episode.40-4

「さっさと拘束するぞっ!」


レオネル様が声を上げ、ミゲル様が光の輪でぎゅうぎゅうにシャックルフォードを締め上げた。


シャックルフォードはもはや抵抗も出来ず、空をただ見つめる廃人のようになっていた。


「おい、またスキルを使われたら厄介だぞ。

その度にクラウスに捕まえさせんのか?」


困ったようなジャン様の声に、私をギュゥッ〜と抱き締めていたクラウス様が顔を上げ、何事も無いかのように答える。


「そいつの特殊スキルなら、俺が吸い込んだ。

ついでに魔力増幅と身体強化も解除しといたから、もうそいつは何も出来ない。

ちなみに、そいつの特殊スキルは一つじゃない、二つだ」


クラウス様の言葉に皆んなが固まり、驚愕の顔を向けた。


「待て、まずは、確認だ……。

特殊スキルを吸い込んだ……とは?」


「面白そうなスキルだったから、そのうちキティと遊ぼうと思って頂いた」


レオネル様の問いに、クラウス様はケロッとして答える。


んっ?

待て待て……。

情報が多いな……。


まず、レオネル様が聞きたいのはそこじゃない……。

それから、私と遊ぶって何?

その物騒なスキルで、どうやって私と遊ぶつもりなの……?


私は嫌な予感にブルルッと身体を震わせた。



「待て、そういう事では無く。

お前、人のスキルを自分の物に出来るのか?」


あっ、レオネル様がきちっと確認を入れてる。

流石クラウス様管理大臣。


「さぁ?やってみたら出来た。

今までも無意識にやってたかもな」


悪びれ無くそう言うクラウス様に、レオネル様が真っ青になってこめかみを押さえている。


「何でも有りかよ〜っ」


ジャン様がヘナヘナとその場に蹲った。


「とっくに人の枠から外れていた、という事ですね……」


ミゲル様が両手を胸の前で組んで、涙を流している。


「わ、分かった……。

その件は、また後日確認するとして……。

シャックルフォードのスキルが二つあったというのは、本当か?」


レオネル様が眉間に皺を寄せて聞くと、またしてもクラウス様は何でも無い事のように軽く答える。


「もう一つは、触れた他人の姿を模写するスキルだったな。

必要無いから消滅させといたが、レベルは何故かカンスト超えしていたぞ」


皆んな、真っ青な顔で固まった。


コピー能力っ!しかもカンスト越えっ!

それってかなり危険な能力じゃないのっ?

だって、触れれさえすれば、下手すれば、王族にだって……。


そこまで考えて、私はガクガクと震えながらお兄様を見た。


「お兄様……この部屋に辿り着くまでに、近衛騎士様や、教会の警備兵がいた筈ですが……彼らは?」


お兄様は得心のいった顔で頷いた。


「皆んな眠らされていた。

意識を取り戻しかけていた者にこの部屋に誰か近づかなかったか、と聞いたら、クラウス様以外は誰も……と言っていたが。

そういう事か……」


私は怒りでブルブルと震えた。

シャックルフォードは既に、クラウス様に化けていたんだわっ!

そうして易々とこの部屋に侵入したっ!


許せないっ!

クラウス様を騙るなんてっ!

絶対に、許せないっ!


私を抱くクラウス様の手に力が籠もる。


きっと、同じように怒りを感じているんだわ。

そう思ってクラウス様を見上げると、瞳が大きく開いて、更に瞳孔も開いているっ!


お、同じじゃなかったっ!

ちょっと黒い霧も出掛かってるっ!


私は慌ててクラウス様にギュッと抱きつき、見上げながら睨んだ。


「メッです、クラウス様っ!」


途端にシュンと項垂れるクラウス様。


「……はぁい」


か、か、可愛いっ!

返事が可愛いっ!

尊いが過ぎるっ!

しゅきっ!


思わずその胸に、スリスリと頬擦りをしてしまった。


「……クラウスの闇魔法を……メッ、の一言で鎮めた、だと?」


ジャン様が信じられないものを見た、という目で私を見つめる。


「流石ですっ、キティ様っ!」


もう崇める勢いで、ミゲル様が祈るように私を見ていた。



「やはり、生かしておいて良かった。

この男には色々と聞く事がありそうだ」


レオネル様が冷や汗を流しながら、シャックルフォードを見た。


「ミゲル、こいつをどこまで回復出来る?」


レオネル様の問いに、ミゲル様は難しそうな顔をして答えた。


「……時間を頂ければ、会話くらいは出来るまでに回復出来るでしょう」


その答えに、レオネル様は満足そうに頷いた。


「分かった。では、お前に任せる」


レオネル様とミゲル様は顔を見合わせて、頷き合った。


ジャン様がクラウス様の肩をガシッと掴み、情け無い声を出す。


「お前さぁ〜、なんでやり過ぎちゃうの?

ねぇ、何で?

特殊スキル二個持ちを制圧しちゃうのは流石としか言いようがないけどさ〜。

やり過ぎないで?

