第030話 ラウール魔人のアジトを突きとめる
王都の夜空が赤く染まっている。
乾いているからか、よく燃えておるわ。
オレは大公家の外壁に腰かけている。
ここからだと見物人の顔がよく見えるんだよね。
まぁスペルディアのドローンがあるから、オレが目を光らせておく必要はないんだけど。
「おい! 水魔法でも消えない火があるぞ!」
え? そうなの?
そんな火があるのかよ!
さすが異世界!
『バカなことを言わないでください。ナトリウムカリウム合金を使いましたからね。注水による消火は不可能です』
『よくわからん』
『そうですね。まぁ燃え尽きるまで待つのが得策ってことです』
『……ほおん』
見物している群衆に目をやる。
大公家に面する大通りには、恐らくは庶民も駆けつけているんだろうな。
なんせ貴族街の端っこの方にあったから。
門のところで衛士が、もっと下がれと声を荒げている。
お勤めご苦労様だ。
野次馬は全体に見ると男の方が多い。
ただ子どもや女性の姿もちらほら。
娯楽みたいなもんなのかな。
そう言えば、だ。
オレ、こっちで遊んだことがほとんどない。
なにせ訓練、訓練、また訓練。
そんな日常だったからな。
まぁうちの領兵たちが賭けをしているのは見た。
そういうのは日常茶飯事だったけど。
娯楽か。
うん。
異世界物の定番だな。
リバーシとか。
ああ言うので、大もうけルートもいいかもしれない。
『マスター。王都ではそれなりに娯楽がありますよ』
スペルディアの一言に、ちょっとビックリだ。
『え? マジで?』
『貴族向けとしては演奏会や演劇会が定期的に開かれていますね。他にも庶民向けの娯楽もいくつかありますけど』
まぁ! なんてハイソなお遊びなんざましょう!
アテクシ、そんな場にお呼ばれしたことがありませんわ!
『ぐぬぬ……知的レベルの差を見せつけられた気がするぜ』
『まぁ仕方ないと言えば仕方ないです。マスターのご実家はそもそも遊興に耽っているような時間もありませんしね』
『……いつか見返してやる。辺境発の面白グッズでな!』
『変なところで負けず嫌いなんですから。』
おっと。
バカな会話をしている場合じゃねえな。
あいつ、魔人だ。
いかにも反社会的勢力ですってヤツ。
なんかゴリラっぽいかな。
その隣にいる女もそうだ。
パッと見たところ妖艶な雰囲気はある。
あるんだけど、ケバケバしいんだよ。
場末のキャバ嬢的な安っぽさがある。
こいつは……サソリか?
うん。
毒針つきの尻尾があるから、そうだろう。
『見つけたぞ』
『こちらでも確認しました。既にドローンの監視対象にしていますから、いつでも追跡可能です』
いいね。
仕事が早い。
『マスター、シルヴェーヌ様からお話があるようなのですがよろしいですか?』
『ん? いいけど、そんなこともできんの?』
『我がウル=ディクレシア連邦の技術力に不可能はありません。まぁただの電話みたいなものです。ただし、一方通行だとシルヴェーヌ様には報告してありますから』
『ん。了解』
『もう話してもいいのですか? 承知しました。ラウール、聞こえていますかって返事はこないのでしたね。聞こえているものとして話します』
うんうん。
なんの話かな。
『さて、ひとまずはお疲れさまでしたと言っておきましょう。状況は把握していますので、こちらからおばあさまとお父様には伝えておきます。くれぐれも無茶はしないように』
なるほど。
それは助かる。
おっちゃんにも迷惑かけちまってるな、これ。
『……とのことです。まぁ大公家炎上させちゃいましたけどね』
『細けえこたぁ気にすんな! なんとかならぁ』
『ですね。私とマスターでなんとかするんです!』
ふんす、ふんすと鼻息を荒くしているのが聞こえてくるようだ。
まったくいい相棒だよ、お前は。
『ふふん、当たり前です』
『……皮肉だったんだけどな』
『お、動きがあるようですよ』
ゴリラ男とサソリ女が離れていく。
こうやって見てると、人の流れに逆らって歩いていると目立つな。
あいつらは目立ってない風を装ってるけど。
丸わかりだ。
『どうしますか?』
『とりあえずドローンで追跡。たぶん次のアジトにむかってるんだろうから、そこを突きとめたら奇襲をかける』
『承知しました。では追跡を開始します』
鷹揚に頷いておく。
先生に任せておけば安心だ。
それにしても……魔人か。
いったいどういうことなんだろうか。
魔物の特徴を引き継いでいる?
バッタの人みたいなもんなんだろうか。
ってことは秘密結社とかあったりするのか?
