第041話 ラウール超大型との戦いに臨む


 オーマ大森林。

 めっちゃ広い森ってことくらしか知らなかった。

 でも今、こうして駆けていると色々と見えてくるものがあるな。

 

 意外とこの森って果実がたくさんある。

 食べてる余裕はないけど気になるなぁ。

 あの赤い実、めっちゃいい匂いしてるし。

 

「マスター、あれは食用ではありませんよ」


「え? そうなの?」


「あの果物。ウル=ディクレシア連邦では悪魔の果実と呼ばれてましてね」


 うおっと危ない。

 着地点がズレた。

 ヒヤッとしちゃう。

 

 クッ。

 そんな面白そうな話をするとは。


「まったく。この程度のタスクもこなせないとは! 嘆かわしい!」


「おめえと一緒にするんじゃねえ。人工知能め!」


「仕方ないですね。マスター、超大型との闘いが終わったら存分に語ってあげます」


 へっ。

 気をつかいやがって。

 

「マスター。少し真面目な話をします」


 ワイヤーフックを飛ばして、枝から枝へと飛び移る。

 なんかこの辺りの巨木はさらにサイズがでかいな。


 かなり深部に入ってきている。

 この辺りまでくるのは初めてだな。

 

「マスター! ストップ!」


「あん?」


 急にストップと言われても、だ。

 サイボーグは急に止まれない。

 

「その枝は魔物が擬態して……」


「うおおおお」


 マジか。

 着地しようとしていた巨木の枝。

 いや枝じゃなかったのか。

 魔物だ。

 

 でっかい虫の魔物。

 気持ち悪い。

 うねうねと動いてやがる。

 

 ナナフシだったっけ?

 

「マスター! 分子操作!」


 そうだ!

 靴裏にトゲトゲを一瞬で生成する。

 ドスンと踏みつけた。

 

 いやあああああ!

 

 足裏に生々しい感触がする。

 こういうときは感覚を切っとけよ。

 マジで。

 

 アタイ、もうお嫁にいけないわ……。

 

「訳のわからないことは言わないでください。さっさと行きますよ!」


 はいはい。

 

「次からはもう少し早く対処できるようにします」


 頼むよ、スペルディアくん。

 本当にね!

 

 ざわざわとオーマ大森林の空気が揺れている。

 ビリビリとした空気が伝わってきた。

 

 ……ふぅ。

 いやがるな。

 あの大型、いやもう超大型か。

 

 あらゆる魔物を吸収する複合型。

 魔物が浮き上がるような体表。

 

 思いだすだけで怖気がする。

 

「マスター?」


 巨木の枝からワイヤーフックを使って地面に降り立つ。

 

「悪い。ちょっとだけ時間をくれ」


 思っていたよりも心に刻まれていたみたいだ。

 これがトラウマってやつか。

 

 サイボーグの身体じゃなかったら、きっと震えていただろう。

 うん。思いだした。

 

 あの尋常ではない殺気。

 無我夢中で逃げて、逃げて、遺跡を発見したんだ。

 

 ――怖じ気づくな。やれるだろ。

 

 ひとつ自問してみる。

 目を閉じた。

 

 脳裏に浮かべるのは親父殿とお袋様。

 二人とも死にそうな目にあっても大型を倒そうとしていた。

 

 知り合いの鼻垂れどもにヘッケラー。

 あのクソ餓鬼どもも、怖じ気づいていなかった。

 ヘッケラーもだ。

 

 そうだ。

 長兄と次兄も、みんな。

 みんな……退かなかったんだ。

 

 目を開いた。

 大きく深呼吸をする……ふりだけど。


「いくか。こっからは遊びじゃねえ! 本気でいく!」


「リミッター外しますか?」


「おう! 出し惜しみして勝てる相手じゃねえ!」


 雑魚を含めて、ぜんぶやる。

 かんたんなお仕事だ。

 むかってくる魔物はぜんぶ殺す。

 鏖殺だ。

 

「スペルディア! 場合によっちゃアレ使うからな!」


「承知しました。マスター、十一時の方向から魔物の群れがきます」


「任せとけ! こいよ! 魔剣ティルフィング!」


 超振動ブレードの二刀流だ。

 さらに分子操作能力で、カリウムナトリウム合金を生成する。

 ドバドバっと大量だ。

 

「スペルディア、タイミングは任せるぞ」


「承知。多次元障壁を展開します」


 そこでオレは分子操作を発動したまま魔物の群れの方向にむかって跳んだ。

 

「え? マスター?」


 なにするんだ、こいつって口調だな。


「このまま爆発の衝撃を利用して、一気に距離を稼ぐ。いけるだろ? 信頼してんだ、ウル=ディクレシア連邦の技術力ってやつを!」


「くううう! ズルい! そんなことをこの状況で言うなんて! やってやりますよ! 我がウル=ディクレシア連邦の技術力がマスターの信頼に値すると見せてやります!」


 今だ、やれえと先生から号令がかかる。

 カリウムナトリウム合金から水へと生成を変えた。


 瞬間、もうわけがわからんほどの爆発が起こる。

 これ生身だったら絶対に耐えられないはずだ。

 

