第027話 ラウール出撃準備を整える
公爵家からのお手紙の後半にかけてだけど。
魔人の勢力が関わっていることは知らなかったそうだ。
中央貴族とのつながりも不明。
予想外のことなので、対応も協議中とのことだ。
で、だ。
一時的に避難のために辺境に戻ってもいいとあった。
ただし、その場合は事前に連絡がほしいらしい。
『マスター。かちこみますか?』
『……やるよ、絶対にやる』
当たり前だ。
なにがなんでもやる。
『承知しました。では、私はここに残ります。多次元障壁を使ってシルヴェーヌ様と商会を守りましょう。そのためにマスター、障壁の範囲を商会全体に広げておきませんか?』
『え? そこまで広げられんの?』
『もちろん。ただし、この部屋に置いた拡張キットを邸と商会の全体に設置する必要があります』
『その拡張キットの数は足りるのか?』
『ギリギリですけどね。まぁなんとかなるでしょう』
さすが頼りになるスペルディア先生だ。
オレの相棒だけのことはある。
『まだデータの解析中なので、先に拡張キットの設置をしておきましょう』
『わかった』
オレはおっちゃんとネイネさん、シルヴィーの三人に事情を説明する。
おっちゃんとネイネさんは、快く了承してくれた。
やはり南部の出身だ。
「ってことで、ちょっと準備してくるねー」
あくまでも軽い調子は崩さない。
本番はまだ先だからな。
今から切れてちゃ話にならない。
ワイヤーフックを使って、邸の屋根の上に行ったり、下に降りたいと面倒なことをこなす。
こういうときは何かしらの作業をしている方がいいね。
気が紛れる。
さほど時間がかからないのが、玉に瑕だな。
『おーい、スペルディア! こっちは設置が終わったぞー』
邸の屋根の上だ。
さっきの大講堂ほどの大きさはない。
だから、王都を見下ろすってほどの景色じゃないのが残念だ。
時間はすっかり夕方だ。
もうそろそろ陽が沈もうかって時間だね。
黄昏よりも深い藍色に空が変わりつつある。
王都の建物の屋根が並んでいるけど、なんつうかアレだ。
あんまり個性がないな。
だいたい建物の形は同じだ。
でも理路整然と並んでいるのを見るのは気持ちいい。
『設置完了の確認ができました。一度、正常に作動するか試しますので、そのままでお待ちください』
『ほいよー』
スペルディアの言葉が終わってすぐだ。
ぶぅんと起動する音が鳴って、邸と商会の建物が障壁に包まれる。
目には見えないけどな。
あ、いやオレの目は特別製だったわ。
なんか青白い光の箱に包まれている感じだ。
『正常に作動しています。マスター、ご苦労様でした。データの解析もさきほど終了しました。やはり死んだ脳からの抽出は完全ではありませんね』
怖いこと言わないで。
死んだ脳とか。
『マスター、私はここからサポートします。遠隔でも問題ありませんので、いつものようにいきましょう!』
『わかった。先に公爵家に行った方がいいか?』
『お! マスターにしては建設的な案ですね。私もそちらをおすすめしようと思っていました』
『なら、頼むよ』
『お任せください。まずは光学迷彩の機能を作動させます!』
んーオレとしては見た目が変わったように見えないんだけど。
『問題ありません。正常に作動していますので安心してください。公爵家までナビゲートします!』
頼んだ!
闇に紛れるようにして、王都の上空を疾走する。
って言っても、あれだ。
ワイヤーフックを使って、王都のお屋敷の上を跳んでいるわけだけど。
この爽快感は半端じゃない。
いいいいやっっふううぅうう! と叫びそうになる。
声をだしちゃマズいから言わないけど。
ほんの数分でノートス公爵家のお屋敷にたどりついた。
『マスター、中央貴族による監視の目を先に潰しておきました。昏睡させていますので、今なら誰にも見られずに裏口から侵入可能です』
なんて役に立つ相棒だろう。
ワイヤーフックを使って庭に降りる。
そのまま裏口に。
ドアを開けて、中に入る。
うん、誰も居ないな。
『スペルディア、光学迷彩を切って!』
『承知しました』
よくわからんが、もう光学迷彩の機能も切れているんだろう。
コンコンと壁を叩く。
「誰かおるかー」
あんまり大きな声はださない。
念のためにね。
少しすると、バタバタと足音が聞こえてくる。
見知った顔の従僕だ。
「え? ら、ラウール様?」
なんでいるのって顔をしている。
「見つからないようにこっそりとね。公爵様っている? ちょっと話したいことがあるんだけど」
「お、お待ちください。すぐに確認してまいりますので」
ペコリと頭を下げてから、走り去って行く従僕だ。
間もなく、オレは前と同じ部屋にとおされた。
ドアを開けると、公爵家の当主とご婦人が揃っていた。
ええと……名前はなんだっけ?