「よくわからん」
『まぁこちらで解析を進めていますから。あの蜘蛛みたいな男の魔人を捕獲できたのは僥倖でした』
『それってまた捕まえろってことでいいの?』
『もちろんです。先ほどの三体も惜しいことをしました。マスターがバカみたいな量の生成をしなければよかったのですが。まぁ過去のことを言っても仕方ありません。前向きにいきましょう!』
ガラガラと大きな音を立てて、大公家の一部が崩れ落ちる。
「退避いいい、退避いいいい!」
衛兵さんたちも大変だ。
幸いにしてというか、今日は風がない。
さらに大公家は庭もでかいから、隣家に延焼するという可能性は低いだろう。
『マスター、上空になにかいます』
『……ほおん。魔人かな?』
『そうですね。こちらがドローンからの映像です』
王都の暗闇に溶け込むような黒の魔人だ。
その背中には羽が生えている。
鳥をモチーフにした感じだ。
なんだろう。
ちょっと格好良くないか、そのフォルムは。
『なぁスペルディア、攻撃するのはマズいかな』
ちょっとした思いつきを聞いてみる。
『そうですね……指弾による攻撃をしても王都の町中に落ちるだけでしょうから。いたずらに混乱が増すだけになります』
『いや、指弾じゃなくて、
偶には使っておかないとな。
遠距離攻撃用の
『はぁ……マスター。
なんかため息をつかれてしまった。
まぁ確かにそうだな。
残念だけど却下といこう。
しばらく雑談をして時間を潰す。
こういうときに相棒がいるってのはいいな。
今回のお題は先ほどに続いて一儲けするなら、だ。
スペルディアとしては、やはり魔法薬はダメなのようである。
それもそうか、と思う。
今になっちゃ、オレもすっかり受けいれていた。
だけど言われてみれば、そうなのだ。
例えばの話。
オレが前世で怪我をしたときには消毒薬やらのお世話になったわけだ。
傷口からばい菌が入らないようにするのも、医学的な根拠があっての話になる。
だが、オレが旅行先で怪我をしたならどうだろう。
怪しげな呪術医のところに連れていかれて、にゃむにゃむとおまじないをされる。
その上で、灰色に濁った液体を飲めと言われてしまう。
それで治るからと言われても、素直には頷けない。
共通した文化というか、信仰的な土台があって初めて効果があるものじゃないかと思うからだ。
スペルディアにとって、魔法薬とは正に後者なのである。
そうした思いがひしひしと伝わってきた。
なので儲けるのなら別の方法で、とのことだった。
『さて、マスター。魔人どもが邸の中に入っていきました』
いつの間にか、それなりの時間が経っていたみたいだ。
『空き家……なのか?』
『いいえ、きちんとした貴族の屋敷ですね。少しお待ちください。シルヴェーヌ様に確認をとりますので……』
おうおう。
人がいるってか。
でも、まぁあれだ。
うちにケンカを売ってきたんだ。
どのみち報復の対象でしかない。
うちのお袋様にも言われてるんだもんに!
舐められるなって!
『マスター、確認がとれました。恐らく中央貴族の屋敷だそうです』
……ええと。
利権を押さえてて、古い貴族と対立してるところだな。
『そのとおり。今回、魔人が出入りしたのはエレアキニキ子爵家と推測されます。事前に仕入れていた情報に検索をかけましたが、商国との取引をメインとする家ですね』
『ん! 本命ってやつだな!』
『まぁ本命というには薄いかもしれませんね。ですが、ここよりは情報を集められるでしょう』
『よし、じゃあ潰すか!』
『ただし……マスター。その前にやることがあります』
なんだってんだ。
小首を傾げてみる。
『上空の魔人がこちらに気づいたようです』
『……やれ!』
『承知しました!』
同時にオレも動く。
スペルディアのナビに従って、大きな建物の屋根へとワイヤーフックで移動した。
完全に魔人の顔がオレの動きにあわせっている。
だが、それが陽動だとは気づいていないみたいだ。
背後に忍び寄った攻撃用ドローンから麻酔薬が放たれる。
バスバス命中して、頭から落ちてくる魔人だ。
ワイヤーフックを伸ばして、魔人を回収、転送する。
よしよし、流れるような作業だったな。
さすがオレ!
『マスター、そのまま右斜め前の建物に跳んでください』
スペルディアの指示に従って跳ぶ。
なんちゅうかアレだ。
でっかい鐘がある建物だった。
鐘楼って言うんだっけか?
こういうのを見たら――やるしかねえだろ
オレは肘を使ってでっかい鐘を押す。
『その報われぬ愛に……って、うっるっせえええ』
ごいーんごいーんと王都の空に鐘の音が響く。
『当たり前ですよ! このバカ!』
おいおい、今、はっきりとバカって言ったな!
『まったく! 移動しますよ!』
はいはい。
いいじゃねえか。
鐘を見たら、鳴らしてみたくなるってもんなんだよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます