episode.15

壁チラIご機嫌よう。

キティ・ドゥ・ローズでございます(脱兎)。






気怠い微睡から目を覚ますと、見知らぬ天蓋が……いや、2回目……。


自分が1日に2回も気を失った事に気付き、あ゛あ゛あ゛〜っと頭を抱える。


何故、もっとしっかりとしない!意識っ!

直ぐに逃げ出すんじゃないよっ!意識っ!


自分の不甲斐なさに頭を抱えていると、続き部屋の扉が開き、クラウス様が顔を出した。


「ああ、良かったキティ、目を覚ましたんだね」


クラウス様の顔を見た瞬間、ボッと頭に血が上り、顔が真っ赤になった。


「湯の準備が出来てるよ。入れるかい?」


コップに果実水を注ぎながら、クラウス様はそう聞いてくれた。

私は差し出された果実水をゴクゴク飲み干して、無言で頷く。


「良かった、じゃあ連れて行ってあげるね」


そう言ってクラウス様は私を薄い掛布でぐるぐるに巻いた……。


あっ、裸だ……ワタシハダカダ……。


んっノォぉぉぉぉっっ!


私は易々とクラウス様に抱き抱えられ浴室に向かう間、バタバタと暴れ回った……が、クラウス様は微動だにせず、優雅に微笑んでいる。  


抵抗(?)虚しくクラウス様専用の浴室に連れていかれると、メイドさん達が5人も待ち構えていた……。


おぉ……ノーー……ジーザス。


有無を言わさず、あれよあれよという間に浴室に連れて行かれ、頭のてっぺんからつま先までゴシゴシ洗われ、広い浴槽につかる。


スッポンポンの令嬢を主人が連れて来てお世話させられて……メイドさん達、本当すみません……。


申し訳無い気持ちでちらっとメイドさん達を見ると、1番若そうなメイドさんが下を向いてモジモジしていた。


……?浴室仕えが初めての人なのかな?


ちょっと不思議に思いながら、まぁいいか、と思いきり伸びをする。


何だかまだ体中が気怠い……。


何の気無しに見やった自分の腕の内側に、見慣れない赤い痕を見つけて、私は首を傾げた。


……んっ?あれ?虫刺され?

おかしいなぁ、王宮に虫なんて。

やんごとなき方々の暮らす場所だし、虫除けの魔法陣くらい敷いてある筈なのに。

侯爵家にだってそれくらいあるけど。


不思議に思いながら、その痕をちょんちょん触ってみる。

う〜ん、別に痒くも何ともない……?


ますます不思議に思って、まじまじ見てみると、何だか内出血の後のような……。


やだなぁ、どっかでぶつけた?

でもそれならもっと大きくなるよね……これじゃ、まるで……。


そこまで考えて、私はザバーッと湯船から立ち上がった。


これっ!噂のキ、キ、キ、キスマークってやつじゃないっ!


ババっと自分の体を確認してみると、そこかしこに同じ赤い痕が点々と……。


んんんっノおおおぉぉぉぉーーーっ!!!


めちゃめちゃ情事の後ーーーっ!


ハァハァハァ……。


めちゃめちゃ情事の後ーーーっ!(2回目)


どうしよ?どうしよ、これ!

はっ!まさか後ろにも?


慌てて後ろを確認しようと、顔をいけるとこまで後ろに回して何とか見えないかぐるぐる回っていると(無謀)例のあのメイドさんとバッチリ目が合ってしまい、彼女は真っ赤になって慌ててまた下を向いてしまった……。


そーゆー事かぁっ!

これ見てあーだったのね、そりゃそうなるよねっ!

てかっ、教えてよっ!いや、やっぱり言わないでぇぇぇっ!


