第17話 遺跡
坑道が終わった。天井は急に高くなった。その高さは五メートルほどありそうだ。
ここが坑道と古代遺跡の合流地点だろう。天井が高くなるのにともなって、道幅も広くなる。三人横並びで歩けそうなほどだ。
よく磨かれた石の床は不思議な幾何学模様が描かれ、天井へとわたる柱には細かい
「いよいよ到達か。気持ちを引き締めていかないとな」
いきなり
「右に行くべきか、左にいくべきか」
「シェルパのバニアン殿から簡単な地図を書いていただきました。なんでも迷宮の手前はすでに調査隊が入っていて、地図を書き起こしているようなのです」
クロードが言った。
「ありがたい。これなら進むべき方向も分かるな」
地図によると、左側は財宝が隠されていた部屋につながる。そっちは足を運んでもなんにもならない。もう宝箱は空っぽだろうし。右側は迷宮になっていて、しばらく一本道ではあるものの、右に左にとくねくね歩かされることになる。
「とにかく右に行くぞ」
「おう!」
途中、罠が作動したと思しき跡を見つけた。床から飛び出たスイッチ。壁から飛び出た弓。足元のスイッチを踏むと弓矢が飛んでくる仕掛けだったのだろう。
「ダンジョンにつきもののトラップってわけか。これでは不用意には歩けないな。みんな、気をつけろよ」
「馬鹿者。わしを誰だと思っておる。わしほど注意深い人間はいないぞ」
ビックスがそういった瞬間、カチリと音がなった。ビッグスの太い足が地面から飛び出たスイッチを踏んづけていた。
「だから慎重に歩けといっただろうがッ!」
「ええい! 悪かったわい」
罠が作動した。壁から白い煙がシューっと吹き出し、俺とビッグスの顔に直撃した。
突如目の前に変なものが浮かび上がってきた。
「これは……八桁以上の数字が書かれたボーナスの明細書じゃないか! ずっと探していた。なんでここに!」
「これは……ミーナの作ったサンドイッチじゃ。山ほどあるぞ!」
「ふたりとも幻覚を見てる! どうしよう!」
ミルズが言った。
「私にお任せください!」
クロードは得意げに言った。
「ヘイルヘムタッキー!」
クロードの長い足が俺の股間をしたたかに蹴り上げた。ビッグスのもだ。
「んがあぁぁぁぁ⁉︎」
「うぉぉぉ⁉︎」
「おや、正気に戻られたようですね」
クロードはにっこり微笑んだ。
正気に戻ったことは間違いないが、このやり方は二度とやらないでもらいたい。
「しかし、こうした罠もやっかいなものですね。ホッシー殿は罠を探知する魔術などは覚えておられないのでしょうか」
クロードは腕を組んだ。
「残念ながら覚えていない。火を起こしたり、水を作ったりする基本魔法は覚えているけれど、そのほかは
「ホッシー殿の死後の裁定者は美しい女神とかではなく、ゴールデン・レトリバーだったのですか」
「ホッシーらしくて面白いね」
ミルズは笑った。
「わざわざ魔術でもって探知することはないだろう。こちらにはミルズ殿がおるではないか。ミルズ、貴様の職業は盗賊なのだろう。罠の探知はお手の物なのではないか」
「それなんだけど、この古代遺跡だと探知の精度がにぶるんだよ」
「なんじゃそれは。役立たずか、貴様は」
「仕方ないだろ。魔術で巧妙に隠されているんだよ。視力に頼るしかない。まあ、その点おいらは視力はいいほうだけどね」
「結局のところ、慎重にやっていくしかないようですね」
クロードは肩をすくめた。
「先が思いやられるわい」
ビッグスも肩をすくめた。
「お前が言うなよ!」
地図であらかじめ示された箇所を通り過ぎた。これから俺たちは地図にない場所を歩いていくしかない。より慎重な行軍が求められた。
ミルズの入念なチェックにより数々のトラップを発見した。毒矢の飛び出してくるトラップ、鉄球が落っこちてくるトラップ、床から剣山が飛び出てきたりするトラップ、それから落とし穴。
見つけたにも関わらず踏んでしまうという危険な場面に何度も出くわした。まあ、引っかかったのは、すべてビッグスなんだが。
「どうしておまえは、そんなにトラップ踏むんだよ!」
「おいらもカバーしきれないよ、ビッグス」
「仕方ないじゃろうが、わしのステータスは幸運がいまいち少ないんじゃ。そのせいでやたらと罠を踏む」
「言い訳すんな、注意力が低いだけだろ!」
「なんじゃと!」
「まあまあ、お二人。ホッシー殿もビッグスどのも落ち着いてください」
「…………」
ワンドルがビッグスをじっと見つめていた。
「どうしたんじゃワンドル。このわしになにか言いたいことでもあるのか?」
ワンドルの黒目がちな両目がビッグスに向けられていた。
「言いたいことがあるのなら――」
「ビッグス、君は手を壁に置いて寄りかかっているが、そこにあるのはなにかのスイッチじゃないのかい?」
「なぬ?」
その直後だった。
急にビッグスの横の壁の隠し扉が開いた。
こうなったら剣山でも鉄球でも弓矢でも来いと思ったが、そこから出てきたのは、なんとも異形なものたちだった。
人間大で、一見すると人間の兵隊なのだが、顔のみならず身につけている服も茶色い。そのすべてが土でできているのだ。
「――なんだこりゃ!?」
俺の魔術師特有の魔力探知能力が、やつらからビンビンに魔力を検知する。
「こいつら魔法生物だ! 魔力で動く土人形だ!」
人形は攻撃的で、俺たちに向かって殴りかかってきた。ビッグスの盾がその一撃を受け止めた。衝撃とともに、細かい茶色の砂粒が空気中に舞い散った。
「なかなか強い腕っぷしじゃぞ、こいつら!」
そうこうしているうちに、反対側の壁の隠し扉も開かれた。
別の土人形が二体、三体と出現。泥でできた人間を模した顔が、笑っているかのように奇妙に歪み、釘でできた歯列をのぞかせた。その不気味な表情に背筋がゾッとした。
「怖っ! ホラーすぎるだろ!」
ビッグスは斧で、ワンドルは槍で応戦する。
刃先が土でできた体を粉々にした。
粉々にしたのだが――。
「何じゃ!? よみがえったぞ!?」
崩れた体が再び形をなす。さっきは男の体型をしていたのに、今度は女みたいな体型をとった。
「不死身の存在のようですね。なんともやりにくい」
クロードの近接武器はムチなので、ダメージを与えるのに苦労しているようだった。
「クロード、風で吹き飛ばしてよ!」
ミルズが叫んだ。
ひゅうと頬を空気がなでさすっていった。ミルズに言われた通り、クロードが風を巻き起こしたようだ。
砂と化した体が、さらさらと遠くに運ばれていく。
次に再生したときは、ずいぶん体積が小さくなっていた。
「いけるな、この作戦! もっとやるんだ、クロード!」
「お任せください!」
俺たちは体を破壊する。そしてクロードが風で吹き飛ばす。そうやっているうちに、土人形は魔力を失い、完全に消えてなくなった。
「やったぜ!」
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