episode.22

ご機嫌よう、皆さま。

キティ・ドゥ・ローズでごさいます。

……あっ、ちょっとやめてっ!

淫乱と痴女を見る目はやめてっ!

反省してるからっ!

ご〜め〜ん〜な〜さ〜いっ!








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1-C テッド・シャックルフォード


1-F フィーネ・ヤドヴイカ


上記2名を3カ月間の謹慎処分に処す。


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壁に張り出された処分通知書の前で、私はええ〜っと引きまくっていた。


いや、重くねーっ!

処分重くねーっ!

3カ月ってあんた、1学期ほぼ終わってまうやんっ!

ヒロイン不在の1学期目とか、あり得るのっ!


1学期中もあるよ?

かなり大事なイベント。

そもそも、勉強や魔法のレベ上げもしないと攻略が進まないじゃんっ!


自主学っ?えっ、自主学なのっ?

そんなのアリ?


攻略対象達とのドキドキイベントも無く、ただただレベ上げってどんな拷問っ⁈


流石に3日の間違いじゃないかな?

3日の間違いだよね?


「これ、3日と間違えてるよね?」


ハハッとシシリィに笑って言うと、シシリィは不思議そうに首を傾げた。


「えっ?何も間違ってないけど?

これでも生ぬるいって、生徒会室では鬼神とブリザードが大暴れしたらしいわよ?」


まさかの頂上決戦っ!

平穏な学園の一室で、またしてもアルマゲドン勃発っ!


レオネル様っ!ジャン様っ!ミゲル様っ!

……生きてっ!


そして私は、手を胸の前で組んで必死に自分に向けて回復魔法を呟いた。

……私は悪くないっ、私は悪くないっ!

ないったら無いっ!誰かお願いだから、そう言って〜〜っ!


意図せず序盤でヒロインを学園から追い出してしまった私は、これが後々どんな形で自分に返ってくるのかと、ハラハラドキドキで不整脈を起こしそうだった。


ヤバい、なんかヤバい事になるって、絶対っ!


この後の展開がまったく見えなくなってしまい、私は不安でカタカタ震えた。


「しかし、あの子、よりにもよってF組だったのね」


シシリィの呟きに、ハッとして私は顔を上げ、改めてまじまじと張り出された紙を見つめた。


「ほ、本当だ、1-Fになってるっ!

えっ?なんで?ヒロインはAクラスだった筈なのに……」


私が驚いてそれを指差しながら言うと、シシリィが嫌悪感を隠さず顔に浮かべ、鼻で笑った。


「ハッ、大方、自分は何もしなくてもヒロインだから万事うまくいくとでも思った結果の怠慢でしょ。

あの様子じゃ、この世界で本当に何も学んでこなかったみたいね。

全て、自業自得だわ」


シシリィが心の底から嫌そうに顔を歪めた。


え〜………そんな。

それじゃゲームの世界観が最初から成立しないじゃん……。

ヒロインがキャラ崩壊しちゃってて、どうやってゲームを進めるつもりだったんだろう……?


私は首を捻ってうなった。

3カ月間で淑女教育をやり直し、勉強と魔法を自主学でレベ上げして、学園に帰ってきたとしても、直ぐに夏休みに入っちゃう。


そこまでに親密度を上げておかないと発生しない、夏イベントもあるのに……。

かなりのタイムロスになっちゃわない?


う〜ん、う〜んと唸る私を横目で見ながら、シシリィが呆れたように言った。


「そんな事より、生徒会へ入るよう打診がきてるわよ?

今日のお昼休みに生徒会室に来るようにって、聞いてない?」


えっ?

私はガバッと顔を上げて、全力で頭を振った。


聞いてない聞いてないっ!

何それっ⁈


「まぁ、あいつらも色々忙しいから、すっぽ抜けてたのね。

私にもきてるから一緒に行きましょう」


にっこり微笑むシシリィに、私はハハッと苦笑いで返した。


二大悪役令嬢が生徒会入り……。

本当にどうなってるの、この世界。

ゲームシナリオがゲシュタルト崩壊……。


「私は何をすれば良いのかしら?」


疑問だらけのまま、私は何とかそこだけ確認する。

生徒会に入って自分に何が出来るか、不安しかない。


「ノワールの下で会計補佐に入って欲しいみたいよ。

キティ、数字に強いでしょ?」


確かに。

ロベール教授のお陰で算術は得意だわ。

でも、ノワールお兄様の補佐なんて私に務まるかしら?