お願いだから、やり過ぎないで下さい」


ジャン様の懇願に、クラウス様はツーンっとそっぽを向いて答えた。


「キティが危ない目に遭ったんだ。

アレでも生ぬるい。

簡単に殺すんじゃ気が収まらなかったから生かして苦しめてやったが。

そのお陰で生捕り出来たじゃないか」


そのクラウスの肩をガクガク揺らしながら、ジャン様は半泣きで訴えた。


「廃人じゃんっ!会話も出来ない廃人状態じゃんっ!

取り調べたい事が山程あんのにっ、時間が掛かっちゃうでしょ〜?」


「知るか」


クラウス様はツンツーンっと更にそっぽを向き、頬を膨らませている。


その様子を見ていて、クラウス様の膨らませた頬をツンツン突くと、クラウス様は小首を傾げながら私を見た。


「クラウス様、ちょっと悪かったなって思っていますよね?

こういう時は素直に謝りましょう、ね?」


私にそう言われると、クラウス様はテレテレと頬を染め、皆んなに向かって軽く頭を下げた。


「す、すまなかった」


視線を逸らしながら頭を上げるクラウス様に、私はキュンキュンにときめきっぱなしつ!


かわゆす。

クラウスしゃまの可愛いが限界突破。


全身隈無く撫で回したのを我慢して、背伸びしてクラウス様の頭をナデナデした。


その時、異様な気配を感じて皆んなを振り向くと、そこには石化した皆んなの姿がっ!


えっ?いつの間にそんな魔法攻撃受けたのっ!


周りを警戒しつつキョロキョロしていると、石化から回復したシシリィがふらふらしながら呟いた。


「最強だわっ……キティ……あんたが世界最強よ……」


他の皆んなも次々に石化は解けていくのに、顔色悪く、何故かふらふらになっている。


「あの、クラウスに謝らせたぞ……。

もう、何でも有りかよ、キティ嬢……」

ジャン様。


「悪い夢を見ているようだ……」

レオネル様。


「天変地異の前触れに違いありません……ああ、神よ……」

ミゲル様。


「皆、すまない。

キティの純粋さは時に凶器になり得るんだ……」

ノワールお兄様。



えっ?ちょっと皆んな、失礼過ぎない?

クラウス様が素直に謝ったんだから、そこは『もう、ええんやで』って許してあげて、友情を深めるところじゃない?


納得いかず、ぷぅっと膨れる私をシシリィが畏怖の目で見ている。


そのシシリィの目を見つめ返し、私はふと、クラウス様の言葉を思い出しハッとした。


そうだわ、クラウス様は、シャックルフォードの魔力増幅と身体強化も解除した、と言っていた……。


ってことは、シシリィは身体強化している人間を蹴り一つでぶっ飛ばした、という事にならないっ⁉︎


「あ、な……なっ」


ワナワナと震える指でシシリィを指差すと、シシリィはぷくーっと膨れて、拗ねたように口を開いた。


「私だって身体強化くらい、使えるわよー」


使えんのっ⁈

って、同条件だからって、身体強化使ってる人間を蹴り一つでぶっ飛ばせないからっ!


冗談で言っていたけど、こやつ本当に超一級戦闘民族だったわ……。


私は乾いた笑いを上げた。




「おやおやぁ〜、無事に片付いたみたいだね?」


間延びした声に振り返ると、エリオット様がニコニコ笑って立っていた。


「気配を消して近付くの止めなさいよ」


シシリィが呆れたように肩を上げて言った。


エリオット様は穴だらけになっている部屋を見渡し、ふむっと顎に手をやる。


「それにしても〜……また派手にやったね」


ニッコリ笑ってシシリィに振り向く。


シシリィは、ピャッと数センチ飛び上がり、脱兎の如く私の背に隠れた。


いや……だから、隠れてないって。

身長差っ!考えて?


エリオット様は溜息をつき、部屋の中央で片手を上げた。


「タイムリバース」


エリオット様がそう呟くと、ボロボロだった部屋が見る見る綺麗に元通りになった。


「あいつの特殊スキルの一つよ」


シシリィが耳元で囁く。



えっ?

特殊スキル……の一つ?


エリオット様って、特殊スキル持ちなのっ!

しかも、もしかして複数持ちっ⁉︎


「ちょっと、それ、私のドレスにもお願い」


シシリィが相変わらず私の背の後ろに隠れた(つもり)まま、破れたドレスからそのスラっと長い足を覗かせた。


途端にエリオット様の笑顔が引きつり、ズカズカとこちらに大股で歩いて来ると、私の背の後ろからヒョイっとシシリィを引き摺り出し腕に抱えた。


「……なるほど……このお転婆にはお仕置きが足りなかったらしい……」


ボソッとそう呟いて、シシリィに向かってニッゴリ微笑む……。


絶叫を上げながらドナドナされていくシシリィを、チベットスナギツネ顔で手を振り見送った。


……命を助けて貰っといて何だけど……。

あんたはちょっとくらいお仕置きされた方が良いと思うの……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る