episode.30

秋ですわねっ!皆さまっ!

食欲の秋ですわっ!

焼き芋、栗にブドウ、梨、柿っ!

秋刀魚の秋ですわ〜〜っ!







秋といえば、芸術に読書。

………なのだけど。


私は学園のあちこちのゴミ箱に投げ捨てられた、大量の本を見つめ、深い溜息をついた。


最近になって、2冊の本が学園内に出回っている。


1冊は、さる高貴な令嬢が王子妃へ、更には夫と協力して悪辣な王太子を倒し、ゆくゆくは王妃へと上り詰める、サクセスストーリー。


その本の中では、魔力量が高いにも関わらず王家から軽んじられていた第二王子を、主人公の令嬢がひたむきに支え、卑劣な手で第二王子の婚約者の座に居座っていた醜い侯爵令嬢を数々の罪で断罪。

のちに自分が婚約者となり王子と結婚し、王子を王太子に即位させる。

そして、王と王妃になった2人は、末永く幸せに暮らしましたとさ……。


なのだが、完全に不敬です、ありがとうございました。


ちょっと変えてはいるものの、名前などほぼそのままだし、容姿の表現も酷似。

本に出てくるこの人があの人と、それはもう丸わかり。


この本は王家への反逆思想が強過ぎると判断され、発禁本となり、大量に出回っていたその本は全て回収。

販売元の出版社と印刷工場は共に処罰を受けた。


すごいお金をかけて制作されただろうに、一瞬で世の中から消えてしまった。


しかもこれ、王都中のあらゆる書店に無料で置いてあった。

学園にはご丁寧に生徒一人一人のロッカーに仕込んでありました。大変、お疲れ様です。


………フリーペーパーにしては、厚すぎる。



そして、もう一冊の方は、もう、なんて言うか……。

〈キラおと〉とタイトルもシナリオもそのまんま……。


薄幸の超絶美少女が王立学園に入学後、王子様や高位貴族の令息に求婚されまくり、どうしよう⭐︎私、困っちゃう状態になる、というもの。


王子様の婚約者である意地悪で醜い悪役令嬢に様々な嫌がらせや虐めを受けるけど、グスン、私、負けないもんっ!

………なのである。


こちらは名前はそのまま使用されていた………。


自費出版らしく、流石に王都では配られていなかったが、学園内では、ロッカーや鞄などにいつの間にか仕込まれていた。


⭐︎や♡が乱立した、とても目に優しく、読みやすい書籍となっている。


具体的には、こんな感じである。



【あたしは、かわいそうな男しゃく令じょうT^T

おうちでは、毎日まま母にいぢめられてるの。エ〜ン⭐︎

でも、がんばって、王立学えんに入学したよ⭐︎

〜〜〜中略〜〜〜

キャッ♡ステキな王子さま⭐︎となかよくなっちゃった♡

ほかのエライきぞくのむすこたち⭐︎も、わたしのこと、スキになっちゃったみたい♡】


ーー書籍〈キラメキ⭐︎ 花の乙女と誓いのキス〉より一部抜粋ーー



作者は不明だが、主人公の名前はフィーネ・ヤドヴィカ。

男爵令嬢である。



もう、これ以上は聞かないでっ!

小学生の時に書いてた妄想小説と完全に一致ーーーーっ!


打撃を受けたのは私だけじゃ無いようで、一定の女生徒が顔を真っ赤にして、鼻息荒くゴミ箱に投げ捨てていた。


涙目になっている人もいる………。


分かるっ!わかるヨォぉぉぉっ!


掘り起こしちゃいけないもの掘り起こしてくるよねっ!その本っ!!


そんな訳で、生徒会が何もしなくても、日に日にゴミ箱に投げ入れられる、書籍版〈キラおと〉。


あっ、ほら、今も。


「何だよ、これ〜〜、うちの妹でももっとマシなの書けるぜ」


ゴミ箱にバサッ。


「まったくだよな。意味不明すぎっ」


バサッ、バサッ。



くっ、こっちにまで衝撃がっ!

HPが抉られるっ!


周りを見渡すと私と同じように、胸を押さえ息も絶え絶えな女生徒がチラホラ……。


間違いなく、皆さま、家に帰ったら自室の掃除ね……。

黒歴史を供養してあげなきゃいけないものね……。


……私なんかその前に死んじゃったから、アレよ?

