異世界で鋼の怪盗やってます~ダークファンタジーなのにオレだけジャンルちがうくね?~

鳶丸

第001話 アルセーヌ初回からクリフハンガー


 異世界ってのは思ってたよりも世知辛い。

 辺境貴族の令息に生まれたまではよかったんだけどな。

 チートもらって、チーレム作ってウハウハなんてのは幻想だったわ。


 まぁなんつっても厳しいの。

 生命が軽すぎる。

 朝に笑ってわかれた友だちが、夜には死体も残ってねえなんてザラだ。

 

 貴族の息子だって特別扱いはほとんどない。

 いや、あるにはあったか。

 

 戦闘訓練って名前の地獄だけどな。

 本気で死ぬと思った回数は数知れず、だ。

 特にこっちのお袋様のせいで。

 

 都会育ちの前世持ち舐めんなって話だわ。

 オレがこうして生きてるのも、ただただ運が良かっただけだ。

 

 四男坊だったオレが気がつきゃ、次男になってんだから。

 ただ、生きるってことが命がけだってこと。

 信じるも信じないもあなた次第です――なんつってな!


 それもこれもオレが生まれたのが辺境だってのが大きいと思う。

 要は場所が悪かったって話だ。

 しらんけど。

 

 おっと、辺境ってのは田舎って意味じゃねえぞ。

 国境を接する場所ってことだ。

 

 ちなみにうちらの敵は人間じゃなくて魔物なんだわ。

 要は天敵と生存競争をしてるってこった。

 ここが王国の最前線なりってヤツ。

 笑えるだろ。

 

 ちなみにどんな場所かって言うと、地図さえない場所なんだわ。

 オーマ大森林っていう場所が王国の南部にあって、その森の外縁部をストラテスラ家オレんちが担当してる。

 

 まぁ範囲が広すぎて、ストラテスラ家うちを含めて八家で分担してんだけどね。

 だもんでオレたちは“南部辺境団”なんてひとまとめにされることもある。

 

 他の王国貴族がどんなヤツらか興味ないけど、オレたちはしっかり連携を取っている。

 いやマジで。

 

 そうしないと国の危機だからね。

 オレたちで魔物を押さえこんでるってわけ。

 

「兄貴、そっちいったぞ!」


 樹齢何年だよってくらいの巨木が立ち並ぶ。

 色で言えば、緑と茶色だらけの風景だ。

 

 昼でも薄暗いけど、オレの目にはばっちり地を駆ける魔物たちが見えていた。

 六本脚で赤毛の熊みたいな魔物だ。

 

 そいつが五頭。

 Vの字になって兄貴たちに突っこんでいく。


 オレ的に言えば三ナンバーのバンくらいの大きさ。

 あの業務用車両だね。

 

 巨木の太い枝の上から魔法を放って突進を阻害する。

 オレのオリジナル魔法だ。

 

 色々と試してみた結果、最も魔物との戦いに適していると思う。

 

氷風加速貫通弾ピアシング・バレット!】


 魔法ってのは面白い。

 イメージと術式次第で色んな使い方ができる。

 

 ガチガチに固めた氷の弾丸を作って風の魔法で発射する。

 

 ポイントは発射して終わりではないことね。

 ロケットみたいに加速していくんだ。

 

 ふつうの魔法は初期の射出速度がすべて。

 ここ改造するのに、めちゃめちゃ苦労したんだわ。

 

 だけどなー。

 残念だけど、この魔法一発で魔物は倒れちゃくれねえんだ。

 だから面制圧に使う。

 

 精度はそこそこでいい。

 ばらまいて、魔物に傷を負わせるのと同時に速度を緩めさせるのが目的だ。

 

 辺境貴族ってのはどうにも脳筋でいけないね。

 だってさ最後に頼りになるのは己の身体っていうのが伝統だもの。

 

 身体強化を使って魔物と正面から戦うんだぜ。

 いやいやいやって話よ。

 

 オレみたいなのは、スマートに遠距離攻撃でキル数を稼ぐ。

 最初はめっちゃ怒られたけどね。

 

「おう! よくやった! あとはまかせとけ!」


 森の中だ。

 足場も悪いのに、兄貴とうちの部隊が魔物に突っこんだ。

 

 出足を遅らせたとはいえ、業務用の車両と真正面で戦うんだぜ。

 正気の沙汰じゃないわな。

 

 うわお。

 兄貴が熊をぶったたいて、吹き飛ばした。

 部隊の連中も似たり寄ったりだ。

 

 まったく嫌になるね。

 スマートにいこうぜ、スマートに。

 

 ただまぁ今日のは素直な魔獣タイプでよかった。

 この森の中じゃあんまり強くない部類だからな。

 

 森の外縁部なんていってもそこは人の手が入っていない領域だ。

 なんというか空気が違う。

 

 濃い。

 いや密度が高いのか。

 

 そんな場所でもしっかりと魔物を倒してくれるうちのお兄ちゃん。

 

 元は三男坊だけど、現在は長男。

 順当にいけば、このまま兄貴が跡を継ぐ。

 

 兄貴はずっと勉強して、努力してきたんだ。

 長兄と次兄がいても安穏としてなかった。

 

 オレ?

