第043話 ラウール超大型との戦いをはじめる


 んー正直に言おう。

 オレの切り札だった雷の魔法よりも強い――と思うんだ。

 コスパ的には魔法の方がいいかな。

 

 でもまぁ遠距離攻撃に乏しいオレにとってはマジで切り札のひとつだ。

 本命はまだあるけど。

 

 雷撃の嵐を喰らってもピンピンしている超大型の混成型魔物。

 その正体は――よくわからん。

 スライム的な性質を持っているとは推測できるけど。

 

 なんでも吸収して、どんどんデカくなる。

 つか、混成型ってここまで強くなれるんのかよ。


 なんちゅうかあれだ。

 たぶん突然変異的なヤツなんだと思う。

 そうでなけりゃ、もう何回か滅んでるだろ。


 一見した見た目は完全にバケモノだ。

 なんだかよくわからん形になっている。

 

 オレの中でいちばん近いのは宇宙生物だろうな。

 真っ黒で生理的な嫌悪感を催させる異形の魔物だ。

 

 たぶんだけど百メートルくらいあるんじゃないか。

 めっちゃデカいもの。

 

「サイズ感が半端ねえな」


「でしょうね。ドローンの計測によると……だいたい通天閣くらいですから、マスターの目測も捨てたものじゃありませんね」


 そうなの?

 通天閣って言われても知らんけどな。


「マスター、徹甲炸裂焼夷弾を使いましょう」 


 なにそれ。

 説明してちょ。

 

「敵の装甲を貫いて、内部で炸裂する焼夷弾のことです」


 うへえ。なにそれ怖い。

 でも効果的か。

 

 あいつ、なんでも吸収するからな。

 オレの魔剣ティルフィングも埋まったままだし。


「そんなの用意してあんのか?」


「いえ、戦槌の先端をマスターの分子操作で改造します!」


 ハハハ。

 こやつ、人使いが荒い。

 さっき雷をバカみたいに降らせて、けっこう消耗したんだけどな。


「マスターの魂子力なら問題ありません」


 クッ。

 なんてヤツだ。

 だが――やるしかねえ。

 

「スペルディア、戦槌を頼む!」


 オレの手に転送されてくる戦槌。

 それに分子操作能力を発動させて、先端を変化させた。

 

「戦槌のストックは何本あるんだっけ?」


「七本ですから、全部やりますよ」


 即答だ。

 どうやら先生はオレを使い倒す気らしい。

 いいだろう、望むところだ。

 

 すべての戦槌を変化させた。

 

 超大型が吼える。

 それが開戦の合図になった。

 

 ワイヤーフックを使いつつ、一気に距離を詰めていく。

 近づくほど、超大型の大きさに呆れる。

 

 まさか通天閣相手に戦うことになるとは。

 オレの転生、どんだけハードモードなんだよ!

 

 超大型は足元に転がっている魔物の死体を吸収していた。

 さっきの雷がけっこう効いていたのかもしれない。

 

「うらああああああ!」


 まずは一本、戦槌を投げつける。

 超大型の腹あたりに当たるものの、やっぱり貫通はしない。

 

 全力で投げたんだけどな。

 しっかり受けとめられてしまった。

 身体の中でだけど。

 

 少しして、ぼふんとこもった爆発音が聞こえた。

 

「ぎいいいいいいいい!」


 超大型が声をあげて身をよじっている。

 よし、この反応は効果ありか。

 

「マスター、止まったらい……」


 最後まで聞けなかった。

 どん、と衝撃をうけて、オレの身体が吹き飛ぶ。

 なんだ? なにをされた?


「超高速で肉片を発射してきたんですよ」


 え? 身体を見るとべったりとした黒いなにかがついている。

 うわ、かなり気持ち悪い。

 そんでもって、臭い。

 

 嫌になる。

 この臭い、マジでいや。

 

「ぐぬぬ……またしても私の最高傑作を! おのれ……ゆ゙る゙ざん゙」


 なんだ、なにかに変身するつもりか。

 この使い魔は。

 

「マスター! 残り六本全弾発射!」


 無茶言うなよ。

 一本ずつだっての。

 

 ワイヤーフックを使って立体的に動いて的を絞らせない。

 それでいて戦槌を投げつけていく。

 

 全弾命中。

 だが、オレにはこれ以上の手がない。

 

 今、動きが止まっているものの、まだまだ元気だ。

 ゲームで言うなら、ゲージが二本減ったくらいだろう。


「マスター! これ以上は打つ手がありません」


「わかってるっての!」


 マジで強いわ、超大型。

 どうなってんだよ。

 ふつうならあの徹甲なんちゃら一発で倒せるだろうに。


「グラアアアア!」


 超大型が天にむかって叫んだ。

 ビリビリとした振動が起きる。

 

 ぞくり、と怖気が走った。

 瞬間、オレはその場から大きく跳び退る。

 

 直後、地面から真っ黒な槍みたいなのが突きでてきた。

 

 おっと。

 オレを敵だと認識したのか。

 

 上等だよ。

 こっからが本番だ。

 

