episode.13

ご機嫌よう、皆さま。

あのヘッポコ悪役令嬢めっ、まんまと流されおって……と思った方、はい、手を挙げてっ!

あら?私が1番に挙手してしまいましたわ。

キティ・ドゥ・ローズでございますぅ。





爽やかな初春の佳き日。

王立学園への入学を2週間後に控えた今日は、

このアインデル王国の第二王子、クラウス・フォン・アインデル王子殿下と、1週間後にデビュタントを控えた婚約者候補のご令嬢方との【祝義の謁見】の日でございます。


クラウス様の婚約者候補は現在28名。

この年にデビュタントを迎えるご令嬢は内7名。

候補の順位の高い順に王子殿下に謁見して、社交界デビューへのお祝いの言葉と贈り物を賜る。

所謂、ファンサイベントである(違う)。


ちなみに私の候補順位は只今1位……。


いつの間にっ!知らない内に金メダルっ!

何か見えない力を感じずにはいられないのは私だけ……?


そんな訳で、今日の【祝義の謁見】も必然的に私から始まる。


1人30分程度の予定ではあるが、7人も居れば4時間くらい掛かりそうだ。

クラウス様の負担を減らすべく、私は3分くらいでお暇しようと考えつつ、王宮の勝手知ったるクラウス様専用の応接室に向かう。


他に、執務室と自室(応接間とリビングと寝室に分かれている)があるが、そのどれにも連れ込まれ(ん”ん”)ご招待頂いた事があるので(ちなみに寝室は頑なに拒否した)本当に勝手知ったるなのだ。


王宮の廊下をしずしずと歩いていると、前から1人のご令嬢が歩いてくるのが見えた。

その顔を見て、私は立ち止まった。


長く艶やかなパープルブラックの髪に、瞳の色はアメジスト。

白磁のような肌、スラッと長い手足、正統なるロイヤルの美しさ。


シシリア・フォン・アロンテン公爵令嬢。


宰相であるアロンテン公爵のご令嬢。

ちなみにアロンテン公爵は国王陛下の従兄弟殿下なので、シシリア公爵令嬢はクラウス様のはとこになる。


第三王子、フリード 殿下の婚約者に決定してからもう7年になる。

それまではクラウス様の婚約者最有力だったのだか、まぁ、色々あったようで、詳しい事は教えてもらえなかった。


シシリア公爵令嬢はレオネル様の妹でもあるので、私も何度かお会いして、一緒にお茶をした事のある仲だ。


「ご機嫌よう、キティ様」


「ご機嫌よう、シシリア様」


お互い小さくカーテシーをして挨拶を交わす。

本来ならシシリア様が私にカーテシーをする必要はないのだが、私が現在第二王子の婚約者候補第一位である事を慮って下さったのだろう。

もちろん、ここは公式な場では無いし、人の目もほとんど無いので、どちらかと言うと親愛の意味合いを込めてくれたように思える。


「本日は【祝義の謁見】でこちらへ?」


シシリア様の問いに、私はにっこり微笑んで答えた。


「はい、ありがたくも第二王子殿下よりお言葉とお祝いを頂きに参じました」


「おめでとうございます。もちろん、キティ様がお一人目ですわよね?」


優雅に微笑むシシリア様の目が一瞬探るように揺らめいた気がして、私は一瞬怯んでしまった。


お、王宮のパワーバランスとか、色々あるのかな?

私と同い年なのに、しっかりしてるなぁ。

妙に感心しつつ、私はこっくり頷いた。


「はい、ありがたくも1番最初に拝謁させて頂きます」


私の言葉にシシリア様は何かを把握したかのように頷いた。


しかし……同い年とは言え、シシリア様とお話していると微妙に首が痛い。

シシリア様はこの世界の女性平均身長より若干高い気がする。


とはいえ私、キティ・ドゥ・ローズ!だって、現在身長153㎝っ!


153㎝!153㎝ですよっ!皆さまっ!

この世界の平均身長には10㎝程足りませんが、元の日本なら5㎝の差!

5㎝!たったの5㎝!


これはもう!低身長脱却っ!並身長!

キティのキャラ設定を1つぶっ壊してやったわっ!

更に、並身長って事は、ロリッ子だって脱却って事でっ!

更に更に、日々の努力が実り!

胸がっ!お胸様がっ!

Cカップまで育ちましたーっ!!!

キャラ設定既に崩壊レベルっ!


