第011話 ラウール地雷を掴まされたと判断する


 スキンヘッドの冒険者。

 よく見ると、顔が真っ青になっている。

 なんだこれ。

 

「か、勘弁してくれ!」


「なぁ……なんでケンカ売ってきたん?」


 そこが本当にわからない。

 異世界ってもっと野蛮じゃなかったのか。

 

「助けてくれよ!」


 イラッとくる。

 聞かれたことを答えろよ。

 

 わかりやすく氷弾を見せつけてやる。

 これから撃ちこみますよって。

 

「ひぃ!」


 スキンヘッドの腰が抜けたみたいだ。

 ぺたんと地面にお尻をつけて、逃げだそうとしている。

 

「誰に頼まれた? お前ら何者だ?」


「か、勘弁、勘弁してくれよう」


 スキンヘッドが泣きだした。

 顔面をくしゃくしゃにしている。

 

 なんかこういう犬が前世にいたな。

 チャイナ産の犬だったか。

 

「答えなければ撃つ」


「し、知らないヤツだ! き、貴族みたいなしゃべり方の!」


「ほおん。お前ら、ただのチンピラか?」


「ち、ちがう。オレたちぁ……ぎゃああああ!」


 ファイヤランス。

 火を槍の形にして射出する魔法だ。


 スキンヘッドの背後から飛んできて命中した。

 あんまりレベルは高くないな。

 辺境で言えば三流のレベルだ。

 

 ただ視認するまで、察知できなかった。

 ううん、大丈夫か、これ。

 

 スペルディアの偵察用ドローンの映像がなかったら、魔法で不意打ちされ放題だ。

 ここは要改善ってことで。

 

『承知しました、マスター』

 

『頼むぜ、相棒』


『素体が幾つか手に入りそうなのですし、魔力についても解析準備に入っています』


 スキンヘッドが火だるまになった。

 火だるま。

 うん、言い得て妙ってやつだ。

 

『マスター、犯人が逃げようとしています』


『足を潰せるか?』


『もちろん!』


 どうもスペルディアもノリノリだなぁ。

 こいつもアレか。

 戦闘狂なのか。

 

「ぎゃあああ!」


 空き地に続く裏道から悲鳴が聞こえてきた。

 まったく汚え悲鳴だぜ。

 いやあんとかにしろって話だ。

 

 歩いて近づく。

 空き地から少し離れた場所に、倒れているのが一人。


 右足が半分ほどちぎれかかっている。 

 それでも逃げようとして、地面を這っているのだから、さっきのヤツらよりは根性があるな、うん。

 

「なぁお前ら何者だ?」


 背中を踏んづけながら、優しく聞いてみる。

 ジタバタするなって。


「……オレらは九頭竜ヒュドラ会のもんだ」


 いや、ご存じ! みたいな感じで言われてもな。

 知らんのだわ。


『急ぎ情報を収集します』


 スペルディア先生は優秀だろう。

 オレが何も言わなくても先回りしてくれる。

 かゆいところに手が届く使い魔なのだ。

 

「それって美味しいの?」


九頭竜ヒュドラ会に手をだしてタダですむと思うなよ」


「……そう」


 悲しいなあ。

 本当にそう思うんだよ。

 オレってば都会生まれのシティーボーイなんだもの。

 

 だけどさ、辺境生まれでもあるんだ。

 こっちで生き残るには徹底して叩きこまれたんだよ。

 

 ――心を殺せ。

 

 完全にスイッチが入ったみたいだわ。

 もう目の前のコイツになにも感じない、なにも思わない。

 だから始末した。

 

『マスター、死体の処理はこちらに任せてください』


「頼んだ」


 要するにあれだな。

 右手で送って、左手で取りだす転送装置を使え、と。

 

 何回見ても不思議だ。

 どう考えたって、オレの左手で吸い取れる大きさじゃない。

 

 だけど触れてみたら、あら不思議。

 一瞬のうちに吸いこんじゃう。

 

 スペルディア曰く、分子単位でなんちゃらって言ってた。

 いったん分解して再構築するんだと。

 

 さっきの空き地の死体と合わせて、すべて回収する。

 まぁ回収したところで、コブラ……じゃなかった九頭竜ヒュドラ会とは敵対したようなもんだ。

 

 こいつらが帰ってこないとなれば、誰がやったかは明白だもの。

 だったら……潰すか。

 面倒事は少ない方がいい。

 

