスリすると、はうはう言って顔を真っ赤に(鼻から下しか見えないけど)してる、可愛い。


俺は直ぐに侯爵夫人に、キティを俺の婚約者にしたいと直談判した。

しかし侯爵夫人は困ったように眉を下げて微笑んだ。

しかしこの人、ノワールそっくりだな。


「失礼ながら、殿下はまだうちのキティを1人の個人として認識出来ていないのでは?」


夫人の言葉に、俺は首を傾げた。


「殿下は人を何で区別致しますか?」


「使えるか、使えないか、だ」


そんな簡単な事なら、直ぐにでも答えられる。


俺の答えに、夫人はあらあらと困ったように笑う。


「それであれば、キティは殿下の役には立たないのでは?」


夫人の言葉に、俺はう〜んと首を捻った。


「いや、そんな事は……例えば、俺を癒してくれたり……とか」


確かに夫人の言う通りだったので、俺は苦しげに答えた。


「あら?殿下に癒しが必要でして?」


夫人に返され、俺はぐっと答えに詰まる。


「それは本当に殿下のお役に立つ事でしょうか?」


ふふふと笑う夫人に俺は言い返す言葉も無い。


「……でも、そうですわね。

若い芽を摘むのも野暮ですわ。

……では、殿下、こう致しましょう。

殿下はお強くなって下さい」


夫人の言葉に俺は目を丸くした。


「強くとは?魔法の事か?それとも武術?」


俺の問いに、夫人はますますにっこりと微笑んだ。


「何でも。殿下の思う強さで良いのです。

それから、キティには何も強要しない事」


「強要しない……?」


「ええ、王族の力では無く、己の力のみでキティを手に入れて見せて下さい」


夫人の言葉に俺は大きく頷いた。


「分かった。キティには何も強要しない。

俺はキティがどうしても欲しい。

だから、強くなる。それで良いか?ソニア侯爵夫人」


俺の返事に夫人は満足したように頷いた。



今思えば、あの時俺は浮かれていた。

初めて手に入れたいと思う程の感情に出会い、浮かれ切っていた。


何故なら夫人に、どこまで?と聞き忘れていたからだ。



それから俺は人生初めての努力をした、猛将と名高いローズ侯爵に剣と槍を習い、ジャンの父親、ギクソット伯爵に武術を習った。

魔法の腕も磨き、勉学にもより一層励んだ。


俺が色々な事に励み出したので、また魔法優勢位派が色めき出したが、存外力に物を言わせるのも有効だと気付いた(もちろん物理的な方だ)。


もちろん、キティとの交流も忘れない。

毎年、キティの誕生日前には縁談を申し込んでは、ローズ侯爵に跳ね返された(あのクソ親父)。

ローズ侯爵は、毎回キティに決めさせていると言うが、信用ならない。


娘を溺愛しているローズ侯爵の事だ、勝手に握り潰しているか、キティに受けないように言い含めてあるんだろう。


まぁ、俺の方もその事はさして問題では無いので、気にしてない。


大事なのは、キティに俺が毎年プロポーズしていると言う実績作りだ。


つまり俺は婚約者をキティに決めている、という事を周りに周知させる為の根回し。

返事は二の次と言っていい。


ただしローズ侯爵さえ首を縦に振れば話はもっと早いのだが……。


まぁ、それでも徐々に周りを黙らしておくに越した事は無い。


レオネルの妹、アロンテン公爵令嬢シシリアが、過去俺の婚約者候補筆頭だった事が、まだ懸念材料としてあるからだ。


シシリアは今は俺の弟のフリードの婚約者だが(色々あった末)、公爵家の令嬢をあの凡庸なフリードに与えるのは如何なものかと言う声が少なくない。

……いや、実際はそんな事を言っている奴らは、ある権力の一点集中を恐れているだけなのだが。


そのせいで、未だにシシリアを俺の婚約者に、という声がうるさい。


今早々にキティと婚約を決めても、年頃になる頃にひっくり返そうとされては、鬱陶しい事この上無い。


まったく、当人同士は冗談じゃないと思っている事など知らず、呑気なものだ。


侯爵家では公爵家に比べて後ろ楯として何だかんだと言っているが、歴戦の猛将であるローズ侯爵以上の後ろ楯など無いだろう。

(物理的に)全てを薙ぎ払える人だぞ?