「シシリィは何をするの?」


私の問いにシシリィはフッと笑って答える。


「私は生徒会長補佐ね。

来年度の新生徒会長に既に内定してるの」


ええっ!シシリィ、この前入学したばかりなのにっ?

すっごっ!

私が目を見開いて驚いていると、シシリィは溜息をつきながら続けた。


「なんせ、私達の同級生にはあのバカ王子がいるでしょ?

王族ってだけで万が一にでもアイツが生徒会長にでもなったら、この学園は終わりよ。

革命レボリューションされちゃう。

そうならない為の救命措置ね。

私なら貴族位も人望も能力も、申し分ないから。

王族ってだけでアイツが生徒会長を狙ってきたところで阻止出来るもの」


淡々と話すシシリィに、私は関心しっぱなしだった。

この口ぶりだと、入学前には既に話は纏まっていたみたい。

クラウス様達も、あの第三王子対策をしっかりしておかないと安心して卒業出来ないって訳ね。


どうしょう……。

私はますます不安になってきた。


そんな綿密に計算された人員配置に私入る余地ある?

ノワールお兄様みたいに完璧に会計の仕事を務める自信ないんだけど。


私の不安そうな顔に、シシリィが不思議そうに首を捻った。


「そんなに不安?

キティもロベール教授とクリケィティア教授にご教示頂いているんでしょう?

それに、淑女教育はグローバ夫人。

王子妃教育のカリキュラムはある程度終わってると聞いてるわよ?」


私は目を見開いたまま、行動停止してしまった。

白目になっていると思う。


私のその反応に今度はシシリィが目を見開いて、驚いている。


「えっ?まさか気付いていなかったのっ?

あの御三方は王族教育のスペシャリストよ。

王族やそれに連なる高位貴族だとしても、それに値しない人間は早々に教育を断れるし、その事で処罰はされないって規約まであるような高名な教育者なの。

最近ではあの御三方のお眼鏡に適ったのは、クラウスと私とキティだけね。

ちなみに、あのバカは1カ月で見限られたわ。

私とクラウスは王族とそれに連なる者だから、あの御三方にご教示願うのは当然として、キティのは完全にクラウスの仕込みよ。

あの御三方のお眼鏡に適って、今まで教育頂いた時点で、王族に嫁ぐ条件を完璧に満たしていた訳。

王子妃教育なんて、終了しているも同然よ」


まったく知らなかった新事実を突き付けられ、私は完全に固まってしまった。


そして、私の冷静な部分が、7歳の時お父様が御三方に家庭教師をして頂く話をしてくれた時に言い淀み、葛藤する様子だった事にやっと納得がいった。


つまり、あの御三方をお父様に紹介したのはクラウス様で、本来なら王族とそれに連なる方しか受けられない高位教育を娘に受けさせられる栄誉と、私がそれを受け、もし御三方に認められれば、それがそのまま王子妃教育になる事のジレンマと闘っていたのね。


そうとは知らずっ!

私ってば王子妃街道爆進してたなんてっ!


ま、間抜け過ぎる……。

あまりにも間抜け過ぎる……。


何なのっ!私っ!

間抜けだわ、淫乱で痴女だわ、良いとこ無さすぎじゃないっ!


こ、これはなるだけ穏便に、しかし迅速に、早々に舞台からフェードアウトしなくては……。

これ以上の醜態を晒す前にっ!


私が青くなったり赤くなったりしていると、シシリィが不思議そうに首を捻った。


「前から思っていたんだけど、キティ、貴女はどこを目指して生きてきて、この先どうするつもりだったの?」


シシリィの問いに、私はバッと振り返り、力強く答える。


「まずっ!死にたくないっ!」


シシリィは、あ〜、ね。

と言った感じで頷く。


「原作キティの数ある二つ名の一つに、〈死にたがり令嬢〉ってのもあったくらいだしね」


あっ!ちょっと……。

今まで頑なにそこには触れないできたのに。

そんな、あっさりと。


でもまぁ、うん。

そういう事なのよ。

何をしても勝手に死んじゃう星の下に生まれてきたのよ?