「それにしてもさぁ……」


『なんです?』


「あの御令嬢、完全に地雷だったよなぁ」


「地雷とはなんでしょう? 兵器としての意味ではありませんよね?」


「ああー、そうか。なんつうかアレだ。手をだしちゃだめみたいなそんな感じの意味かな」


「それならば最初から解っていたではありませんか。そもそも公爵家が、たかが子爵家の跡取りでもない者を偽とはいえ婚約者にするなどあり得ないのですから」


「だよなー。結局はどうしたいんだろう」


「さて、護衛を頼まれましたが……誰から守るのか。どうすれば任務達成なのか。よくわかりませんが、マスターが引きうけてしまったのでなんとも言えませんね」


 ぐぬぬ。

 よくよく考えてみたらそうだ。

 いったいどうしたらいいんだよ。


 さっぱりわからん。

 そういうところはスペルディア先生にお任せだ。

 

 とりあえず……オレがやるべきことは決まっている。

 

「めんどくせーけどやるかー」


 そうなのだ。

 掃除をするのは面倒臭い。

 かといって放置しているともっと大変なことになる。

 

 やると思ったときにやる。

 これがコツなんだよね。


「マスター。先ほどの死体からデータを引き出すまでもう少し時間がかかります」


「どのくらいかかるんだ?」


「小一時間ってところでしょうか。いったん全部のデータを抜いてから、必要な部分を検索しますから」


 よくよく考えてみたら怖いんだけど。

 データ抜くとか、そういうのを気軽に言うんじゃありません。

 

 ってか、オレもデータ抜かれてるのか。

 

「なにを今さら……」


 あら、怖い。

 スペルディア……恐ろしい子。


「そんなマスターに朗報です。王都の美味しい食事処十選というデータが……」


「そういうことは早く言ってちょうだいな!」


 まったくスペルディア先生はできる子だ。

 下手に高くてまずいメシなんて食いたくねえからな。

 

「では、案内しますね。私としては、南部出身の料理人がいる南風みなみかぜの庭というお店がおすすめです」


 なるほどな。

 まずは親しんだ南部料理からスタートしようという考えか。

 

 だが断る!

 このラウール、未知なる味を求める食の探求者。

 南部料理という安パイなどは不要なのだ。

 

 ぶっちゃけると南部料理は美味いと思う。

 なぜ繊細なシティボーイだった前世持ちのオレが、辺境という脳筋が流儀の土地で絶望せずにすんだのか。

 

 その理由のひとつはメシが美味かったことだ。

 辺境の貴族はよく身体を動かす。

 それに中央からの手厚い支援によって食糧事情はいいのだ。

 

 よって一日に五回の食事をとっている。

 朝昼晩の食事に加えて朝と昼の間と、昼と夜の間に間食がでるんだよ。

 

 味つけとしてはイタリアンとかの系統だと思っている。

 ハーブとニンニクを多用するイメージかな。


 あと風味のいい油がよく使われてるんだ。

 オリーブオイルみたいなもんかな。

 辺境だとエーライアって呼ばれる実からとれるオイルなんだ。

 

 これがねぇ実にいいんだよ。

 あと辺境だと豆をよく食べるんだな。

 ちなみに主食となるのは、トウモロコシ系のパン。

 あとマッシュポテトみたいなやつ。

 

 おっと、思いだすだけでヨダレが……でねえわ。

 オレもう機械の身体だもんな。

 

 ここは攻めの一手しかない。

 なにせオレの胃袋は無限。

 金の続く限り、美食を追い求められるのだ。

 

 ならば食べたことにない料理こそ正義。

 だから――。

 

「先生! 北部料理が食べたいです!」


 東西南北の地方の料理と、それらが混ざった中央の料理。

 この国だと五つのちがう系統の料理があるんだよね


 だったら先ずは北部の料理だ。

 まったく接点がなかったからな。

 

「北部料理ですか……ではこの近くにターエー・ムラーシの料理店という自己主張の強い有名店がありますね」


「なにその不吉な名前。嫌なんだけど」


「なにを仰います! ターエー・ムラーシの料理店は王都でも有名な北部料理の店舗ですよ!」


「いや、なんちゅうかな」


 そう――説明しにくいんだよ。

 有名なメシマズキャラと似た名前の店なんて。

 

「大丈夫です! 私も興味がありますので、さぁ早く行きましょう!」


 オレの思いを軽く無視してくる先生。

 十中八九、気のせいなんだと思うんだよ。

 でもなー。

 

 ――ターエー・ムラーシ。

 

 店主が和装の女性でないことを祈りながら、オレはスペルディアの後に続くのだった。

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