第038話 ラウールは大型の魔物との戦闘に入る
大型の魔物といっても、まぁ色々だ。
オレが今まで見た中だと、いちばんデカいのは前回の
めちゃくちゃに怖かった。
絶対に殺されると思ったのは、初めてのことだ。
アイツに比べれば、だ。
今、オレの目の前にいるヤツはかわいいと言えるだろう。
こいつはただの魔獣タイプだ。
ベースになっているのは、よくわからん動物だと思う。
見た目でいちばん近いのは象だろうか。
大きさ的にはマンモスといった方がいいかもしれない。
「もっと大きいです。マスターの記憶によれば、平均的に体高が約三メートル五十センチとあります」
「え? オレ、そんなこと覚えてないんだけど」
「マスターが忘れているだけです」
ほへえとなる。
「そこにいる大型の魔物ですが、体高がおよそ十メートルもありますから、およそ三倍程度は大きいかと。さらにあの外皮ですね。長い毛に覆われているので、ドローンの針では攻撃が通りませんよ」
なるほど。
それが伝えたかったのか。
いかに高振動をする針だとしても、貫けないものだってある。
あのなんちゃら子爵の家にいた、サソリ女がいい例だ。
「高濃度の睡眠ガスを撒きますから、問題ありません。いきますよ、マスター。相手の出足が鈍ったら吶喊です」
「おうよ!」
スペルディアの指示どおりに睡眠ガスが散布される。
その瞬間に大型の魔物が雄叫びをあげた。
何かしらの異変を感じたのだろう。
だけど、もう襲いんだってば。
ワイヤーフックを飛ばして、右側の前足と後ろ足を縛る。
ギリギリとワイヤーが音を立てて軋む。
「マスター! 左の前足と後ろ足です。あるいは、マスターから見てとつけるのが正解です!」
「今はそんなこと言ってる場合じゃねえんだよ!」
ワイヤーの巻き取りをしてみるが、モーターが甲高い音を立てるだけ。
これだと意味がない。
が、そのままにしてオレは吶喊する。
「おうらああああ!」
魔剣ティルフィング。
触れれば斬る。
が、大型の魔物はさすがだ。
「ふん……ぬうううう」
被毛の密度と堅さ。
それに加えて、外皮そのものが堅い。
「マスター!」
わかってる。
ティルフィングを放して、その場にしゃがみこむ。
間一髪のタイミングで、オレの頭の上を巨大な鼻が通り過ぎた。
もう鼻っていうか、でっかい配管みたいなもんだ。
ごわぁと空気を切る音が聞こえた。
ちぃ。
オレが躱したしたことでワイヤーが緩む。
大型の魔物が力任せに突進した。
「どわあああああ」
ワイヤーに引っぱられて、オレの身体も引きずられていく。
クソ。
でかいってだけで厄介だ。
ワイヤーを切り離して、いったん仕切り直す。
「スペルディア!」
「承知! 転送します!」
オレの手に巨大な戦槌が出現した。
さっきヘッケラーを助けるのに使ったのよりも大きい。
だいたい五割増しってところだ。
「マスター。戦況分析の予測では、あと三十秒で睡眠ガスの効果がでます!」
「三十秒? そんなに時間はかからねえよ!」
オレは本気で大型の魔物にむかって突進する。
急激な加速と急激な停止。
人間の身体じゃ絶対に無理な挙動だ。
「それでこそ脳筋狂戦士です!」
「宇宙の果てまでぶっとべ!」
慣性の法則で生じるエネルギーを腰から回転させる。
野球のバットを振る要領だ。
巨大な戦槌の遠心力を加えて、大型の魔物の足をぶっ叩いた。
ばぎゃん、と派手な音を立てて足が爆砕する。
「ぐおおおおおおお!」
吼えた。
大型の魔物が吼えた。
四つ足の魔物だ。
一本の足をなくしたことでバランスを崩した。
「ハッハー。隙をみせやがっ……がふ」
嘘だろ。
この魔物、舌が伸びるのかよ!