そこを何とかしようと足掻いて生きていくしか無いじゃない?


「で、生き残った先はどうしたいの?」


シシリィの続く問いかけに、私はん〜っと顎に手を当てた。


「そうね、生き残れたら、学園をちゃんと卒業して、将来はお兄様の領地経営の手助けしたいと思ってるから、その辺の勉強を続けたいわね」


シシリィは私の話をうんうんと頷きながら聞き、ふ〜ん?と首を傾げる。


「キティって、クラウスの事どう思ってるの?

私はてっきりキティもクラウスの事が好きなんだと思っていたんだけど。

このままクラウスと結婚して、王子妃になるって選択肢は無い訳?」


シシリィの言葉に私はボンッと顔を耳まで赤くした。


「なっ、そんっ、だっ!」


意味不明な言葉を並べる私に、ふ〜ん、とシシリィはニヤニヤ笑う。


「あっ、やっぱり、好きなんだぁ……」


あっ、ちょっ、やめて。

そんな空気出さないでっ。

画面越し相手じゃない恋バナなんて前世でも経験ないからっ!

反応に困るからっ!


私は真っ赤になってワタワタ手を振ったり下げたり(高速)して、ゼーゼー息を切らした。


シシリィは余裕でニヤニヤ笑っている。


くっ!

さては前世リア充ねっ!

リア充勢なんでしょっ!

そんなっ、平気な顔で人の恋バナ探れるなんてっ、上級者に違いないわっ!


私ならキョロキョロオドオドして、きったない顔でドゥフドゥフ笑いながらじゃないと無理よ?


『えっ?ドゥフッ、〇〇君の事好きなん?

なんっ、し、知らなかったし!言えし!

ないわ〜秘密とか、ないわ〜』


って、↑こんな感じの気持ち悪さよ?

そりゃ、誰もリアルな恋バナなんかお前にせんわっ!てレベルの気持ち悪さよ? 


それを、こうもしれっとして……。

涼しい顔しやがりやがりましてっ、くぅっ!


もはや脳内も完全にバグった私は、真っ赤な顔でシシリィに叫んだ。


「す、好きだけどっ!それが……あっ……」


私はサァッと血の気が引いていく。

ヤバっ!ここ、学園の小ホールの廊下じゃんっ!

そんなとこで何を堂々と公言してるのよっ!


いやーーーーっ!

今度こそ恥ずか死ぬーーーっ!


もはや塵になりかけている私に、シシリィはくっくっと笑って、私に向かって掌を突き出した。


「だ、大丈夫っ、ぷっ、は、発動してるから、いつもの、くっ、ふふっ」


笑ってんじゃねーーーっ!

あと、私で遊ぶなーーーっ!


私は思いっきり頬を膨らませて、プイッとシシリィから顔を背けた。


本当はもっと何か言い返したりしたいけど、ポンコツな脳と口がこれ以上何かしでかさないように涙目で耐えた。


「くっ、ごめんごめん。も、笑わないから。

はーー、甘酸っぱい。ご馳走様。

……で?私には何の問題も無い両思いに思えるけど?

どうしてこのままゴールインじゃ駄目な訳?」


シシリィの言葉に私はハーっと深い溜息をついた。


やれやれ、これだから、リア充の素人さんは。

問題なら大有りよ?あり過ぎるから、今まで私は血の滲むような努力をしてきたんじゃない。


これは教えてあげなきゃいけないわね。


私はシシリィに言い含めるように、優しく話し掛けた。


「良い?まずは、この世界はヒロインによる、ヒロインの為の、ヒロインだけの世界なの。

そこで私に与えられた役割は、ヘッポコ悪役令嬢な訳。

そして、悪役令嬢は誰ともゴールインなんかしません。

行く着く先は、断罪か死か追放か修道院送りか娼館送り。

下手したら没落して、家族まで巻き込んじゃうのよ。

私はね、そのどれも、無理ならせめて家族には迷惑かからないようにって、今まで努力を重ねてきたのよ。

出来れば誰にも悟られず、ひっそり生きていきたいくらいなの。

ゲームの強制力に目をつけられたら終わりなのっ!