 ワイヤーフックを伸ばして、超大型の足に絡みつける。

 巻き取りを使って、一気に接近した。

 

 ミョルニルを使って、横殴りの一発。

 だけど、なんだってんだ。

 

 大きさが違いすぎる。

 ちょっと削ったけど、すぐにモコモコって内側から盛り上がって傷が塞がってしまった。

 

 やっぱり気持ち悪い。

 黒いビニールで圧迫されたみたいな魔物の体表。

 吸収した魔物の姿がボコって浮き上がって見えるんだもの。

 

「もう一発!」


「マスター!」


 スペルディアの声がした瞬間に下がる。

 目の前にべちょん、と黒い塊が落ちてきた。

 

 それは一瞬で小型サイズの魔物に変化する。

 見た目には超大型のミニチュアってところか。

 

 それが……べちょん、べちょんと雨のように降ってくる。

 

 そりゃそうか。

 あんだけデカい本体が相手するまでもないわな。

 物量でくるんなら、こっちも。

 

「マスター! ドローンの毒が効きません!」


「なぬう!」


 予定外だ。

 こっちはスペルディアのドローン攻撃頼みだってのに。

 

 そうこうしている間にもドンドン数が増えていく。

 ちぃ。

 

「スペルディア! 水蒸気爆発だっけ? いけるか?」


「無理です。先ほどの轟雷攻撃からまだ回復できていません。部分的な分子操作能力しか使えません」


 だよな。

 でも、んなこと言ってる場合じゃねんだわ。


「いいからやるぞ。多少の無茶は承知の上だ」


「……正直、おすすめしたくありません。私はマスターに生きてもらう必要がありますからね」


「わかってる! 生き残るために無茶するんだよ!」


「承知しました。戦闘脳のマスターは信頼できますからね!」


 ぐううううう。

 カリウムナトリウム合金の生成をした瞬間。

 頭が爆発しそうな痛みが走った。

 

 だけどな。

 痛いってことは生きてるってことだ。

 先に逝ったヤツらに日和ったところみせられるかよ。

 

「マスター。もう少しかかりますよ。恐らくは火力をあげないと、小型といえど通用しませんから」


 オレにむかって突進してくる小型の魔物。

 意外と速い。

 

「だらああああ!」


 ミョルニルで応戦する。

 どじゅっと熔解する魔物だ。

 それでも数が多い。

 

 こいつら意思がねえのかよ。

 仲間がやられてもおかまいなしだ。

 

 ばんばか突っこんできやがる。

 特殊な攻撃がなくてよかった。

 この数で遠距離から……うおおおおお。

 

 ワイヤーフックを使ってその場を一瞬で離れる。

 奇襲と陽動かよ。

 

 突っこんできたのはおよそ半分。

 残りの半分はオレを囲んで、あの肉片攻撃をしかけてきやがった。

 

 クソ。

 面倒くせえ。

 

「マスター。水を生成しますよ、衝撃に備えてください」


「わかっ……」


 カッ地面が光る。

 一瞬で大爆発が起こった。

 

 同時にオレの身体もなにかに弾かれた。

 巨大ななにか。

 

 一瞬だが、オレの脳裏によぎったのは巨大な鉄球だ。

 建築物を解体するときに使う、ばかでかい鉄球が恐ろしい速度でぶち当たってきたイメージ。

 

「油断しました。超大型の攻撃です! 多次元障壁を張っていなければ終わっていたかもしれませんね」


 巨木を何本かなぎ倒して、ようやく止まった。


 痛みはない。

 サイボーグだからな。

 

 だが――上手く立てない。

 ふらふらとしてしまう。

 

「マスター! 身体機能が四割ほど低下しています! これ以上は危険です。離脱しましょう」


 ハハッ……バカ言うなよ。

 逃げたところでどうなるってんだ。

 オレが……サイボーグのオレでこうだぞ。

 

 他の誰が止められるんだよ、コイツを。

 お袋様や親父殿でも無理だ。

 

 前回のままなら、まだワンチャンあったよ。

 でも、今は無理だ。

 

 こいつが辺境に、領地に行ったらどうなる?

 大虐殺どころじゃねえぞ。

 全滅だ。

 

「うらああああああああ!」


 声をあげる。

 こういうときはな。

 

 空元気だ。

 嘘でもいいから、奮い立たせる。

 

「スペルディア、忘れるんじゃねえ! オレたちの後ろには誰がいる! 家族が、領民がいるんだろうが! ここで退けるわけねえだろうが」


「まったく……理解したくありませんね。まぁシルヴェーヌ様も居ますからね、マスターの婚約者」


「うっせ、わざと言わなかったんだよ!」


 さて、これでちょっと元気でた。

 やるか。

 

 でも、なにをどうする……。


「マスター! アレを使うしかありません!」


「やっぱ、そうなるよなぁ」


 正直なところ、気が進まないんだわ。

 いや、もう手が残ってないからね。

 やるしかないと理解できる。

 

 めちゃくちゃ格好いいし、見る分には大好きだ。

 だけどなぁ……。

 

「今から封印を解きます! 指定ワードをお願いします!」


 くう。

 先生はオレの躊躇させたくないらしい。 

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