『リゼッタ様とヴァレリアン様ですよ』
うん。
やっぱり人の名前を覚えるのは苦手だ。
「ラウール! あんた、よく無事だったね!」
ご婦人が声をかけてくる。
よっぽど心配だったのか。
「魔人を相手にしたと聞いたが……」
イケメン中年がオレを上から下まで見る。
怪我をしているか確認しているんだろうか。
大丈夫。
ラミア程度じゃ怪我なんてしないさ。
ビッと親指を立てて見せる。
「ええと、し、シルヴェーヌ様はご無事でござんす! あと、オレも問題ねーです!」
っていうか、とオレは話を続ける。
先生! スペルディア先生! おなしゃす!
『どおれ、ここは私の言うとおりに』
こっそりスペルディアと秘匿回線を使いながら事情を説明する。
「ふむ……グランツ商会を魔人が襲った……か」
イケメン公爵が沈思する。
オレには何を考えているのか、さっぱりだ。
「ってことで! オレは今から魔人の組織を潰してくるんでやんす!」
「はあ!?」
ご婦人が驚きの声をあげた。
「あんた、何言って……」
「
おっと。
いけない。
つい昂ぶってしまった。
反省。
「……兄貴。アルセーヌのことだね」
え? いやちがっうことはないのか。
うん、ちょっとヤバかった。
兄貴たちって言わなくてよかった。
『怪我の功名ってやつですね』
『それが合ってるのか間違ってるのかわからん!』
あークソ。
『スペルディア、解析は終わったのか?』
『はい。隠れ家も特定できました』
「じゃあ、行くか」
踵を返したオレの背中に声がかかった。
「ちょいと待ちな!」
ご婦人の鋭い声である。
「……魔人たちはどこにいるんだい?」
『旧オンデーヌ大公家邸です』
「ええと……お、おでん……オンデーヌ大公家? ってとこ」
オレの言葉にご婦人がはしたなく舌打ちをした。
「クッ……まさか旧大公家邸とは、完全に盲点だったな」
公爵様が頭を抱えた。
イケメンは絵になるのう。
「そうか! 大公家のあの無謀な反乱も中央貴族ども、いや魔人の勢力が裏で糸を引いていたのか! ならば納得がいく。ちぃ。だったら幽霊屋敷って噂も……」
ご婦人が半ば叫ぶようにして口を開く。
「……となるとセレヒフゴーズ商国が魔人の勢力と繋がっている? 母上、至急裏を取らなければ」
公爵様の言葉に首肯するご婦人だ。
そして、オレをキッと睨む。
「ラウール、ケツは拭いてやる! しっかりケジメとってきな!」
ご婦人の声に大きく頷く。
いやだ、貴族のご婦人がケツを拭いてやるだなんて。
お下品ざますわよ。
「そういうときは、おうんこ召し上がれって……あれ? ちがうか?」
『ちがいます!』
「ラウール、できればでいい、中央貴族、いや商国とのつながりを示すものも手に入れてくれると嬉しい」
公爵様にもビッと親指を立てておく。
『マスター! 先に証拠を確保しますよ。その後で思う存分暴れてください!』
『任せとけってんだ!』
「ええと……じゃあ、行ってきます?」
と、残してオレは裏口からでる。
もちろん光学迷彩の機能を使って見えないようにして、だ。
『マスター、中央貴族派の監視員を確保してください。こちらで情報を引き出しますので』
『任せた!』
昏睡している男が二人。
転送装置を使って
こいつらがどうなるのかはしらん。
でも、べつにどうなってもしるか。
こっちは盛大にケンカ売られてるんだからな!
『マスター、人聞きの悪いことを言わないでください。まるで私が人権を無視する鬼畜のようではありませんか』
『じゃあ丁重にもてなすのか?』
『アニマルウェルフェアってやつです』
『言葉の意味はよくわからんが、なんだかとっても酷いことになりそうだな!』
『ご想像におまかせします』
さぁやるか。
ばちこーんとな。
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いせえふ~異世界ファンタジーのはずなのにオレだけジャンルちがうくね?~(仮) 鳶丸 @humansystem
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