まったくの想定外。
赤い壁が迫ってくるみたいだ。
ドン、と全身に衝撃が走る。
その衝撃を逃がすように、後ろに跳ぶ。
どんだけ飛ばされるんだってくらいだ。
背中に巨木の幹があたってとまった。
正確にはめりこんで、だけど。
「マスター!」
「問題ねえ!」
これが人間の身体だったら致命傷だ。
ちくしょう。
油断した。
ザマねえ。
ちょっと最近は雑魚とばっかりやりすぎたな。
やっぱこうヒリヒリするような戦闘してないと勘が鈍る。
「スペルディア、分子操作能力を解禁だ! サポート頼む!」
「任されました」
もう一度。
大型の魔物から舌が伸びてくる。
とんでもない速さだ。
だが、今のオレなら見切れる。
ワイヤーフックを上に。
枝に引っかけて、舌を回避。
続けざまに狙ってくる舌を立体機動を使って躱す。
さらにワイヤーフックを飛ばして、魔物のでっかい牙にひっかけて飛ぶ。
無事に魔物の頭に着地した。
瞬間、足の裏から分子操作能力を発動させる。
厄介な被毛は全解除だ、バカヤロウ。
ついでに外皮も柔らかくしてしまう。
「こいよ! ゲイ・ボルグ!」
オレの手に槍が転送されてくる。
三つ叉の先端を持った槍だ。
それを力任せに大型の魔物の頭に突き立てた。
豆腐レベルで脆くなった脳天から、どすんと貫く。
持ち手のところまで一気にやった。
声もださずに魔物が横倒れになる。
「よっしゃっラアああああい! 勝ったどおおおお! うおおお!」
勝ちどきをあげる。
興奮だ。
血が沸騰しているみたいに身体が熱いって感じる。
まぁサイボーグだからそんなことはないんだけどね。
それでも、だ。
大型の魔物をぶっ倒したことへの喜びがある。
「いよっ! さすがマスター! と言いたいところですけどね」
不穏なことを言いだすスペルディアだ。
「どした?」
「良い報せと悪い報せがあります。では良い報せから」
「ちょっと待てえええい! そこはどっちから聞きたいってオレに選ばせるパターンだろ!」
まったく。
様式美ってのは大切なんだぞ。
「ち。うっせーな、反省してまーす!」
「してねえよな! 絶対にしてねえよな!」
まったく。
この使い魔はどこでそんなネタを覚えてきやがった。
まぁオレの記憶からなんだろうけど。
「さて、時間がありません。良い報せはマスターのご両親の居場所が特定できました」
「なにぃ! ってことは今回の
「ええ、そのとおりです。そこで悪い報せです。今回の
「……マジかよ」
絶句するしかなかった。
三体だと。
しかも、一体は前回取り逃がしたアイツ。
あの訳のわからん混合型の魔物。
いや、魔物を取りこむ性質を持っているアイツが超大型って可能性もあるのか。
「ご明察ですね。そのとおりです」
盛大に舌打ちをした。
まったく、なんてこったよ。
さすがに親父殿とお袋様でも無理だろう。
ぶるり、と身体が震えた気がした。
もちろんそんなことはない。
サイボーグになったんだからな。
でも、これがトラウマってやつだろう。
心底に恐怖を刻まれている。
ハんッ!
バカヤロウ。
ビビってんじゃねえ。
ここでビビって退いたら、どうなる。
さっき転送した顔なじみたちを思う。
――本物の英雄たちに顔向けなんてできねえよな!
だから――行く。
絶対に退かない。
どんな魔物が相手だろうとな。
「だらあああああ!」
大声をだす。
腹の底から声を振り絞って。
ビリビリと巨木の幹が揺れてる。
「行くぞ! ここで退けるか!」
「退いても誰も怒りませんよ?」
試すなよ。
そんな言葉くらいじゃとまらねえよ。
「うるせえ! オレが狂戦士だって言ったのはお前だろうが!」
「ですね! 仕方在りませんね、私もお付き合いしましょう」
「一円タッグショーってやつだな!」
「それを言うなら、一蓮托生ですよ! どんだけ安いプロレスする気なんですかね!」
ハハハ。
そうだ。
いつもどおり、行こうじゃないか。
なぁ相棒。
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