第028話 ラウールは怪盗たり得るのか


 公爵家邸を出て、十分かそこら。

 オレの移動速度からしたら、けっこうな距離を駆けたと思う。

 

 公爵家邸が王城にも近い王都の中心地付近。

 そこから王城を挟んで、貴族街の反対側の端っこ。

 旧オデン大公家邸だっけか。

 

『オンデーヌ大公家です。蜘蛛の魔人や中央貴族派の監視員から抜き取った情報を整理すると、十二年ほど前に王都で反乱を起こそうとした家ですね。ちなみに大公家は公爵家より上だと考えてください』


『ってことは、ほぼ王様?』


『まぁ似たようなものですね。遡れば、三代目の王のときに作られた家です。当時の王の実弟が臣籍降下をして、大公家として王家を補佐したと監視員の記憶データにありました』


『へ、へえ……そうなんだ』


 やばい。

 スペルディアがドンドン賢くなる。

 オレ、いちおうこの国の下っ端貴族だけど。

 まったく知らない情報だ。

 

『まったくピンときてないようですけどね。マスター、十二年ほど前と聞いてなにか思い当たる節はありませんか?』


『十二年前……は! オレとジャンヌちゃんが結婚の約束を』


『してません! いつから歴史をねつ造するようになったのですか。嘆かわしい』


『ちょっとしたお茶目だよ。ちゃあんとわかってる。オレとジャンヌちゃんがはじめてのちゅうを』


『してねえだろうが! このクソ童貞がよ!』


 おっと。

 さすがにからかいすぎたようだ。

 スペルディアが怒ってる。

 

『まったく! マスターはすぐにヘラヘラと! さっきの怒りはどこにいったのです!』


 ううん。

 人間臭くはあるけど、まだまだだな。

 よかろう。

 教えてしんぜよう

 

『キレてるからだよ。キレてるからふざけてるんだ。そうでもしてないと、マジで抑えがきかねえの!』


『なら理解しているんですね?』


『もちろんだ! あれは蒸し暑い夜だった。汗ばむわぁとジャンヌちゃんが……』


『…………』


 ツッコめよ。

 さすがにふざけすぎたみたいだな。

 マジメにやるか。

 

『要するにあれだろ。辺境で大侵攻スタンピードを起こし、王都では大公? かなんかしらんけど、そそのかして反乱を起こさせた。つまり……はさみ打ちってやつだな!』


『そこまで理解しているのなら十分です。先ほど公爵が言っていたセレヒフゴーズ商国については?』


『知らん!』


『私もです!』


『お前も知らんのかーい!』


 ヘラヘラと笑う。

 よし、肩の力が良い感じで抜けた。

 

 改めて見ると、でっかい邸だ。

 上から見た感じだと、公爵家よりもでっかいぞ。

 そりゃ権力が上だっていうんならそんなもんかもしらんけど。

 

 でもまぁ庭の具合とか見ると、かなり荒れてるな。

 いちおうは無人ってことを装ってるのか。

 

『スペルディア!』


『偵察用ドローンを回しています。邸内にも侵入していますが、今のところ人影は見えません』


『いいさ、どの道、出会ったやつは全員殺す!』


 ワイヤーフックを操作して静かに庭に降り立つ。

 思ってよりも荒れてるな。

 

 オレの脛あたりまで雑草に覆われちまう。

 これじゃもし罠があってもわからん。

 

 ってことで、ワイヤーフックを使ってひとっ飛び。

 大公家の屋根に跳び移った。

 

 屋根に分子操作で大穴を開ける。

 これで屋内に侵入完了だ。

 

『マスター、暗視機能をオンにします』


 え? そんな機能までついてるの?

 ってか、昼間と同じように見えるんだけど。

 なにこれ、マジですごくない?