私は長いキャラ設定との戦いの日々を思い返し、1人うっうっと咽び泣いた。


前世でも手に入れられなかったCカップバスト……可愛い可愛い私のお胸ちゃん……ボインボインの私のお胸ちゃ………。


私はシシリア様の豊満な胸(真っ直ぐに見ると丁度胸なので、ワザとではない)に釘付けになった。


この世界の平均カップがEカップ(私調べ)。

そして目の前にあるお胸大明神様が(推定)Gカップ……私、Cカップ……。


ふっ……短い夢だったわ……。


で、でも宿願は叶ってるものっ!

ちょっとこの世界ではささやかなお胸でも、トリプルAカップ設定だったキティから見れば、これはもう巨乳っ!平伏すレベルの巨乳よっ!


これならきっと、ゲームも私をキティとは認識出来ず、強制力も働かないっ!

だって私ただのCカップの侯爵令嬢だものっ!


ガッハッハッーと笑って(脳内)いると、シシリア様の声に我に返り、私は慌てて姿勢を正した。


「ところで、本日はいつもと装いが違いますのね。とても素敵ですわ」


シシリア様の言葉に私はギクっと肩を揺らした。


そう、今日はいつもの動きやすく地味なワンピースではなく、胸元の空いたドレスを着ている。

それに……そう……前髪……。

前世から私の苦楽を共にしてきた大事な厚いもっさり前髪も……バッサリ切って、眉の上で綺麗に揃えられている。


ううう〜私の大事な可愛い前髪ちゃん。

寝てる間にマリサにバッサリ切られちゃったの(お母様承諾済)。

翌朝力なく鏡の前で膝をつく私などお構いなしに、理髪師さんがサクサク前髪を整えて、ついでに伸ばしっぱなしにしてたモッサリヘアーも綺麗に整えられ、今日はマリサが腕に寄りをかけ、何故かっ!あろう事かっ!ふわふわツインテールに仕上げられちゃったのよぉぉぉぉ〜ん、お〜いおいおい(咽び泣き)。


マリサは狂喜乱舞してるし、お母様は泣き出しちゃうし、お父様とお兄様は何やら2人でブツブツ言ってるし……。


カワイスギテユウカイ二〜とか、ゴエイヲジュウバイニ〜とか、アノオウジノメヲツブシニ〜とか……物騒な呪文が聞こえてきたような……いや、私は何も聞こえなかった……もう、何も考えたくない……。


そんなこんなで思考ストップのまま、気付いたら王宮に着いていたのだ。


ううっ……もっさりワンコから人間に強制クラスチェンジされてしまった……。


「デビュタントも控えていますので……」


と言いつつ、非常に遺憾です、との気持ちも込めて、私は答えた。


「そうですわよね。

デビュタント、とても楽しみですわね。

キティ様のエスコートはクラウス様が?」


「いえ、お父様かお兄様がエスコートして下さる事になると思います」


私の返事に、シシリア様は意外そうに片眉を上げた。


「あら?そうですの?てっきりあの男……いえ、クラウス様がエスコートなさるとばっかり」


一部聞こえ辛かったので、私は曖昧に微笑んでおいた。


「今日にでもなし崩しに色々仕掛けるつもりでしょーね、あの男……」


シシリア様が何やら小声でぶつぶつ言っている。


「えっ?」


「い、いえ。何でもありませんのよ。

それよりキティ様。

今王宮では帝国から輸入さているコーヒーという飲み物が流行しておりますの。

もう飲んでみました?」


私はパァッと笑ってコクコク頷いた。


「はい、私コーヒー大好きなんです」


私の返事にシシリア様は片眉を上げる。


「まぁ、意外ですわ、独特の苦味を苦手に思う女性が多いそうよ?」


「確かに私もそのままではちょっと苦手ですが、砂糖とミルクをたっぷり入れてカフェオレにして飲むのが大好きなんです」


私の返事に、またシシリア様は片眉を上げる。


やはり前世日本人としては、紅茶よりコーヒーの方が馴染み深い。

ミルクティーも美味しいけど、やっぱりカフェオレ!