 オレは四男なんだから。

 そこはもうお察しですよ、ええ。

 

 兄貴はね、オレとはちがう。

 跡取りにふさわしい器量を持っていると思うんだ。

 だから最大限、お兄ちゃんを応援することにしている。

 

 なんてことを考えているうちに、兄貴と直属の部隊が魔物を仕留めた。

 うん、相変わらず鮮やか。

 

 怪我ひとつしちゃいない。

 だけど兄貴は怪訝そうな表情になっている。

 

「アルセーヌ! お前の探知に魔物は引っかかってないか?」


 どこの大泥棒だよっていうのがオレの名前。

 なんでも何代か前にいたうちのご当主様の名前らしい。

 めちゃくちゃ強かったって話だ。

 

 それは誇らしいんだけど、前世の記憶があるオレは正直なところ、今でもちょっと恥ずかしかったりする。

 

「今んとこ異常な……し?」


「どうした?」


「兄貴、マズい! 大型がいやがる。反応からして、たぶん混成タイプ」


 混成タイプってのは強い魔物なんだよ。

 しかも大型。

 こりゃもうほぼ決まりなんだけど……。


「ちぃ!」


 兄貴が舌打ちをする。


「おかしいと思ったんだよ! こいつら中層付近の魔物だっ!」 


 そういやそうだ。

 さすが兄貴、しっかり勉強している。

 ってそんな場合じゃねえ!


 ちょっとだけ集中して魔力を広げる。

 大雑把になるけど、遠くまで状況が確認できるのよ。

 

 で、結果は予想しうる中でも最悪中の最悪。


大侵攻スタンピードだっ!」


 大侵攻スタンピード

 いわゆる魔物が大氾濫を起こす現象だ。

 

 原因は中層よりもさらに奥、深淵部からくる魔物にある。

 強いんだ、こいつら。

 要は強い魔物が外縁部にむかってくるから、弱い魔物が逃げてくるってことだ。

 

 オレたち南部辺境団が日夜魔物を狩るのは、大侵攻スタンピードが起きたとしても、魔物の数を減らしておけば被害が軽減できるって経験則からな。


 ん? いや、ちょっと待て。

 早くない?

 前回の大侵攻スタンピードで兄貴二人が死んだ。

 

 それって二年くらい前の話だぜ。

 大侵攻スタンピードはだいたい七年から八年に一回程度ってのが相場なんだけど。


 あークソっ。

 探知に次々と引っかかる魔物の群れ。

 

 このままだとウチの領地にきちまう。

 なんとかして侵攻方向を変えないと……。

 

 仕方ねえ。

 オレの灰色の頭脳じゃ、この答えが精一杯さ。

 

 巨木の枝から兄貴の近くに降り立つ。

 

「兄貴! 部隊の奴らつれて逃げろ。まずは親爺殿に報告を。その後で他家に援軍を頼んでくれ」


「はあ? なに言ってんだよ!」


 なに言ってんだ、はこっちの台詞だ。

 バカ兄貴。


 誰かがやんなくちゃいけないんだよ。

 それが大侵攻スタンピードってもんだ。

 

 兄貴二人が死んだだろうが。

 領民の、ひいては王国のためってな。

 

 ちっ。

 当時は長兄も次兄もバカだなんだと思ったけどさ。

 やっぱりオレも見捨てられねえんだわ。

 

 ろくでもない地獄だったけどな。

 それでも嫌なことばっかりじゃなかった。

 

 だから――命張ったらぁ。


「いいから、早く行けって手遅れになっちまう!」


「お前、ハーレム作るんだろうが!」


 兄貴の言葉にちょっとだけ揺れる。

 そうだ、長兄と次兄が死んだ夜に馬鹿話をしたんだっけ。

 

 将来はどうしたいって聞かれて。

 

 キスしてみたかった。

 前世越しの童貞捨てたかった。

 パフパフとかいんぐりもんぐりとかしたかった。

 ハーレムでウハウハしたかった。

 

 でも、そんなものよりも大事なもんがあるって話だ。


「うっせえええ! 決意鈍らすようなこと言うんじゃねええ! このバカ兄貴!」


 あーくそ。

 声が震えちまったよ。

 ところどころで裏返っちまったじゃねえか。


 ぜんぶバカ兄貴のせいだ。

 

 膝がガクガクと震える。

 真っ直ぐ立ってるのもしんどい。


 だけどよ、退くに退けねえんだわ。

 魔物の暴走をとめなきゃ全滅だ。

 親爺殿やお袋様はいるけど、ここでやらなきゃ被害が拡大しちまう。

 

 そればっかりはダメだ。

 ジャンヌちゃんの顔がうかぶ。

 

 そばかすのある赤毛の女の子。

 愛嬌があって、笑顔がいいんだ。

 

 オレの前世仕込みの冗談にもケラケラ笑ってくれる。

 一緒にいると、癒やされるんだよね。

 

 その上に背が低めで、おっぱいがでかいんだぜ。

 完璧じゃないか。

 

 だから――ひと房だけでももんでみたかった。

 ちがう!

 

 オレが彼女の笑顔を守るんだ。


「兄貴! ここはオレが残る。それで決まりだ!」


 やせ我慢が男の証ってな。

 ちくしょう。

 オレの二回目の人生ってなんだったんだよ。

 

 でもまぁ……悪くはなかった。

 そう思えるのも、親爺殿とお袋様のお陰だ。

 

 まぁ色々と心配ごとはあるけど、兄貴ならなんとかやっていけるだろ。

 

 なんたってお名前がハンニバル。

 オレでも知ってる前世の名将と同じ名前なんだぜ。

 

 大侵攻スタンピードの魔物相手に包囲殲滅陣しないかだけが心配だけどな。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る