episode.1

皆さまご機嫌よう、チワワ令嬢キティで御座いますわ、キャンキャン。

さて、自虐ネタも決まった事だし、これからどうしよう………(終)。


相変わらず鏡の中の自分の姿を前に途方に暮れて、深いため息をつく。

ふっくらしたその頬をプニプニと持ち上げながら、あー幼女のモチモチ感ヤベェ〜食らいつきてぇ〜とやさぐれ気味になってみたり……。


しかし、今のキティは何才くらいなのだろうか?

今朝急に前世の記憶を思い出してから、前世の記憶の方が押し気味でキティの方の記憶が曖昧だ。

ん〜?4才くらい?

鏡の中の幼女はそれくらいの年齢に見えた。


「おはようございます。キティお嬢様。あら?もうご自分で起きられていたのですか?」


穏やかな声に振り返ると、専属侍女のマリサが私を見て優しく微笑んでいる。

マリサはこの侯爵家に仕える侍女で、我儘キティの専属だ。

幼い頃から我儘放題だったキティには、どんな侍女やメイドも長く続かなかった。

男爵家の三女であるマリサだけが唯一キティに付き合ってくれている。

必要以上にメイドが世話をしたがらない為、今やキティのお世話は全てマリサ1人でこなしてくれているのだ。

本来なら全く頭の上がらない相手の筈なのに、それでもキティはマリサに我儘放題。

そんなキティを辛抱強く、優しくお世話してくれる、聖母様のような存在なのだ。

あっ、良かった。その辺の記憶はちゃんとある。

我儘、自分勝手にしながらも、なんだかんだキティもマリサを慕っていたんだな〜。

そしてそんなキティの事をマリサは理解してくれてるんだろうな〜。

ちなみにマリサは18才。1年前にこの侯爵家の私兵団団長のノーランと結婚して敷地内に館を賜り暮らしている。


「まぁ!鏡の前に座り込んだりして、お嬢様ももう6才ですもの、お年頃ですわね」


微笑ましそうに私を見てそう言うマリサ。


………6才だった。

えっ?どう見ても3〜4才くらいにしか見えないけど?

6才⁈

4才と6才って言ったら、年少さんと年長さんくらい違うわよ?

かたや入園ほやほや、かたや就学前って雲泥の差よ?

年の離れた妹のいた私は、幼児の違いが分かる女なのよ、ふふん。


…あ〜私の可愛い妹…可愛こたん、尊いたん…妹しか勝たん…もう一目だけでもいいから会いたい……。

前世の可愛い小さな妹を思い出し、急にしんみりして下を向く。

が、下を向いていても仕方ない!ないったらない。

私はもう一度鏡の中の今の自分をまじまじと見つめてみた。

…キティって、幼女の頃から既に低身長だったのね…。

流石にそこまでの情報は公式には無かった。

けど、所詮幼女は幼女。

そう!幼女とは!伸びしろたっぷりなのである!

私が少しでも助かる道、それは私がキティであってキティで無くなればいいんじゃなかろーか?

んっ?ちょっと何言ってるか分からない?

ふっふっふ…つまりですね。


私はテキパキと朝の支度を整えているマリサに向かって高らかに宣言した。


「マリサ!わたし、今日からミルクを飲むわ!たくさん!」


私のこの言葉に、マリサは一瞬ピタッと動きが止まり、でも直ぐにシャララーンと効果音がつきそうな動作で私を振り返った。


「まぁまぁまぁ、キティお嬢様!匂いが嫌だと嫌っていたミルクをお飲みになるのですか!

まぁまぁまぁ、それはとてもようございますわ、ミルクは栄養たっぷりですからね、お嬢様のご成長にはかかせない飲み物です!今すぐご用意致しますわ」


言うが早いかマリサは目にも止まらぬ速さで牛乳を用意してくれた。

忍者かな?


私はマリサが用意してくれた牛乳を腰に手をあて(洋式美)一気に飲み干す。

続けて2杯3杯、あるだけ飲み干す。

この世界では新鮮な牛乳はまだまだ高価な代物だが、そこは侯爵家、私がいくら飲み干そうと痛くも痒くも無いようだ。

痛いのは私のお腹だ。

飲み慣れない飲み物をマリサの制止も聞かずぐいぐい飲み干した私は案の定、お腹を壊した。

ベッドとトイレを往復しながらうんうん唸る私にマリサが心配そうに付き添い看病してくれる。


だいぶ情けない前世覚醒1日目である。

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