 爆風で押されるというよりは、吹き飛ばされる。

 それでも身体を制御して、巨木の間をすり抜けていく。


 ワイヤーフックの使い方はもう完璧だ。

 きっとあの執事ウォルターよりもオレの方が上手い。

 

 すれ違いざまに手の届く範囲の魔物を屠る。

 こういうときはティルフィングが便利だ。

 

 なにせ当たれば問答無用だからな。

 どんどん行く。

 

 巨木の切れ目から、超大型の姿が見えた。

 

「だらああああああ!」


 ティルフィングを投げつける。

 この距離でも当たればなんとかなるはずだ。

 

 巨木をスパンと斬って、ティルフィングが真っ直ぐに進んでいく。

 超大型の腹のあたりに刺さって埋まる。

 

「うらあああああ!」


 残っていたもう一本のティルフィングも投げる。

 こっちは足のつけ根に刺さって埋まった。

 

 ワイヤーフックを使って、地面に降りる。

 勢いを殺さないように走った。

 

 全速力だ。

 恐ろしい勢いで景色が後ろへ流れていく。

 

「マスター! 分子操作! 地面を泥沼にして魔物の機動力を奪って!」


「わかった!」


 能力を発動させながら走る。

 上空から襲ってくる鳥型の魔物が二体。

 しっかり見えてるんだよ。

 

 指弾を高速で生成して飛ばす。

 

「スペルディア!」


「承知!」


 攻撃用のドローンから針が飛ぶ。

 鳥型の魔物がふらついて、滑空している。

 それを狙って、ワイヤーフックをとばした。

 

 一瞬で捕獲して、すぐに転送する。

 だって、こいつらに時間をかけてる場合じゃねえんだもの。

 

 目の前には魔物だらけ。

 ちがう意味でドキッとしちゃうね。

 

「雑魚が多い! しゃあねえ!」


 超大型に近づくほど魔物の数が多くなる。 

 あいつから逃げているだけなんだろうけど。

 なんでこっちに殺意むけてくるんだ。

 

「マスター! 本気でやるんですか!」


「やっちまえ! オレならなんとかなる」


「承知しました。こちらでも最大限サポートしますから!」


 魔物がくる。

 ミョルニルを使ってなぎ払う。

 なぎ払いながら、ちらりと空を見た。

 

 ドローンたちが忙しなく動いている。

 さらにオレの脳に埋めこまれた補助人工知能がフル活動だ。

 

 それはオレの頭も一緒。

 スペルディアのサポートがあってもこれだ。

 

 ずきん、と刺すような痛みが走る。

 鼻血がでているような感覚がした。

 実際にはでないよ、サイボーグだもん。


 オレがバカなら頭から煙を噴いていただろう。

 賢くてよかった。

 

「マスター! 水分子から水滴と氷粒子の大量生成に成功しました。続いて電荷の分離に取りかかります」


 ぐうう。

 負担が増す。

 目の前がチカチカする。

 

 だけど、魔物にやられてたまるか。

 もうちょいだからな。

 

「マスター! 続いて大気の対流運動を操作します。大気中の閾値を超えるまで、もう少しです!」


 ぶっちゃけ、報告されてもなにをしているのかわからん。

 オレにわかるのは結果がどうなるかってだけだ。

 

 この能力はもっと使ってなれないといけない。

 だけど、なかなか試せないんだよなぁ。

 

「うらあああ!」


 独楽のように回りながら、ミョルニルを水平に振り回す。

 囲んでんじゃねえよ、バカどもめ。

 

「多次元障壁を展開します! マスター伏せて!」


 オレは身体を地面に投げ出した。

 その瞬間だった。

 

 カッと天空が光る。

 直後に大気を震わせて、雷が落ちた。

 一度や二度じゃない。

 

 何度も大気が震える。

 うへえ。

 これはちょっと怖い。

 

「マスター! もう大丈夫です!」


 お、おつかれ。

 ちょっとふらふらしながら立ち上がった。

 これ、脳に負担がかかりすぎるのが難点だ。

 

 威力と範囲は抜群なんだけど。

 操作する範囲が広くて、超高度な制御をしないといけないんだわ。

 先生が言うにはな。

 

 だもんで、オレにもダメージがある。

 あわよくば超大型が倒れてないかな、なんて思う。

 

「残念ながらまだ生きていますね。何発か当たったんですけど」


「だよなぁ。まぁ雑魚敵は全滅だな!」


 手当たり次第に魔物の死体を回収していく。

 死体があったら、いざってときに邪魔だからな。


 それとアイツは死体も吸収する。

 餌を残しておくわけにはいかない。

 

 あらかたキレイになったところで、超大型が吼えた。

 地の底が割れたような不気味な声。

 

 あの頃とは比べものにならないくらいの迫力がある。

 怒っているのか。

 それとも痛がっているのか。

 

 どっちでもいいや。

 あとはアイツを倒せばいいんだから。

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