第3話 記念式典

 ワープゾーンが開いて、魔王を倒した勇者グループがぞろぞろと酒場に参集した。リーダーらしきビキニアーマーをはじめ、剣士、魔術師、鳥人、リザードマンといかにも強者ぞろいだ。

 出席者のそのほとんどが冒険者という酒場主催の魔王討伐記念式典が開かれる。ミーナたち店員は酒と食事の準備にてんてこ舞いだ。


「えー、わたくしはですね、この度魔王を討伐してまいりました」ビキニアーマーの女が集まった聴衆を前に語りかけると、まばらな拍手が迎えた。「長い道のりの途中で、何度もあきらめようという気持ちに駆られましたけども、仲間たちに――この四人の仲間に背中を押されながらね、何度も立ち上がってこれました。ええと、わたくしが勇者を志しましたのもそもそも――」


「あの女、スピーチが長いタイプの人間だな」

 俺はうんざりしつつ、つぶやいた。

 校長先生にはなってほしくないタイプだ。となりにいるリザードマンや鳥人の男は早くも眠たそうにしている。

「わしらそもそもなんでここにおるんじゃ?」

 ビッグスが疑問を口にした。殊勝なことに俺たちは椅子から立ち上がってスピーチを聞いていた。

「シーッ。大事な式典ですよ。勇者たちをたたえましょう。ああ、感動的なスピーチだ」

 クロードはすっかりスピーチにほだされているようだ。

「キング・ザ・ブルのおっちゃんもちゃっかりしてるなあ。おいらたちに魔王討伐を言いつけながら、ほかにも魔王討伐グループを手配しているなんて」

 ミルズはため息まじりに言った。


「――人生はワイン作りに似ています。最初はただのブドウに過ぎません。それが樽の中で熟成し、長い年月をかけて発酵してきものに育っていくんです。その過程は人間の成熟に例えることができます。そうそう、ブドウ作りといえば私は南の国出身で、ブドウ農家の家にいて小さい頃よくお手伝いしたものでした――」

 ビキニアーマーのスピーチはまだ続いていた。鳥人とリザードマンはいよいよ立ちながら船をこいでいる。さしものキング・ザ・ブルも目をしばしばさせている。お気の毒に。


 俺はやることもなく、冒険者連中をみていた。ビキニアーマーをはじめ、剣士の中背中肉男も魔術師のメガネ女も美形。美男美女ぞろいだ。特にビキニアーマーの美貌は特筆もので、21世紀の日本にやって来れたらすぐにでもモデルデビューできそうだ。

「それにしても、勇者殿はずいぶん露出度の高い格好ですね。敵にお腹を狙われたりしないのでしょうか」

 クロードがもっともな感想を口にした。そんな無粋なこと言うなよ。

「女神の加護がかかってるから並みの鎧よりも硬いんだって。さっきスピーチの中で言ってたよ」

 ミルズが言った。スピーチ聞いてたのか。やっぱりいいやつだな、こいつ。

「…………」

 ワンドルは尻尾を振りながら無言でもぐもぐ腸詰ソーセージを食べている。それは俺のだぞ。


 やがて長かったスピーチも終わり、式典会場となった酒場には拍手が響き渡った。式典に出席した冒険者たちは「長いわりになにが言いたいか分からんかった」「よく分からんが頑張ったんだな」などと言いながらめいめい席についた。

 俺たちもまばらな拍手を送って勇者たちの健闘をたたえた。

「やれやれ、ようやく終わったようじゃわい。スピーチの長いやつは禁忌きんき魔法を使う魔法使い並みに恐ろしい」

 ビッグスはファンタジー世界ならではの例えを口にする。みんな笑ってたけど、俺は笑いのツボがよく分からなかった。


「あっ。キング・ザ・ブルが席を立ったよ。追いかけなきゃ!」

「引き止めろ!」

 俺たちは背の高いキングに追いつく。キングはというと、眉根をあげて俺たちを見やった。

「お前ら誰だっけ?」

 秒で忘れられてる。プロデューサー連中というものは、自分勝手がすぎる。

「ああ、思い出した。スキルなしどもか。なんの用だ?」

「何の用って、我々の冒険を支援していただけるという話がありましたが、そちらがどうなったのかお問い合わせいたしたく」

「でも、魔王は討伐されたしな」

 キングはヒゲの生えたあごをぽりぽりとかく。

「そこを何とかなりませんか?」

「ふうむ。どうしたもんかなあ」


「では、魔の山はどうでしょう?」

 ここで口をはさんできたのは白銀ビキニアーマーだった。

「ほう」キングは目を輝かせた。「魔の山か。それはいい。ロマンがある」

「魔の山だと?」ビッグスが叫んだ。「魔の山踏破こそわしの長年の夢だ。是非とも挑戦したい」

「ふんふん。楽しいかもね。魔王討伐と同じくらい手応えがあるよ」

 ミルズはひゅうと口笛を吹いた。

「魔王討伐を終えてもなお、それに匹敵するだけの困難な目標が我々を待ち受けていたのだとは……! エルフの族長に広く世界を見てこいと言われた私にとってまたとないチャンスです。ああ、ホッシー殿。これは挑戦するしかありませんよ?」

 クロードは言った。

「魔の山ってなんだよ⁉︎」

 俺の叫び声が酒場にこだました。

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