ずっと恋しかったのよねー。


つい最近、友好国の帝国から輸入されるようになって、この国でも(まだ一部だけど)飲まれるようになってきたコーヒー。


帝国でも最近やっと量産出来るようになって、他国に輸出し始めたばかりで本当にまだまだ貴重品なんだけど。

私が気に入ったと知ったクラウス様が王宮でのお茶は必ずカフェオレを出してくれるようになって、我が家にも大量のコーヒー豆を贈って下さったのよね。


「キティ様はカフェオレ派なのね、私はブラックが好みなの」


シシリア様の言葉に、私はへーっと感心した。


「ブラックだなんて、大人ですね」


本当に同い年とは思えないなぁ。


私の様子にシシリア様は微笑んでいたが、その目の奥が一瞬キラリと光った事に、私は気付けなかった。


「まぁ、長らく足止めをしてしまいましたね。

申し訳ありませんわ。

さぁもうクラウス様の所にいらして下さいな。

きっと首を長くしてお待ちだわ」


「まぁ、そうでしたわ。

それではこれで、失礼致します。

ご機嫌よう、シシリア様」


「ええ、ご機嫌よう、キティ様」


シシリア様にそう言われて、私は本来の目的を思い出し、シシリア様に軽くカーテシーをしてその場を辞した。


そして慌ててクラウス様の待つ応接室へと向かう。


………その私の後ろ姿をシシリア様が静かに見つめていた事にも気付かずに……。




クラウス様の応接室に着き、私は呼吸を整えてから、ゆっくり扉を叩いた。


ここで本来なら中から返事を貰い、扉前の兵士さんに扉を開けて貰う手筈なのだが、何と叩いた瞬間扉が中からぱっと開いた。


自動扉だっけ?


そんな訳は無く、ただ単にクラウス様が中から開いてくれただけだった。


「キティ!よく来てくれたね………っっ!」


とびきりの笑顔で迎え入れてくれたクラウス様は私を見るなり、途端に驚愕に目を開き、次に頬を染めると私を抱き抱え、中に引き摺り込むと扉をバタンっと締めてしまった。


あっ、ちょっと!扉は完全に閉めないルールですよ。


私が抗議しようとクラウス様を見上げるのと同時に、クラウス様が私をガバっと抱きしめた。


そのまま、ぎゅーっと抱き潰される。


ちょ、ちょっ!強い強い!潰れる潰れるっ!


私は必死にクラウス様の背中に腕を回し、バシバシ叩いた。

それでやっとクラウス様は私を抱きしめる力を緩めてくれて、私はプハッとクラウス様の胸から顔を上げた。


ゼーゼー……。あ、危なかった……。

推しの胸で圧死って新しい死に方するとこだった…………うむ、悪くない。


真上にあるクラウス様の顔を見上げると、クラウス様を顔を真っ赤にして、じっと私を見つめている。

んっ?と不思議に思い小首を傾げると、途端弾かれた様にクラウス様が私の体からパッと離れた。


「ちょ……ちょっとヤバい、これはヤバい.…」


何かブツブツ言い出した。

真っ赤になって動揺している超絶美形……。

うん、貴重だ。スクショ不可避(脳内)。


ややして、クラウス様はハッとしたように私を見ると、私の肩を掴み、眉間に皺を寄せた。


「キティ、ここに来る迄に誰かに会った?

俺以外の男とか!」


クラウス様の問いに私はフルフルと首を横に振った。


「いえ、男性には誰も。

ここに来るまでにお会いしたのは、シシリア公爵令嬢様だけです」


私の返事にクラウス様はほっと安心したように息を吐き、でも直ぐに顔を上げて目をギラリと光らせた。


「シシリア……あいつ……」


その眼光に私がヒッと体を硬らせると、クラウス様が慌てて微笑んだ。


「ごめん、キティ。何でもないんだ。

さっ、座って」


クラウス様に促されるまま、私はおずおずと豪華な革張りのソファに座った。

当然の如く、隣に座るクラウス様。


クラウス様はそれから、うっとりとした様子で、じーっとただただ私を見つめている……。


ここまでで既に3分の滞在時間(私予定)を大幅に過ぎている。


あまりに長く見つめられる事に耐え切れなくなった私は、つい口を開いた。


「あ、あのクラウス王子殿下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」


「あっ!ごめんっ!そうだったね」


瞬間、弾かれたようにクラウス様は我に返ると、にっこり微笑んで言った。


「キティ、俺と君の仲で格式ばった挨拶は無しにしよう。

キティ、デビュタントおめでとう。

当日は是非俺にエスコートさせてほしい」


「えっ⁈」


クラウス様の言葉に私は目を見開いた。

婚約者でもない令嬢が王族の方にエスコートされるなんて、前代未聞だ。


例えば、これが王家と親族関係にあるシシリア様や他国からの賓客であれば問題は無いのだが、ただの婚約者候補の1人である私が王族にエスコートされてデビュタントを飾るなんて、どんな高待遇っ!


