チワワ令嬢は変態王子の溺愛から逃れたい

森林 浴

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あ〜〜〜〜〜〜!!!

無理無理無理無理!

死んだ!これ死んだわ!

転落死に病死、刺殺に自殺etc…

死、死、死、死のオンパレード!

はぁぁあ〜!オワタ………。


…と、のっけから物騒な言葉で埋め尽くされつつ、私は鏡の中の自分の姿を涙目で呆然と眺める。


ピンクローズのふわふわの髪に、新緑を思わせるようなエメラルドグリーンの大きなくりくりの瞳。

涙の滲むそれは少し吊り上がり気味で猫のようだ。

そう、ようだ、ではなく。


透き通った白い肌に血色の良い頬と唇、どこから見ても完璧な美少女、それが私が転生した先。

侯爵令嬢キティ・ドゥ・ローズ。

猫目のキティ。チワワ令嬢。

お約束の悪役令嬢である。


え?猫なのにチワワ?と思われるだろう、そうだろう。

それこそが世間(めっちゃ一部の)を騒がせた、新種の悪役令嬢、キティ(私の転生先)がニッチなファンを増産した所以でもある。


私が転生したのはどうやら前世やり込みまくった乙女ゲーム〈キラメキ⭐︎花の乙女と誓いのキス〉略して〈キラおと〉の世界のようだ。

ゲーム自体は従来の、庶民から貴族に引き取られた主人公が貴族の集まる学園で攻略対象者達と出会い、好感度を上げ攻略しまくる、というごくごく一般的なもの。


しかしこの〈キラおと〉が、従来の乙女ゲームとは違って異質な部分、それがひとえに私が転生したこの悪役令嬢キティの存在そのものである。


何を隠そう、このキティ・ドゥ・ローズ侯爵令嬢、従来の悪役令嬢とは違い、まず、スタイルが良くない。

どう良くないのかと言うと、低身長ペッタンコである。

もう一度言おう、低身長ペッタンコである。

公式では148㎝のトリプルAと発表されていた。

はて?トリプルAとは………?

何が?とは聞かないでほしい、もう既にペッタンコと2度言っている筈だ。


更に、キティはアホである。アホの子である。

教養も無く、勉強も出来ない、アホの子である。

侯爵家に生まれておいて、何故?と疑問しか湧かないアホの子である。


高位貴族の気品などは微塵もない。

トレードマークのふわふわツインテールをわっさわっささせ、大きな猫目を吊り上げて、主人公と攻略対象の周りをキャンキャン吠え回る、それだけで実はあまり実害のないヘタレな悪役令嬢。


その見た目と名前から子ヌコ令嬢と呼ばれ、ふわふわツインテでキャンキャンと吠え回る姿をチワワ令嬢と呼ばれ、猫も犬もどっちも可愛い!派の一部ファンから絶大な人気を誇っていた。

それが私の転生先のキティ・ドゥ・ローズ侯爵令嬢なのだ!どーだ!ワッハッハ!

…………はぁ〜〜〜。


それでどうして私がこんなに落ちているのかと言うと、この子ヌコチワワ令嬢、とにかく死ぬ。やたらと死ぬ。断罪イベントも無いのに死ぬ。

そう、まったく必要も無いのに死ぬのである。


主人公がどの攻略対象とエンドを迎えようと、ハッピーだろうとバッドだろうと、まったく関係なく死を迎える。

えっ?なんで?と私達プレーヤーを毎回不思議の谷に落とし込んでくるキティの最期………。


まったく必要ないよね?キティ死ぬ必要ないよね????

はてなマーク乱立、乱れまくる。

それが悪役令嬢キティの最期だ。


理由は様々、事故に病気に自殺に他殺。

だが、必要ない。まったく必要ない。

なぜなら〈キラおと〉にはお約束のアレがないのだ。

そう、皆んな大好き、断罪イベント。


そもそもキティは攻略対象の1人である王子様の婚約者………ではない。

婚約者候補の1人ではあるが、それも侯爵家の令嬢だからという理由でかろうじて加えてあるだけで、本人の能力の低さにより順位はめっちゃ低い。

下の方の伯爵家より更に低い。

ひとえに本人の無努力の賜物である。


そんなキティは特に悪事を働かないし(働けない、アホの子だから)キャンキャン吠え回るだけで無害なので断罪する理由もない。

なので、様々あるキティの死因の中に、死罪は含まれない。

処刑、断頭台はありえない。

ただただ、勝手に死ぬのである……ナンデダヨ。

製作陣にいたのかな?ツインテロリっ子滅いたかな?


私は鏡に映るキティの姿をした自分に向かって、はぁ〜と深いため息をついた。

詰んだ…これ完璧に詰んだわ…。

そう、なぜなら、キティにはアレが通用しない。

世間を騒がす、そろそろお約束になってきている、例のアレ。

「断罪イベント回避」

キティこと私が助かる道が思いつかない…。


「次は…スライムとかに生まれ変わりたい…」


早々にキティである今世に見切りをつけ、来世に思いを馳せる私………。

いや、仕方のない事だと思うの………思うよねっ⁉︎

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