絶対に親に見られてんのよ?

あの子ったら、こんな物書いてたのねって、微笑ましく読まれてんのよ?

幼い妹に、ほら、お姉ちゃんが書いた絵本よっ、とかって読み聞かせしてたら、もうっ!死ねるっ!(もう死んでる)


あははははははっ、あー………笑うしかない、あーはっはっはっはっはっはっ!



「何でそんなにボロボロになってんのよ?」


隣にいたシシリィに、私は震える指でゴミ箱を指差した。


「あー、アレね。アレはキッツイわよね。

何人もアレにはやられてるわよ。

私にも身に覚えがあるから、全身の痒みに身悶えたわ」


おおっ!同志よっ!

私はパァッと笑ってシシリィに抱きついた。


「まぁ、でも。私のは王子とか、偉い貴族の息子だかは出てこないわよ?」


えっ?そうなの?


私は不思議になって、思わず聞いた。


「じゃあ、何が出てくるのよ?」


「ドラゴンと勇者と魔王っ!」


素早く答えられ、私はやれやれと肩を上げた。


小5男子かよっ!



「それより、これ。昨日発売されたばかりで、もう話題になってるのよ、面白いって」


シシリィに渡された一冊の本を、私は小首を傾げて眺めた。


〈麗しの令嬢と魔女の呪い〜王子は聖なる力で王国を救う〜〉


ふ〜む?すごく懐かしい長いタイトル。


タイトル見ただけでワクワクするこの感じ。


本当にめちゃ懐かしいっ!


私は表紙を開けると、どんどん読み進め、ページを捲る手が止まらなかった。


何これっ!めちゃ面白いっ!


幼い恋あり、謎あり、冒険あり、笑いありの秀逸ファンタジーッ!


あっ、この世界ではファンタジーでは無いのか。


でもとにかく、文章がうまく、構成も練られてて、何より登場人物が皆んな魅力的っ!



物語のレビュー(ネタバレ)は、こうだ。



ある国に、少女がいました。

少女は高貴な貴族のお嬢様でしたが、産まれてすぐに、魔女の呪いを受けてしまいました。

呪いのせいで額に小さな傷が出来てしまった少女は、その美しい顔を長くて厚い前髪で隠して暮らしていました。


ある日、その貴族の邸に王子様がやってきました。


少女を一目見た王子様は、その心の美しさに少女を愛してしまいました。


王子は少女に求婚しましたが、断られてしまいます。


少女の額の傷の事は、家族だけの秘密でした。


それから毎年、王子は少女に求婚しました。

少女はいつもそれを断り続けます。


そして、社交界デビューを迎えたその年、王子からの求婚に、少女は初めてその厚い前髪を掻き上げ、王子に真実を話しました。


少女から話を聞いた王子は、にっこりと微笑み言いました。


「そんな傷を気にしていたんだね。

僕には君の美しさしか見えないよ。

魔女の呪いも、君の心の美しさには届かなかったようだね」


そう言って、王子は少女の傷に口付けました。


すると、みるみる少女の傷は消えていき、魔女の呪いは解けてしまったのです。


王子は聖なる魔法の持ち主だったのです。


気になった方は、どうぞ続きは是非この本を買って読んで下さい。



(以下更にネタバレ)


でっ!この後っ!美しく成長するであろう少女に赤子の頃から、自分の器として目を付けていた魔女が激怒。

魔物を使って国中を荒らしていくのっ!

それで2人は仲間と共に魔女を倒す旅に出るっ!

いつも冷静な天才魔道士、中世的な見た目の麗しき魔法騎士、和かで面倒見の良い白魔法使い、皮肉屋だけど本当は優しい魔剣士。

仲間達との旅はハラハラドキドキの連続。


そしてピンチに必ず現れる、謎の女剣士。


4属性を自在に操る最強の剣士っ!

魅惑的でミステリアスなのに、彼女が出てくると必ずギャグ回になるから、読者魂がすごく震えるっ!


物語は、魔女の脅威に晒された港町を救った所で終わった。



いつの間にか移動していたカフェテラス(シシリィ誘導)で、私は感嘆の溜息をつきながら、そっと本を閉じた。


「つ、続きはっ?シリーズ物だよねっ!

