第14話 魔獣

 茂みの奥がガサガサとなる。シェルパも含めて仲間たちは武器をとる。ドンクは「ヒェッ」と悲鳴を上げながら距離をとった。


 一箇所だけじゃない。俺たちを囲む茂みのあちらこちらからガサガサ、ガサガサと音がした。


「強い怒りの感情が我々に向けられています」

 クロードが言った。

「これは敵でしかありませんね」

 茂みを突っ切って、何かが飛び出してきた。鋭い牙を光らせ、四足獣が咆哮した。


「なんだこいつらは」

 俺は叫んだ。

 全身をおおう強固なうろこ。ワニのように長い口。足先の鋭い爪。

 そいつらは中型犬ぐらいの大きさに過ぎないが、漂わせる殺気はライオンにも匹敵する。みるからに獰猛そうなやつだ。

「魔の山の魔獣だ」レイニーが顔を歪ませながら言った。「まさかこんな低いところに現れるなんて」

「こいつは肉食だ。食われないように気をつけて!」

 バニヤンは叫んだ。

「二合目まではボーナスエリアじゃないのかよ。なんでこんな強そうな敵が!」

「ホッシー殿、ぼやいている暇はありませんぞ。ほら、敵がなだれ込んできます」


皮膚硬化エンチャント!」

 青白い光が杖の先から放たれ、俺たちの体を包み込んだ。毎度おなじみの守備力アップの魔法だ。

 まず俺が仲間の守備力を底上げする。

 続いて、前衛担当のビッグスとワンドルが飛び出し、その勢いで二頭を仕留める。だが、なにせ数が数だ。さすがの二人であっても敵の猛攻を止められない。ビッグスとワンドルは腕や足をがぶりとやられた。

「キャイン!」

 ワンドルは苦しみに悲鳴をあげた。

 クロードやミルズはは弓だったり投石だったりを見舞い、確実に仕留めていく。レイニーとバニヤンもやむなく戦列に加わり弓を射った。

 だが、なにせ数が数だ。

 ジワジワと化け物に距離を詰められる。

「うわああ、おしまいだ! 涅槃ねはんで会おう、アホのみんな!」

 ドンクは泣き叫んだ。


筋力増強エンチャント!」

 続いて俺は赤色の光を放った。

 俺の魔術が届くと同時に、ビッグスとワンドルが威勢よく立ち上がった。足を腕を振るって、魔獣を振りほどいた。

 魔獣は地面に叩きつけられて無様な悲鳴を上げた。

 前衛ふたりは続けざまに戦斧と槍で猛追をかける。

 またたく間に血しぶきが広がった。

「くるよ!」

 ミルズが叫んだ。

 魔獣たちは俺たち後衛にも迫ってくる。

「打ちのめせ!」

 俺は、ある村で仕入れた鉄の杖を振るい、魔獣を殴打した。いつもの力であれば鱗で弾かれていただろうが、筋力増強された今なら奴らの体を貫くことも難しくはない。

 それはミルズも同様。

 猛接近してくる魔獣の背にまたがり、一匹また一匹と逆手に握ったナイフで突き刺していく。

「どうだ!」


 活躍を見せたのは、我らが頼れるエルフの男だ。

ウインドよ!」

 クロードは手に魔力をためると、風を巻き起こした。強い風だ。猛突する魔獣にブレーキをかける。そして、

ブレイド!」

 魔獣の血しぶきが舞う。断末魔の悲鳴。するどい風の刃を巻き起こして、魔獣の体をズタズタに切り裂いたのだ。


 あれだけたくさんいたシールドゲーターは沈黙した。いまは物言わぬ死骸となっていた。

「俺たちやれるな」

「示し合わせたかのような連携です」

「これぐらいの敵ぐらい屁でもないわ」

「まあ、楽勝だね」

「…………」

 などと口々に言う。

 皆傷だらけだったり、魔術を使って疲弊ひへいしていたりするのが。


 累々の屍を前に、レイニーは膝をつき、カエル特有の大きな目で一瞥いちべつすると、その鱗におおわれた体に指を走らせる。

「シールドゲーター。もっと高層に生息する生き物だが、なぜここにいるのだろう? 何か異変が起きていなければいいのだが」

「こんなものがゴロゴロいるんだとしたらたまらないな」

「まあ、こんなことは滅多にあることではありませんから。上に登るまではまだ安心していいてもいいですよ」

 とバニヤンが言った直後のことだ。

 さっきよりも大きな音が薮を突っ切ってきた。そして、三倍は大きなシールドゲーターが姿を現したのだった。

「な、なんじゃあの大きさは!」

 ビッグスは叫んだ。

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