第036話 ラウール実家に戻る


 さて、行くか。

 シルヴィーも落ちついたことだし。

 とりあえず大侵攻スタンピードをなんとかしないと。

 

 領地とは山をひとつ挟んだ場所にいる。

 今のオレなら数十分で現場に到着するはずだ。

 

 その前にやっておくことがある。

 

「シルヴィー」


 ぷんすかしている御令嬢に声をかける。

 

「今からシルヴィーに専用の武器を渡す。くれぐれも取り扱いには注意してほしい」


「……武器? わたくし、武術の心得がありますけども」


「うん。それは最後の最後までとっておいて。本当に最後の手段だから。辺境にいる魔物は半端じゃないんだ」


 言いながら、転送装置を使ってスペルディア謹製の短機関銃をだす。

 あれ? なんかオレの知ってるのとちがう。

 

 え? なにこのSFチックなデザイン。

 あれだ。

 宇宙戦争の悪役モブが持ってる感じじゃん。

 

 ちょっと格好良いんだけど!

 

 先生! 先生! どういうことだってばよ!

 

『マスターの記憶にある短機関銃は銃弾を発射するタイプですよね?』


『そうだけど』


『ウル=ディクレシア連邦では数世紀前に途絶えてしまった古い技術なのです、それは。我々が扱う短機関銃は戦術高エネルギーレーザーを個人が携帯できるように小型化したものになります』


 ……また難しい言葉を。

 さっぱりわからんって。

 

 ギャルで説明して。

 ギャルで。

 

『なんかあ、めっちゃ強いレーザーがでる銃ってことお』


『できるんかい!』


 めちゃくちゃわかりやすかったけども。

 

『マスター秘蔵の記憶を解析しましたからね。それはもうできますよ』


 クッ……しょうがないだろ。

 男の子なんだから。

 

 そういうのだって見るさ。

 ……ええ。

 大好きでした! オタクに優しいギャルってやつが!

 

『そんなのいませんけどね!』


『夢を壊すなあああああ!』


 まったく。

 こいつは鬼畜生の類いか。

 

「で、その武器がどうしましたの?」


 シルヴィーがナイスなタイミングで声をかけてきた。

 

「スペルディア、説明を頼む」


 狙いをつけて引き金を引く。

 まぁこういう初歩からシルヴィーに説明する先生だ。

 さすがに先生も生徒も優秀だと、すぐに覚えてしまった。

 

「……なるほど。引き金を引く時間で、そのレーザー? でしたかを発射する時間が調整できるのですね。理解しました」


「それは重畳。これから領地に向かう途中で魔物を見つけたら練習しておきましょう」

 

「そうですわね。さすがにぶっつけ本番は厳しいですわ」


 ここで区切りがついた。

 その隙を見計らって割りこむ。

 

「シルヴィー、先に言っておくけどさ」


「なんでしょうか」


 オレの目を真っ直ぐに見てくる美少女。

 かわいい、なんて思ってる場合じゃねえんだけど。

 かわいいは正義なんだよな。

 

 でも――ちゃんと言っておかないと。


「シルヴィーは戦場に出なくていい。その代わりにやって欲しいことがあるんだよ」


「戦場にでない? やって欲しいことですか?」


「そう。ストラテスラ家って基本的に戦うことに特化してるからさ、神聖魔法が使える人間が少ないわけ」


 要するに回復役が少ないってことだ。

 結界張ったりするのもギリギリの人数しかいない。

 もともと神聖魔法に適性がある人間が少ないってのも大きな理由だけどね。

 

「なるほど、理解しました。わたくしに怪我人の治療や住民のための結界を張ってほしいのですね?」


 理解が早くて助かる。

 コクンと大げさに頷いてみせた。

 

「頼む。そっちはそっちでかなりキツいと思う。かなり状態の酷い怪我人もいるから、最初は心に負担がかかっちまうと考えていい。でも、大切なことだから頼んでいいか?」


「……承知しました。わたくしとて何の覚悟もなく、大侵攻スタンピードをなんとかすると言ったわけではありません。そこがわたくしの戦場であるのなら、できる限りのことはします」


 シルヴィーにむかって拳を突きだす。

 

「なんですの? それは?」


「シルヴィーも拳をだして」


 素直に拳をだしてくるシルヴィーだ。

 コツンと合わせる。

 

「じゃあ、行くか。ここからは抱えていくからな」


 シルヴィーの細い腰に腕を回す。

 ぎゅっと身体を密着させて、ワイヤーフックを飛ばした。

 

「スペルディア、ドローンの索敵を頼む!」


「もちろんです」


 指示を飛ばしながら、最速でうちの領地へ。

 途中でやっぱり気絶するシルヴィー。

 まぁこれは仕方ないだろう。

 

「マスター! ちょうどいい魔物が二時の方向にいます。シルヴェーヌ様の慣熟訓練をしておきましょう」


「了解」


 オレは魔物の近くの巨木の枝で足をとめる。

 ついでにシルヴィーの肩を揺すって、目を覚まさせた。

 

「ん? うう……ラウール! あな……フガフガ」


 叫ぶシルヴィーの口を手で塞ぐ。


「悪い。文句はあとで聞く。先にやることやらないと。見えるか?」


 オレたちのいる場所から少し離れた場所に一体の魔物がいた。

 大きなトカゲに似たやつだ。

 

 野生動物を仕留めたのだろう。

 今はお食事に夢中ってところか。

 

 コクリと頷くシルヴィー。

 口から手を離す。

 

「わかりました」


 狙いをつけると、トカゲの魔物の頭に赤いポチがつく。

 実にわかりやすい。


 シルヴィーが引き金を引く。

 ビヤッとレーザーが発射された。

 

 おおう! いきなりのヘッドショット!