これ、続き出るよねっ!」


鼻息荒くシシリィに詰め寄ると、シシリィはまぁまぁと両手で私を制し、ニヤッと笑う。


「もちろん、シリーズ物よ」


いやっふぅ〜〜っ!

だよねっ!こんな気になる面白い所で終わられたら、続きが気になり過ぎて眠れないわっ!


「ちなみに、作者はエドワード・ホルテス子爵令息よ」


「彼っ!天才かよっ!」


「ちなみにちなみに、彼を発掘したのは、私よ?」


「敏腕かよっ!」



……んっ?

エドワード・ホルテス子爵令息って、確か……。


「察しがいいわね。

そう、キティのファンクラブの前会長。

今は副会長のエドワード・ホルテス子爵令息よ」


シシリィにいつもの如くエスパーされ、サクッと答えが出る。



えっ?あの人が書いてるの?


……じゃあ、この、魔女に気に入られ、常に狙われているヒロインの少女って……。


私は、震える指で自分を指した。


「はいっ!正解っ!

キティにしては気付くのが早かったわね?」


シシリィがパチパチと拍手しながら言った。



な、な、な、何をしてんのよっ!君らはっ!

一体何がしたいのかが、分からない。


でも、こんな名作をこの世に生み出してくれた事には感謝します。ありがとうございます。


でもでもっ!シリーズ物のヒロインが私って!


確かに面白いっ!続きも気になるっ!

ってか、続きが出たら絶対買ってその日のうちに読破するっ!


でも、ヒロイン、私ぃぃぃぃぃぃっ!



悩ましさに身悶える私を、シシリィがお腹抱えて指差しながら、笑っている。


くっ、悔しい。

しかし、良い。

うる魔女(略)マジで面白い……。



しかし、確かにそう言われてみれば……。


私は〈うる魔女〉の豪華な背表紙をそっと撫でた。


するっ!例のあの馴染みの香りがするっ!

ロイヤルな香りがそこはかとなく漂っているっ!


いるわっ!関係者の中に、あの、名前を言ってはいけない、彼の方がっ!



「どう?キティ、気に入ってくれた?」


穏やかな声を振り仰ぐ。


椅子に座る私を覆うように、クラウス様がテーブルに手をついて、私を見下ろしていた。


キターーーーーーーーッ!

疑惑のご本人キターーーーーーーーッ!



「はい、あの、すごく楽しく読ませて頂きました……」


クラウス様は私の髪を一筋すくい、そこにキスをして、エロ、いや、色っぽい流し目で見つめてくる。


や、やめて。

今鼻血噴いたら、本が汚れちゃう。


「続き、早く読みたい?」


クラウス様の問いに、私は思わず、首がもげるほど頷いてしまった。


「シシリア、作家に急がせろ」


クラウス様に言われて、シシリィはボキボキっと自分の拳の関節を鳴らした。


「オッケーィ。ちょっと休ませてあげてたけど、それも終わりね」


や、休ませてあげてっ!

そこは休ませてあげてよっ!


作家さんを酷使すると、スランプに陥るって言うわよっ!


作家にだって休息は必要なのよって、聞いてるっ⁉︎そこの武闘派編集者ーーーっ!



「じゃ、キティ、これお願い」


シシリィに差し出された可愛らしいメッセージカードに、私は小首を傾げる。


「作家に一筆お願い」


続くシシリィの言葉に、私はフンガーッと鼻息を噴いた。


作者に直にファンレターが届けられるのっ!

マジっ?嬉しすぎるっ!


私は速る気持ちを抑えて、サラサラサラ〜っと書き綴った。


本当は本の感想を原稿用紙10枚は書きたいところだか、小さなメッセージカードでそれは無理だった。


シシリィは私が書いたメッセージカードをササッと奪うと立ち上がる。


「ありがとっ!これで3日は寝ずに書くわね。

半日寝たら、また3日寝ずに書かせるわ、じゃっ!」


そう言って颯爽と去っていく……。



ま、待て待て待て待て待てぇーいっ!

死んじゃうっ!作者様死んじゃうからっ!


お願い、誰かっ!

あの武闘派編集者からもっと優しい担当者に変えてあげてっ!


作者様が死んじゃったら、〈うる魔女〉の続きが読めなくなっちゃうヨォ〜〜〜っ!



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