ヒロイン補正に塵も残さず消されちゃうっ!

絶対絶対、目立っちゃ駄目なのよっ!」


これだけ分かりやすく言えば貴女でも分かるわよね、と優しく微笑めば、シシリィは馬鹿馬鹿しいとばかりに、肩を上げてふんっと鼻で笑う。

何でだよっ!


「あのさ、そもそも、ヒロインはキャラ崩壊してるし、今更原作ゲーム通りに進行なんて無理よ。

ヒロイン補正?そんなの無かったけど?

今やあの子の周りからの評価は、公爵令嬢と侯爵令嬢に恐れ多くもいきなり食ってかかった頭のアレな男爵令嬢よ?

ゲーム強制力?

確かに努力虚しくキティはロリッ子から脱せなかったけど、でもそれだけじゃない。

クラウスはキティにメロメロ……いや、そんなもんじゃなく、病むほど夢中だし。

ノワールも原作よりキティを溺愛してるし、うちのお兄様もジャンもミゲルもキティの事、大事な幼馴染だと思っているわよ。

原作のように疎ましく思っていたり、邪険にしたりなんて絶対しないわ。

キティはその歳で王子妃教育をほぼ完了させる程の才女だし、侯爵令嬢で位も高い。

美少女で慎み深く思慮深い。

身分をひけらかす事もせず、誰も傷付けないし、誰にでも親切。

王子妃になれない理由を探す方が難しいわよ。

仮にヒロインがキャラ崩壊してなくてデフォルトのままだったとしても、今のキティが相手じゃ、到底敵わないわね。

見目が良く成績優秀な男爵令嬢。

ここ止まりよ?」


……いつも思うんだけど……。

何でシシリィってこんなスラスラつっかえる事も無く喋れるの?

あと、私への評価がバグってるんだけど。

更にヒロインへの恐怖を一切感じないっ!


私達、同じ悪役令嬢なんじゃないのっ?

悪役令嬢同盟組んでたよねっ?(組んで無い)

どうしてシシリィはヒロインに対してこうも無敵なのかしらっ!


私が無知なシシリィを諭す側だった筈なのに、何故か立場が逆転してしまい、私は結局いつものようにアワアワとするだけだった。

……解せんっ!


「あれね〜、キティは賢くて真面目なアホな子なのね。

いや、残念、とゆ〜か……。

そういう所がクラウスの琴線に触れちゃったのかしら?

本当にご愁傷様」


おい、待てーいっ!

黙って聞いてれば、何つー言い草だっ!


私は流石に看過出来んっ!と怒りを露わに、また両手で髪を左右に持ち上げ、即席ツインテを作る。


シシリィは途端に、はうっと目に星を浮かべて、涎を垂らさんばかりにフラフラと私に近づいてきた……所をすかさずツインテを振り回してパシーン(実際はファッサー)!


右の頬を打てば、左の頬も出してくるので、遠慮なくパシーン(実際はファッサー)!


何度か繰り返してやれば、シシリィはすっかり満身創痍。

肩でハァハァ息をしながら、涎を拭っている。


「くっ、ありがとうございました」


「今後は言葉に気を付ける事ね」


フラフラのシシリィに、私は思いっきり顎を突き上げて忠告してあげた。


画面越しじゃない最推しの威力、舐めんじゃ無いわよ。


「あの、キティたん……何故今ご褒美を頂けたのでしょうか……?」


ご褒美じゃ無いわっ!

折檻っ!むしろ折檻したんですっ!


正しく伝わってはいなかったけど、何か気は晴れたので、うむ、良しとしよう。


「とにかく、私は王子妃にはなれないんだってば。

はい、この話は終わり」


シシリィに押され気味だった私は、何とか自分のペースを取り戻し、ビシッとシシリィに告げる。


「ん〜納得いかないわ〜。

何でそんなに頑なな訳?」


心底理解出来ないといった様子のシシリィに、私は溜息をついて、仕方無しに答える。


「だって、仕方ないじゃない。

私は、死にたがり令嬢なのよ。

いつどうなるかも分からないのに、そんな人生に人を、ましてや、す、す、好き人を巻き込めないでしょ?」


ちょっと頑張ってリア充ぶってみた、ドゥフ。


私の答えに、シシリィはやっと納得したように頷いた。


「あ〜、キティが死んだりなんかしたら、この王国、いや、この世界が焦土と化すわね。

クラウスによって」


いや、待って。

クラウス様を一体何だと思っているの?

