episode.41

皆さまっ!私、生きてますっ!

生きてますよっ⁈

死ななかったっ!

ヒャッホーイッ!!







「あっ!婚約式っ!」


私が素っ頓狂な声を上げると、クラウス様が何故かオドオドした様子で申し訳なさそうに私を見つめる。


「……いいの?このまま婚約式を挙げて……。

こんな事のあった後だし、なんなら日にちを改めても……」


自分でそう言いながら、悔しそうな顔をするクラウス様にブンブンと頭を振った。


「良いんですっ!この日の為に集まって下さった皆様の気持ちを無得には出来ませんわっ!

それに私は、クラウス様最推し同担拒否沼の住人ですっ!

関連グッズ全コンプっ!

薄い本は端から網羅っ!

更に今や2度推し無双状態っ!

死んでも貴方を推せる私に、今や怖いものなどありませんっ!」


フンガーっと鼻息荒く捲し立てると、クラウス様は眉を下げて困惑顔になる。


「オシ……?ドウタキョヒ?

ごめん……よく分から無いけど……。

でも、本当に良いの?

あの……俺の力を見たでしょ?

そんな俺と婚約式を挙げてしまって、キティは後悔しない?

アレは王家で秘匿にされている類のものだから、それを理由に婚約を白紙に戻す申請は出来ないよ?」


オドオドとそう言うクラウス様の、その瞳の奥が恐怖に揺れていた。


私はニッコリ笑って、クラウス様の頬を両手でパチンッと挟んだ。


「それこそ、だからどうだって言うんですか?

私、クラウス様が好きですっ!

クラウス様の不思議な力ごと、愛していますっ!

だからクラウス様は安心して、私に丸ごと愛されて下さいっ!」


両頬を挟まれて目をパチクリさせていたクラウス様は、私の言葉にフニャッと泣きそうな顔で笑った。


「……キティ、本当に君には敵わないな……。

俺も、愛してるよ。

この俺の全てを懸けて、君を愛すると誓う。

どうか、俺と婚約宣誓書を交わして欲しい……」


クラウス様の言葉に深く頷いて、私も目尻に涙を滲ませた。


「はい」


胸が一杯で、一言そう返事をするのが精一杯だった。


クラウス様の顔が、ゆっくりと近づいてくる……。

私もつま先立ちで、クラウス様に顔を寄せた……。



「ん゛ん゛っ!」


お兄様の咳払いに、私はパッとクラウス様から離れ……られないっ!

凄い力で捕まってるっ!


私、今っ!み、皆んなの見ている前でキスしようとしてたっ⁈


い、い、い、いやあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!


恥ずかしすぎるっ!

ナニ、恥ずかしい空気作っちゃってんのよっ!


……えっ?待って……。

ってか、皆んなの前で、好きとか愛してる、とか……言っちゃった……っ⁈


ボンッと頭から湯気を立て、真っ赤になった私に、クラウス様が不満気に首を傾げた。


「キティ……キスは?」


その破滅的可愛さに、もう訳も分からず魚みたいに口をパクパクさせた。


「なっ、あ…ななっ!にゃにっ!」


み、皆んなの前だからーーーっ!

可愛い顔しても無理だからーーーっ!


誰か助けてーーーっ!


もはや涙を流しながら意味も無く辺りを見渡すと、廊下の向こうの柱の影にシシリィとエリオット様が隠れて、ニマニマ笑いながらこちらを覗いていた。


バチっと目が合うと、シシリィはとても良い顔でサムズアップしてくる。


あんたらっ!何しとんじゃーーーーっ!