噂が噂を呼び、嵐が吹き荒れ、ブリザードが吹き荒び、デビュタント会場が凍り付き破壊され尽くし(あれ?後半ほぼお兄様の仕業じゃない?)。

侯爵家の地位も名誉も地の底に落ち、没落の一途……。


ゲームが始まる前にローズ家全滅⁉︎


駄目駄目駄目駄目っ!


最悪自分の破滅は覚悟してるけど、そんな本作シナリオに無い展開なんて、酷すぎる……。

何の罪も無い家族まで巻き込むなんて、出来ないわ…….。

いや、私にだって今のところ何の罪も無いのだが。


私は恐れ慄いて、頭をブンブン振り、ここは私がしっかりしなきゃ!と決意して、姿勢を正しクラウス様に向き合った。


「過分なご配慮を頂き、痛み入ります。

ですが私如きにそのような」


「あっ、ちなみに侯爵家からは既に了承を得ているよ?」


えっ⁉︎


私の言葉に被せられて放たれたクラウス様の言葉に、私は驚き過ぎて、ちょこっと飛び上がってしまった。


えっ⁉︎お父様、了承しちゃったの⁉︎

ローズ家が後ろ指さされてもいーのっ?

ってかそもそも、お父様とお兄様でどっちが私のエスコートをするか熾烈なバトルを繰り広げてなかった?

(水と火属性のお父様と、水と土属性のお兄様の超絶異能バトルっ!なかなかの見応えでしたわ)


「だから、ね。エスコートは俺に任せてね」


にこにこご機嫌なクラウス様に、私は呆然としたまま、うっかり頷いてしまった。


クラウス様はご機嫌なまま、メイドさんに目だけで何やら合図した。

それを受けてメイドさんが深くお辞儀をすると、一旦下がり、直ぐに何人か人を引き連れて戻ってきた。


そして私の目の前に、王家の紋章付きのジュエリーケースが置かれる。


ああ、これが王子の婚約者候補に贈られるお祝いの品ね、っとまだぼんやりしている頭で思っていると、2つ、3つ、4つ……とどんどん箱が増えていく……。


って、いやいやいやっ!多い多い多いっ!


私の前にはズラーっと、6個の箱が並んでいる……のに、まだ何やらどんどん運び込まれてくる……。


宝石を散りばめた靴にドレスグローブ、更にドレス……。

あっあれ?フルセット?

多くないっ⁉︎明らかに多くないっ⁉︎


私は訳が分からず、アワアワキョロキョロする。

そして恭しく開けられていくその絢爛豪華な宝石たちを目の前にして、あまりの眩しさに目を両手で覆った。


目がっ!目がぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!


ズラリと並ぶ髪飾りにティアラ、ネックレスにイヤリング、指輪、ブレスレット。

全てサファイアやブルーダイヤモンド等、澄んだブルーを基調とした宝石を精巧な作りで仕上げてある。


ドレスはデビュタントの白、なのだが……。

これは……。


首元から胸元に向かって繊細なレースが沿っていて、レースには小さなブルーの宝石が星のように散りばめられている。

レースから続く上等のシルクは恐らく最高級の物。

その生地に金色の細かく精巧な刺繍が、裾から蔦が這うように施してある。


どれも超一級の最高級の品々。

この中の1つだけでも、王都にちょっとした邸を建てられそうな金額がするような気がする……。


私はガタガタブルブルと固まったまま震える。

私の振動で座っているソファーまでガタガタ揺れるほどだった。


ってか!そもそも!デビュタントのドレスって、真っ白って慣例で決まってるのっ!

アクセサリーなんかも透明や白い物。

まだ未婚の令嬢達が真っ白な状態で社交界にデビューしましたって意味合いがあるのね。

何色にも染まりますので、縁談のお申し込みはどうぞ0120-×××-⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎(リプレイ)まで。って言いたいのよ。


中には既に婚約者の居るご令嬢もいらっしゃるけど、そんな方でも、控えめに、ひっじょ〜に控えめに、相手の方の瞳や髪の色をあしらった髪飾りやアクセサリーを1つ飾るだけ。

それでも、既に契約物件です。と他の方には充分伝わるの。


ちょっと小粋な令嬢なんかは、ドレスグローブに自分の家の紋章何かを刺繍するけど……そこまで考えて、私はハッとしてクラウス様がご用意下さったドレスグローブを凝視した。


………ガッツリ刺繍が入ってる……。

…………王家の紋章が………。


不敬ーーーっ!不敬で死罪かくてーいっ!