 いともたやすく魔物の命を奪う。

 

 自分の掌を見つめているシルヴィー。

 彼女自身も驚いているみたいだ。

  

 ってか、シルヴィーは才能があるのか。

 すげーな。

 

『確かにシルヴェーヌ様には才能がありますが、我が連邦の誇る手ぶれ補正機能と、レーザーサイトの影響もあるでしょうね』


『なぁひょっとしてレールガンとか実装できる?』


 ロマンだ。

 レールガンってのは。

 

『できますが……使いどころが限定されてしまいますね』


 そんなことは関係ない。

 だってロマンなんだから。


『欲しい! レールガン、欲しい!』


『承知しました。作成しておきますので、少しお時間をいただきます』


 スペルディアとの秘匿回線を切る。

 ふふ……憧れのレールガンが手に入るのか。

 なんか感慨深いものがあるな。


「やりました! 見てましたか! ラウール!」


 花が綻ぶような笑みを見せるシルヴィーだ。

 マジでかわいい。

 

「やったな!」


 シルヴィーにむかって親指を立てる。

 その後にハイタッチをしようとして、手をだす。

 

 ん? と一瞬だがとまどうシルヴィー。

 だがオレの意図を察したようだ。

 

 いえーいとハイタッチをする。


「シルヴェーヌ様、今のが単発発射です。次に連続発射を試しておきましょう」


「連続発射……こちらの出っ張りを押しこんでから右に動かすのでしたね」


 かちゃと音がして発射のタイプが切り替わった。


「ですです。マスター、次の魔物は既に見つけています。移動しましょう」


「……おう!」


 いちおう倒した魔物は回収しておく。

 トカゲ型か。

 

 シルヴィーの初討伐の記念になるものでも作ってやるか。

 などと思いつつ、さっさと移動する。

 

 さすがにこの移動にもシルヴィーは慣れてきたようだ。

 気絶することはなかった。

 

 次の獲物もあっさりと倒してしまう。

 なかなか便利な銃だな。

 

『ただ近距離での戦闘が中心ですけどね。まぁ大侵攻スタンピードの魔物くらいなら、なんとか対抗できるでしょう』


 あんまり遠い距離だと使えないのか。

 

『使えないことはないんですけどね。そのためにはミラー型のドローンを使って、再集束させる必要がでてきます』


 ギャルで言ってってばよ!

 

『虫眼鏡でえ、太陽の光を集めるのとぉ、一緒かなあって』


 よくわからんけど、わかったような気がする。

 

「マスター、そろそろですよ!」


 陽が昇りかけている。

 もう空はすっかり青くなっていた。

 

 慌ただしく動く領民たち。

 それを護衛するうちの私兵たちの姿も見える。

 

「うちの実家が拠点でいいのか!」


「はい! そのとおりです!」


 うし、じゃあ行くか。

 ワイヤーフックを巧みに操りながら民家の屋根を走る。

 

 一際デカい邸の屋根に到着っと。

 すっかりお馴染みになった分子操作能力で穴を開けて侵入する。

 

 ちゃんと天井を元に戻して、と。

 

『それを気にするなら玄関から入りましょうよ』


『いいの! 様式美ってやつ!』


 って、シルヴィーがキョロキョロとしている。

 ここは……備品室かな。

 

 シルヴィーを連れて、ドアを開けた。

 そのまま階下へ。

 

「ちょ! ラウール!」


「どしたの?」


「ちょっと! 待ちなさい!」


 シルヴィーが立ち止まった。

 そして、大きく深呼吸を繰りかえしている。

 緊張しているのか?

 

「……心の準備ができましたわ。いきましょう!」


 サロンのドアを開ける。

 中に居た人間の目が一斉にこっちをむいた。

 

 ん? んん?

 

 親父殿とお袋様がいない。

 兄鬼とジャンヌちゃんもだ。

 

 居たのはお腹を大きくしたマルギッテ姉さんと、その子どもたち。

 あとは肩がコリーヌちゃんも。

 

「アルセーヌ? あんたなんでここに?」


 マルギッテ姉さんとは、王都に行く前に挨拶をしている。

 あと、甥っ子に姪っ子たちも。

 

 ただ、オレの隣にいる美人さんが気になるのだろう。

 じっとこちらを見ている。


「マルギッテ姉さん。大侵攻スタンピードが起こったって聞いてね、大急ぎで帰ってきたんだ。悪いんだけど、時間がない。親父殿とお袋様、あと兄鬼たちは?」


 コクン、と頷くマルギッテ姉さんだ。

 ちゃんと意図を理解してくれたんだろう。

 

「ご当主様夫妻は大型を仕留めにでたわ! ハンニバルとジャンヌの二人は隣領の応援に行ってるの」


「ってことは大侵攻スタンピードの進行方向は隣領ってことね。こっちの被害はどのくらい?」


「……なんとか持ちこたえてるってとこね」


「わかった。ありがとう。あ、オレの隣にいるのはシルヴィー。神聖魔法が得意な聖女様だ。応援にきてくれた」


 ペコリと頭を下げるシルヴィーだ。

 

「本当かい! 助かった! 負傷者が多くて困ってたんだ!」


 一階が避難所になっているらしい。

 

「わたくしができる限りのことはお手伝いします!」


「ありがとう! 本当に助かるよ!」


 マルギッテ姉さんとシルヴィーが握手をしている。

 そんな姿を見ているオレの袖を引くコリーヌちゃんだ。

 

「ねぇねぇ……お土産買ってきてくれた?」


 暢気な姪っ子である。

 この子は大物になるかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る