第18話 マジックアイテム
「みんな、これはなんだと思う? 砂の化け物の体内から出てきた」
ワンドルが何かを抱え持ってきた。
「見た目通り、箱のようですね。振ってみると音がします。なにかアイテムが隠されているようですが」
クロードの鋭い目が、箱へと向けられる。箱は金色をしていて、いかにも高級感がある。財宝であることは間違いない。その表面には薄く文字が彫られている。この世界の古代文字のようだ。
「これそのものが罠だったりしないよな?」
マジックアイテムどころか、魔力爆弾という可能性もある。そうなったら全身が四方八方に吹き飛んで俺たちの冒険者人生も終わりだ。
「少しなら古代文字が読めます。『財宝』を示す言葉が書かれていますね」
クロードの細い指先が、箱の表面をなでた。
「なにか突起があります。触ってみましょう」
「慎重にな」
すると、カチッと音がして、箱の天面が開いた。
「おお! ……ってなんだこれ」
中に入っていたのは、メガネだった。
「なんじゃこれは。なんだかマジックアイテムに見えないのう」
ビッグスの言う通り、あまりにもシンプルなメガネだった。黒いフレームにレンズ。あまり冴えているとは言えないデザインだ。
「ビッグスは顔がデカくて使えんし、クロードは顔が細すぎて使えんな。ワンドルは犬妖精だけに耳がピンと上に立ってるからそもそも掛けられない。となると俺かミルズ向けだな」
「御託はいいから、さっさと身につけるのじゃ」
「へいへい」
俺はそうした。
「おっ!? 何かが見える……これすごいぞ!」
「何が見えるのですか、ホッシー」
「トラップだ。トラップが見える。魔術で隠蔽された罠が紫色に浮かんで見えるんだよ」
「すごい! これならトラップに苦しまされないですむね」
「でもなあ。こんなうまいところにうまいアイテムがあったもんだなと思うよ。トラップのなかにトラップ避けのアイテムなんて。これもなんかの罠じゃないだろうか」
俺はぼやいた。根が疑り深いのだ。
「発想をかえてみて下さい、ホッシー殿」クロードは言った。「土人形のトラップにアイテムが仕込まれていたというのではなく、土人形にアイテムを守らせていたということなのではないですか?」
「なるほど」
「ほう、つまりわしは当たりくじを引いたようじゃな」
ビッグスはドヤ顔を俺に向けてきた。ムカつく。
「このアイテムは、ミルズに託すよ。もともとの視力の良さに加え、
「ホッシー。そんな役目を任されるなんてうれしいよ」
ミルズは顔をあからめた。そしてメガネをかけた。
「どう? ホッシー、おいらに似合うかな?」
ミルズははにかんだ顔で小首を傾げた。
「似合う似合う」
「へへ、うれしいな」
「しかし、これってアイテムを得るにはいちいち土人形を破壊しなきゃだめってことか? めちゃくちゃ効率が悪い上に、体力・魔力の消耗がめちゃくちゃ著しいと思うんだが」
「その辺は仕方ないじゃろう。『メデューサを
ビッグスがなんだか格言めいたことをいう。悔しいことになんとなく意味がわかる。
「うーん。風を起こす魔法ってけっこう体力を使うんですよねえ。マジックアイテムを三つも探し出すころには体力が尽きてそうな予感がするのですが」
クロードは困り顔だ。
「待ってみんな。メガネを通してみると、土人形のいた扉のところに二種類の色が見える!」ミルズが叫んだ。「上部が赤色。下部が青色だ。多分これ、青色の方を押すと、土人形が作動しないんじゃないかな」
「本当か?」
「ほう。やってみる価値はあるでしょうね」
しばらく歩いていると同じトラップがあったので、ミルズの言う通りに『青色』のスイッチを作動させてみた。すると、隠しドアが開いて土人形が出るには出てきたが、今度は戦闘的な態度ではなく、うやうやしく頭を下げつつ、アイテムを差し出してくれたのである。
「おお!」
「これなら楽にアイテムがゲットできますね! ミルズ殿、大変なお手柄です。これを知っているか知らないかで我々の冒険は難度を増すところでした」
「よくやったぜ、ミルズ」
俺はミルズの頭をわしゃわしゃとなでる。
「あはは、照れちゃうな」
ミルズは顔を真っ赤にした。
ここは古代遺跡の財宝保管エリアであるらしかった。
なんと三十ものアイテムを手に入れた。
やや広めの部屋に入ると、俺たちは入手したアイテムを吟味した。
宝石・金貨合わせて二十五個。
これは、現金にすれば五万ダラーはくだらない。
それから短剣がひとつ。
長剣がひとつ。
手斧がひとつ。
マントが一枚。
腕輪がひとつ。
武器・防具類はいずれも強い魔力を放っている。俺たちの戦力を底上げしてくれること間違いなしだ。
武器・防具は各自ひとつずつ、宝石・金貨類は五個ずつ山分けとなった。
「わしは手斧じゃ」
ビッグスは譲らない。
「おいらは短剣かな」
ミルズは手に取った。
「では私はその剣を」
クロードは選んだ。
「…………」
ワンドルは腕輪を取った。
「残り物かよ」
俺に残されていたのはマントだ。
マントは赤茶色で、カシミアの織物のようにふわふわしていた。きっとこちらの世界の名も知れぬ幻獣の毛を使ったものなのだろう。さわった瞬間から魔力がびんびんに出ていて、よほど強い効果が認められると思われる。
「でもこれはどんな効果があるんだろうな?」
「知らん」
「まあ、そうだよな」
「鑑定の魔術でも覚えている有能な魔術師がいたよかったんじゃがのう」
「悪かったな、覚えてなくて」
俺とビッグスはちくちくやり合う。
そうこうしていると、カチッ! ビッグスはまた罠を踏んだ。
「おい、お前いいかげんにしろよ」
「わしのせいじゃない。わしのせいか。いや、ミルズ、お前何を見ておったんじゃ。トラップ監視はお前の役目じゃろうが」
「ごめん。そのトラップ、魔力が出てなかったからつい見逃しちゃったや。許してね」
ミルズは舌をペロッとさせた。
「そうか。すべてのトラップが魔術で隠蔽されているとは限らないか。それは盲点だったなあ」
俺は納得する。
「…………」
その直後、俺たち五人のいた床が抜けた。落とし穴であった。
「うわああああああ!」
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