歩くアルマゲドンじゃないからね?

恐怖の大王として降ってきたりもしないから。


「この世界の存続を賭けた戦いって訳ね。

ふふっ、血がたぎるわ……。

まかせて、キティ。私が貴女を絶対に死なせたりしないから!」


何やら楽しそうなシシリィに、私はハイハイとヒラヒラ手を振った。


「次の授業始まるから、私もう行くねー」


闘志を燃やし、炎につつまれながら、やったるでーっと両拳を天に突き出すシシリィを置いて、私はスタスタ教室に戻った。


ちゃんと声は掛けたからねーー。








昼休み。

私とシシリィは生徒会室にて、王宮料理人によるフルコースを味わっていた。


「キティが来てくれるって聞いて、用意させたんだ。

どうかな?キティ。

気に入った?」


私は頬の落ちそうな料理を頬張り、コクコク頷いた。


すげーな権力。

権力バンザイ。


クラウス様とノワールお兄様は楽しそうに私を見てニコニコしている。

……が、他の皆さまは、何だかゲッソリ疲れ果てているような……。


更に生徒会室の壁に大きな穴が開いて、それを修復したような跡があるような……?


ふっ、嫌だわ、かすみ目かしら。


私は密かにフルフル頭を振って、自分に言い聞かせた。

気にしたら負け、気にしたら負け、気にしたら負け……。


その時、レオネル様がごほんと咳払いをしつつ、席を立った。


「さて、新しく生徒会に入ってもらうメンバーが揃った訳だが」


あれ?私もう頭数に入れられてる。

……打診とは、一体。


「初対面の人間もいる事だし、改めて紹介しよう。

まずは、私の妹、シシリア。

生徒会長補佐に回ってもらう。」


シシリアが笑顔でコクリと頷いた。


「そして、2年生のエリク・ペイルとエリー・ペイル。

2人は双子で、ペイル子爵家の令息令嬢だ。

エリクには副会長である私の補佐、エリーには書記のミゲルの補佐に回ってもらう」


黒髪黒目のそっくりな2人が、無表情のまま頷いた。


「それから、同じく2年生で、ゲオルグ・オルウェイ伯爵令息。

彼には、風紀のジャンの補佐に回ってもらう」


ダークブラウンの髪に、アンバーの瞳の背の高い男性が、静かに頷く。


「最後に……」


レオネル様の言葉を切るように、クラウス様が手で制して立ち上がった。

レオネル様は溜息をつきつつ席に着く。


「キティ・ドゥ・ローズ侯爵令嬢。

もうすぐ、キティ・フォン・アインデルになる、俺の婚約者だ。

会計のノワールの補佐に回ってもらうが、基本キティは俺と行動を共にする事を覚えておいてくれ」


クラウス様の言葉に、エリク様、エリー様、ゲオルグ様が真面目な顔で頷く。


シシリィは声を殺して笑っているし、レオネル様、ジャン様、ミゲル様は白目になっている。


ノワールお兄様はちょっと既にブリザってる。


「さっ、キティ。

いつもの定位置においで」


両手を広げるクラウス様に、涙目でイヤイヤする私を、何無くヒョイっと抱き上げて、クラウス様は自分の膝に座らせる。


「ああ、夢みたいだよ、キティ。

こうして学園でも君と居られる時間が増えるなんて……」


私の髪に顔を埋めて、スリスリハムハムスンスンするクラウス様。


ああ、私も夢のようです……。

むしろ夢であれっ!


初対面の人間もいる前で、王子殿下の膝の上でスリスリハムハムスンスンされ……。

あっちょっと!この人、尻も揉んでるっ!

私っ!人前でっ!尻揉まれてるっ!


夢であれっ!!!



……あっ?ちょっと?お兄様?

そのブリザードの量はヤバくない?

この部屋吹き飛ぶ勢いないかな?それ?


あっ!ちょっ!お兄様っ!タンマタンマっ!


お、お兄様〜〜〜〜〜〜っ!!!

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