そんな訳で、俺の毎年続くキティへの縁談の申し込みは、そんな奴らを年々徐々に黙らせてきた。


そもそも王族の結婚など政略結婚の何物でもない。

縁談の申し込みは家にであって、個人にでは無い。

第二王子は後ろ楯にローズ侯爵家を選んだという事を徹底周知させておくのは有効だ。


まぁ、俺は個人的にキティに申し込んでいる訳だが。


月日が流れても、俺のキティへの執着は消えなかった。

それどころか、日々、一分一秒思いは増してゆく……。

それが一体何と言う感情なのか、気付いたのはあの12歳の頃だ。


キティのあまりの可愛さに、ついその唇にキスをしてしまった時。

何とも言えない満足感と幸福感に包まれた。


それと同時に、これは俺のだ、俺だけのキティだっ!と叫び出したい程の激情も湧き起こった。


そして、キティを好きだと気付いた……。

もうずっとずっと、俺はキティが好きだったんだ。


気付けば何という事もない。

人に対して感情を動かされるなんて思いもしていなかったから、気付くのに時間が掛かってしまったけど……。


まぁ、レオネルとミゲルとジャンは目を丸めて『今まで、自覚無かったのか……』と信じられない物を見る目で見てたが。

そしてノワールは『そのまま一生気付かなくて良かったんですよ?』と、にっこり笑って歯をギリギリ言わせていたが。

そう言えば、ノワール?

たまに俺の顔の前で糸のついた妙なコインをユラユラさせていたが、あれは何だったんだ?



キティを好きだと自覚してからは、ちょっとタガが外れたりもしたが、ローズ侯爵夫人との約束は守っていた。


権力争いに発展する前に、余から言っちゃう?王命出しちゃう?と煩い父を何とか抑え。

キティが俺を選んでくれるまで、辛抱強く待っていたが、お年頃になってくると、やはり色々キツくなってくる。


どう、キツイかと言うと、いつものようにキティを膝に乗してるだけで、ムラムラする。

率直に言えば、揉みたい。胸を揉みたい。

胸と言わず、全部触りたい。

直で。


色々舐め回して、突っ込んでキティの中をグチャグチャにしたい。

俺しか入れない部屋に囲って、足に足枷をつけて逃げられない状態にしてから、毎日昼も夜もキティと情欲を貪り合いたい……。


という、お年頃特有のごく一般的な悩みを抱えるようになった。


ちょっとだけキティで発散させて貰おうと思っただけなのに、たまたまキティの弱い所を攻めてしまった俺は、キティによって、ちょっとだけでは済まなくなる。


『ク、クラウス様、お戯れは、これ以上のお戯れは……はにゃんっ』


はにゃんって!

もう無理っ!


林に連れ込み、いつも以上にねちっこくキスしたりしてたら、キティが可愛い反応を返してくれるから、調子に乗って『キティ…ここが切なくなっちゃった?』とか揶揄っていたら。


『やっ……も、ダメェ……赤ちゃん出来ちゃうぅ……』


とか言われて、こっちのダメージの方が深い……。


も、何なのこの人……可愛すぎて頭がおかしくなりそうだ……。


それでもギリギリのとこで、我慢してたと言うのに……。


【祝義の謁見】の日、キティは顔を隠していた厚い前髪をバッサリ切って、胸の開いたドレスでやって来た。

ただでさえ可愛いのに、そんな可愛い顔を世間に晒して、この先無事でいられる訳がない。


有象無象の男達が虫のようにキティに群がって来てしまう。

群がって来たところで、全て焼き払うが、それでもこの可愛いキティを他の男に見られると思うだけで我慢が出来ない。


もう待っていられない。

キティには悪いが、早々に婚約者になってもらう……。


やや暴走気味に既成事実をでっち上げて、キティを婚約者に完全に内定した。


ローズ侯爵夫人の『あらあらお若いですわぁ、殿下』と言う困り顔(面白がっている)と優雅な笑いが聞こえてきそうだが……後悔はしていない。




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後書き


後悔はしていない(キッパリ

(2回目)

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