動揺のあまり訳が分からない事をぐるぐる考えながら、ふと他のメイドさん達を見てみると……。


……皆んな、流石プロ。

ビシッとした姿勢を崩さず、目線をやや下に向けで待機している……が、目の焦点が合っていない……。


もうっ、ごめんなさいっ(土下座)

そりゃ、やり難いよね、そーだよねっ!

私だってそうなるわっ!


私はジャバンッと湯船の中に逃げ込み、ブクブク沈んでいった……。



すっかり茹で上がった私はメイドさん達に救出され、良い香りの香油をたっぷり塗り込まれ、ディナードレスに着替え(何故かサイズがピッタリだった)薄化粧を施された。

何故か髪型はまたしてもツインテール……解せぬ。


クラウス様はリビングで待っていた。


「夕食を共にする事は侯爵家も承諾済みだからね、安心してね」


クラウス様はそう言いながら、私の為に椅子を引いてくれる。


王宮の豪華なディナーを頂きながら、私はチラッとクラウス様を盗み見た。


クラウス様はとても美しい所作で食事をしていた。

長い指でナイフとフォークを使い、綺麗な唇に運ぶ。


あの、長い指……あの、綺麗な唇で……ハァハァハァハァ……はっ!

いかんいかん、エロ親父のような目で見てしまった……。


「どうかした?キティ?」


クラウス様は優雅に食事する手を止めず、聞いてきた。


ノールックッ!ノールックで勘付かれていたっ!

……気付かれていないと思っていたのに。


「あ、あの、本当に私が婚約者として、内定したのでしょうか?」


クラウス様は音も立てずカトラリーを置き、優雅にナプキンで口元を拭うと、にっこり笑う。


「内定自体はもうずっと以前からされていたけどね」


クラウス様の言葉に、私は大きく目を見開いた。

その私の顔を見て、クラウス様はクスクス笑う。


「だってそうだろ?キティはローズ侯爵家の令嬢で家柄に申し分は無い。

ローズ侯爵はあの若さで軍の将軍職を賜る実力者で、陛下の右腕の1人。

加えて、もう何年も俺は君に求婚している。

これだけ揃えば順位は勝手に上がるし、順位1位の令嬢なら暗黙の了解で婚約者として内定されているよ」


つらつらと語られるその内容に私は絶句していた。


……そんなっ!じゃあ今まで私が血の涙を流しながらクラウス様からの縁談を断ってきた意味はっ⁈


「ですが、私は、クラウス様からの縁談をお断りし続けるような不義理者ですのに…」 


「ははっ、ローズ侯爵の令嬢ならさもありなんと皆思っているさ」


クラウス様の返事に、私は小首を傾げた。


……ん?何の事?


「ローズ侯爵の過保護は有名だからね。

日頃から、王子ごときに可愛い娘を嫁がせてなるものかっ!て、王宮でも憚らなかったし」


不敬ーーーーーっ!レッドカーーードッ!


私は心のホイッスルを力の限り吹き鳴らした。


……お父様……王宮で……なんて事を……。

私はガクッと膝から崩れ落ち、真っ白な灰になる(脳内)。


「だから、誰もキティが不義理だなんて思ってないよ……でも」


クラウス様はそこで言葉を切って、にっこり微笑むとその瞳をギラリと光らせた。


「まさか、本当にキティが断ってたなんて、そんな事ないよね?」


んにゃぁぁぁぁぁぁぁっ!

瞳孔パッカーンっ!


「だ、だとしたらいかが致すのですか?」


あくまで、あくまでの話ですけどっ!

ちょ、ちょっと気になった私は、ガクガクブルブル震えながら試しに聞いてみた。


所謂、怖いもの見たさというやつだったのだが、私は直ぐに余計な勇気を出した事を後悔する。


「……だとしたら、そうだな」


クラウス様は組んだ両手に自分の顎を乗せて、ニッゴリと真っ黒な微笑みを浮かべた。


「誰の目にも映らない、安全な場所でキティを繋いで(物理的)、俺の想いを毎日毎日毎日、精神的にも肉体的にも分かってもらおうかな?」


くぅ(恐怖泣)まさかの監禁宣言。


関白宣言では無くて?