ハァハァ……もう駄目……不整脈と過呼吸で死ぬ。

死罪になる前に……死ぬ。


ああ、いっそその方がいいのかも……。

今死ねば目の前のドレス諸々身に付ける事も無く、死罪回避、没落回避、せめて家族には迷惑を掛けずに逝けるわ……。

ああ、◯トラッシュ◯……もう僕は疲れたよ……。


ファラ〜……と私が安らかに天に召されようとしていると、目の前に美形のドアップ(大好物)が。


途端に体にギュンッと強制的に戻される魂。


「どうかな?キティ?気に入ってくれた?」


良い顔で聞いてくるクラウス様に、私は目を泳がせ、しどろもどろになって答えた。


「わ、私には、か、過分と言いますか、恐れ多く、あの、それに私のデビュタントの衣装は、お、お母様が、もうご用意を…」


私の言葉にクラウス様はにっこり笑って言った。


「それなら大丈夫。侯爵夫人とは話がついてるよ。

これまで侯爵夫人と何度も綿密な打ち合わせをしてきて、全て揃えたんだ」


お……お……お母様っ……。


私はお母様の優美な微笑みを思い出していた……。


『キティ、デビュタントの衣装はお母様にぜーんぶお任せよ。

可愛いキティが会場に埋もれたりしないように、お母様がとびっきりの衣装を用意しますからね』


お母様……とびっきりって……。

この全身、上から下までクラウス様カラーの、私が婚約者候補第一位のキティ・ドゥ・ローズでございます!的な歩く広告塔ファッションの事かしら.…。


確かに、会場に埋もれたりしないわ、お母様っ!

埋もれるどころか、浮きまくりですっ!お母様っ!

浮きまくってそのまま召されそうですっ!お母様っ!


……もう、無理。

逃げられない……。


アハ、アハハハハ……っと私は乾いた笑いを浮かべ、全てを放り出した。


「良かった、気に入ってくれたようだね」


「……はひ、とても……クラウス様、ありがとうございまひゅ……」


白目を向いたまま私は答えると、カラクリ仕掛けのようにギクシャクと立ち上がった。


「ソレデハコレデ、ツギノカタノオジカンモアリマスシ、ワタクシハ、シツレイイタシマス」


カクカクとそう告げると、右手と右足を同時に出して、私は辞去しようと扉に向かった。


「えっ?ちょっと待って、キティ」


慌てて追いかけてきたクラウス様が軽く腕を掴んだだけで、カラクリキティは容易くバランスを失い、後ろに向かって倒れた。


「あっ……」


私は衝撃に備えてギュッと目を瞑ったが、なんなくクラウス様に受け止められる。


「おっと、大丈夫?キティ」


「……はい、大丈夫で……?」


そこで私は自分の胸辺りに違和感を覚え、目線を下に向けた。


クラウス様の華奢なのに意外に筋肉質な腕がしっかりと支えてくれている、私の両胸を……。


「えっ……?」


「あっ……」


クラウス様も私と同じように、自分の両手に収まる私の胸をじーっと凝視する。


……一拍置いて、その手がモミモミモミモミと規則正しく動いた。


「く、クラウス……様?」


「あっ、ごめん、つい」


つい?ついで揉んだのっ?私の胸を?

ってか、何故いつまでも揉み続けてるの……?


「……いや……この……へ……ん……た」


そこで私はグリンッと白目を剥いて気絶した。

真っ白になる意識の中で、悠然と微笑むクラウス様の美しい顔を最後に見ながら……。


推しにハプニング乳揉みされて、ショック死なんて………尊……。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ふふふ、ああ、キティ」


クラウスはキティを抱き抱えながら、嬉しそうに笑う。

そして、愛おしそうにその頬に頬擦りしながら、恍惚とした表情になった。


「可愛いよ、キティ。

もう俺以外誰も君を見られないよう、直ぐに閉じ込めてあげようね」


ちなみに胸はまだ揉み続けていた………。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





後書き


変態降臨(後光)

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