教会の礼拝堂を、クラウス様にエスコートされながら、2人並んでゆっくりと歩く。


参列席には沢山の王侯貴族の皆様が座り、私達を迎えてくれた。


シシリィやレオネル様、ミゲル様、ジャン様も、暖かい表情を浮かべ、私達を見守ってくれている。


最前列の通路を挟んで右側に王家の皆様、左側にローズ家が座っている。


お父様が嗚咽を上げながら、号泣していた。

お母様はそんなお父様の背中を優しく撫でている。

お兄様が花が綻ぶような美しい微笑みを浮かべ、私を見ていた。


王家の皆様に当たり前のように混じって、エリオット様の隣でシシリィが微笑んでいる。

心なしか、目尻に涙を浮かべているように見えた。



祭壇の上に上がり、大司教様の前に立つ。


流石に父子だけあって、大司教様はミゲル様に良く似ている。


「これより、クラウス・フォン・アインデルとキティ・ドゥ・ローズの婚約宣誓式を行う」


「クラウス・フォン・アインデル。

キティ・ドゥ・ローズと婚約を交わし、時が満ちた後、伴侶として迎えると誓うなら、この宣誓書にサインを」


クラウス様はサラサラと宣誓書にサインをした。


「キティ・ドゥ・ローズ。

クラウス・フォン・アインデルと婚約を交わし、時が満ちた後、伴侶として嫁ぐと誓うなら、この宣誓書にサインを」


私も、クラウス様の署名の下にサインをした。


そして2人で参列者のほうへ向き直る。


「博愛の神クリケィティアの御元にて、ここにこの2人の婚約が成立しました」


大司教様が両手を広げ、そう宣言すると、大聖堂は拍手に包まれた。


私はしっかりと顔を上げ、お母様仕込みの優雅な微笑みで皆様の祝福に応える。




ああ……なんて道のりだったのだろう……。


乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった事に気付いた時は、絶望しか感じなかった。

何故よりにもよって、何をしても死の結末に向かう、キティ・ドゥ・ローズに生まれ変わってしまったのか、神様を憎んだりもした。


でも、ノワールお兄様、お母様、お父様の家族になれて、本当に幸せだった。

姉のように慕うマリサがいつも側に居てくれた。


レオネル様、ミゲル様、ジャン様という、優しく楽しい幼馴染に囲まれて過ごした、幼い日々。


同じ転生者仲間のシシリィは、まるで前世からの気の合う友達のような存在。

気の置けない大事な親友。



……そして、クラウス様。

幼い頃からいつも側にいてくれた。


前世最推しの頃から腐れ夢女だった私が、まさか三次元でクラウス様と出会えるだなんて……。


三次元のクラウス様は、色々とゲームとは違っていたけど、それは当たり前の事。

私がゲームのキティとは違うように、クラウス様だって違っていい。


だって私達はもうゲームのキャラなんかじゃ無いもの。


産まれて、生きて、色々な出会いがあって、経験して……。


画面の向こうにある、様々な人生を生きている。


違っていいの。

デフォルトじゃ無くていい。


だって私は、今自分の隣に立っている、この人を愛しているんだから。


こそっとクラウス様を見上げると、クラウス様は直ぐに私の視線に気付いて、んっ?と小首を傾げた。


「あの、私、クラウス様と婚約出来て、嬉しいです」


頬を染めてそう言う私に、クラウス様は屈んで耳元で囁いた。


「俺も、すごく幸せ……。

ね、キティ。今夜は沢山可愛がっていいよね?

キティをトロトロに溶かして、朝までずっと頭から爪先まで全部、愛したい……」


耳が孕みそうなイケメンボイスで卑猥な事を囁かれ、ピャッと数センチ飛び上がってしまった。



こ、ここっ!教会の神聖な大聖堂なんですけどっ⁈

な、なんて事囁くのよっ!


もうっ!もうっ!


「ク、クラウス様の変態っ!」


私は誰にも聞かれないように、小声で言い返して、クラウス様を睨みながら見上げた。


クラウス様は片手で目を覆い、天を仰いでいる。


「キティ……俺は幸せ過ぎて身がもたないかもしれない……」


頬を染めてプルプル震えているクラウス様を、私は甘く睨み続けた。


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