関白宣言の方にしません?

まだ平和でお薦めだわぁ、関白宣言っ!


私は『関白宣言推奨党』というタスキを掛け、街頭に立つ(脳内)。

皆さま!清き一票をっ!


「それで?本当にキティが断っていたの?」


暗黒王子クラウスが監禁の呪文を唱えて来た。


▶︎ 命大事に

 ガンガン行こうぜ

 仲間を使う


私は瞬時にブンブン頭を高速で横に振りまくる。


「そっか、じゃあ縁談を断ってきたのは、ローズ侯爵だったんだね」


暗黒王子クラウスが監禁の呪文を唱えて来た。


 命大事に

 ガンガン行こうぜ

▶︎ 仲間を使う


私はまたしても高速で、今度は頭を縦に振りまくる。


「そっか、良かった」


パァッと笑うクラウス様。


よ、良かった……魔王が去った……。


世界の脅威は消えたんだっ!

世界に平和が戻って来たんだ!

お父様の尊い犠牲のもと……。


私はお星様の1つになったお父様を見上げ、両手を胸の前に組んで静かに黙祷を捧げた……。



途中から味のしなくなった夕食が終わり、私はクラウス様の豪華な馬車で帰宅した。


侯爵家には私が【祝義の謁見】にて、クラウス様から頂いた祝いの品の数々に驚いて倒れてしまい、目を覚ましたのが夕方近かった為、そのままクラウス様と夕食をとって帰って来た、という事になっていた。


……まぁ、概ね、概ねはその通りだったので、無理なく話は合わせられたが……。


その後は私が気絶する程の祝いの品とは一体どんなものだったのかと、お父様とお兄様に詰め寄られた。


正直に話すと、2人の背後に鬼神と般若が出現し、お父様は地獄の業火を纏って、お兄様は地獄のブリザードを纏って、2人合わせてにっこり笑い『ちょっと王宮まで行って来る』と言ったところで、お母様の『あら、私も一緒に誂えたのですけど、2人はそのどの辺が気に入らなかったのかしら?』とに〜っこり微笑まれ……。


ま、まぁ、ちょっとした修羅場はあったけど、概ね、概ね平和的に全てが解決した後、私は自室のベッドで枕を抱いてゴロゴロ転がり回っていた。


「く、クラウス様とあんな事やこんな事……んぐふぅっ!」


そう、クラウス様とのあんな事やこんな事を思い出して、1人悶絶していた。


前世で、いつかは私も好きな人と〜って、好きな人は画面の中じゃんっ。スン。

などと妄想しては1人ツッコミで無になる、を繰り返していた、あんな事やそんな事を。

そう!私は今日!画面を乗り越えて!しちゃったのであるっ!


「恥ずかしい〜恥ずかし過ぎる〜恥ずかし乙女〜!」


両手で顔を隠して奇跡の高速ローリング。


アレがあんなに恥ずかしい事だったなんてっ!

羞恥で死ぬかと思った……。

あれ?もしかして、あのまま死んでたら推しに抱かれて腹上死(違う)……ファン冥利に尽きる死に方っ!


くっ、惜しい事をした……。

しかし、何より問題なのは……。


「……凄く気持ち良かった……」


……という事である。


羞恥天元突破ではあったが、嫌じゃなかった、いや、むしろ……嫌いじゃない……。


ああ、私、もしかして、これが噂の………。


「淫乱Cカップ令嬢……」


口に出すとアレなDVDのタイトルそのものである。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





後書き


〜王子とメイド長〜


「言った通りにしたか?」


「はい、お言付け通り、口の軽い者を揃えました」


「ご苦労」


メイド長は心の中で、事が済んだ暁にはあの5人は再教育しなければ、と溜息を吐いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る