 

『当たり前です。我がウル=ディクレシア連邦の誇る技術のひとつです。画像増強と赤外線画像を組み合わせ、さらに画像処理を施した上でリアルタイムで再現可能です。他にもイメージングモードを切り替えれば……』


『おお! 見え方が変わった』


『こちらは熱感知モードですね!』


『サーモングラフィティとかいうやつか!』


『サーモグラフィです! 鮭の絵でも落書きする気ですか!』


 まったく。

 こういう技術関連についてはおちょくったらダメだな。

 ツッコミの本気度がちがう。

 

『スペルディア、これ元のやつの方がいい』


『なぜですか?』


『そこらの物陰に隠れてる虫とかネズミとか見える』


 いやなの。

 オレってば繊細なシティーボーイなんだから。


『……承知しました。おっと、マスター、怪しい扉を発見しました。どうやら地下室に繋がっているようですね』


『ほおん、地下室ねぇ』


 地下にはあまり良い思い出がないんだよな。

 あの研究所ラボでの特訓を思いだしちまうから。

 

『案内します。ちなみに敵勢力の姿も確認できません』


『とりあえず下に降りたらいいんだろ?』


 分子操作を使って足元に穴をあけてしまう。

 今いるのは三階だから、とりあえず一階まで。

 直通コースで降りていく。

 

『野蛮ですね!』


『いいんだよ、敵の邸だろ? 気にすんな!』


 スペルディアの案内に従って、一階をズンズン進む。

 辺境名物! 直進行軍ってやつだな!

 

 邪魔な壁や柱もなんのその。

 分子操作の前に敵はいないのだ。

 

『マスター、その本棚の裏に扉があります』


 書斎といったところだろうか。

 年代の古そうな机と椅子があった。

 それに本棚まで。


 オレの身長よりも大きい本棚だ。

 中には訳のわからん本が満載。

 まるで百科事典みたいな分厚いやつばっかり。

 

 こんな目立つ場所にあるのに、ちゃんと調べなかったのか。

 いや、調べさせなかったのか。

 

『私が調べた王都の噂です。旧オンデーヌ大公家邸は幽霊屋敷として有名でしたよ。なんでも大公の死後にその霊がでる、と。まぁ守旧派の貴族にしてもあまり触れたくはなかったのでしょうが……』


『いや、ちゃんと調べろよ。マジで。王都の貴族はなにしてんだよ』


『擁護するつもりはありませんが、私は偵察用ドローンで邸内外の測量していましたので、ここに不自然な空間があることに気づいたのです。本棚をどかしただけでは扉の有無はわかりませんよ』


『なるほどなぁ』


 スペルディア様々だ。

 ここに居れば撫でてやったのに。

 

『帰ってきてから撫でてもらいますので』


 おうおう。

 愛いやつ。

 

『いえ、勘違いしないでください。マスターではなく、マスターの見ている前でシルヴェーヌ様に撫でてもらいます』


『ああん! おまっ! なに言っちゃってんのよ!?』


『ふふん。いい気味です!』


 なんて酷い使い魔なんだろう。

 こいつは。

 

『さぁ駄弁ってないでいきますよ、マスター』


 はいはい。

 本棚をどかしてっと。

 今のオレなら、この程度の重さは片手でだっていける……。

 

「ぎゃあああああ!」

 

 虫、虫、虫!

 なんだか黒くて速いのがいっぱいいる。

 いや、マジで無理だから。

 

『ちょ、マスター! どこに?』


『言ったろ? オレはシティーボーイなの!』


 虫は無理だって。

 キモいキモいキモい。

 

『さっきの熱感知モードなら、こんなことにならなかったのに』

 

『うるせえよ、血も涙もねえのか』


『ありませんよ、そんなもの。マスター、その部屋から退避してください。こちらでドローンから殺虫剤を撒きますので』


『そんなことできるなら先に言ってくれよ! もう!』


 大人しく部屋から出るオレである。

 その一瞬後に、部屋の中が真っ白になった。

 

 うへえ。

 すげえな、この殺虫剤。

 効き目が半端じゃねえ。

 

 これ、売りだすだけで大もうけできるんじゃねえ?

 いやマジで。

 

『人体には有害な毒素も入ってますけど?』


『いや、オレも危ないじゃん!』


『……マスターはサイボーグでしょうに。脳への影響もありませんのでご安心を』


 クソ。

 殺虫剤で大もうけルートはなくなったな。

 

『まぁ成分調整くらいかんたんですけどね』


『先生! 大好き!』


『資金難になったら考えましょう』


 うんうん。

 これで大金持ち確定だわ。

 オレの人生勝ったな。


 さぁ気分がよくなったところで、魔人どもを潰しにいくか。

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