第20話 アイテムを使え!
「皆さん!」クロードが叫んだ。「奥の手です。マジックアイテムを使ってみましょう」
「でもでも、このアイテムの効果だって分からないじゃない」
ミルズは手に入れたばかりの短剣を見つめながら言った。
「何もしないよりマシです。状況を打開する手が見えて来るかも知れない」
「その通りだ」俺は言った。「アイテムに魔力を込めろ。そうしたら効力を発揮するはずだ」
「でもどうやんの。おいら魔術師じゃないから分からないよ」
「感覚でやれ!」
「そんな無茶な!」
「何とかなるもんなんだよ。さあいくぞ!」
宣言通り、俺はマントに魔力を込めた。
すると、体がふわりと浮いた。
「うおっ⁉︎」
どうやら飛行能力を授けるマントのようだ。
「おいらも短剣を使ってみる!」
不安に反して、ミルズはマジックアイテムを使うことができた。突然、フッとその姿が消えた。
「ミルズ殿、一体どこに⁉︎」
クロードはキョロキョロした。
「ここだよ」ミルズが姿を現した。「透明化のナイフだ。すごく便利だけど、ヴィヒクスに効かなきゃ意味ないね」
「全くそのとおりだな」
「お前らはやく助けんか!」
ヴィヒクスの足はますます強くビックスを踏みつけていた。盾で自分を守るビッグスの腕がプルプル震えていた。
「ここは私が!」
クロードが剣を頭上に掲げる。するとその刀身がめらめらと燃え上がった。
「火炎のつるぎですと⁉︎」
クロードが剣を振り下ろすと、剣に宿っていた炎は火球となってヴィヒクスに飛んでいった。
「ギャーッ」
火球がヴィヒクスの顔面に激突した。その体を焼き、その肉体が再生していくそばから燃やしつくしていく。
「効いているぞ!」俺は叫んだ。「どんどん火球を放て! ほかの奴らはヴィヒクスの体になるべく損傷を与えて回復を少しでも遅くさせるんだ!」
「おお!」
仲間たちが叫んだ。
ミルズは魔力石をパチンコで飛ばし、クロードは火球を放つ。俺は上空からみんなに声援を送る。
期待はしかし、打ち破られる。ヴィヒクスは傷つくそばから癒えていく。
「くそっ。めちゃくちゃ叩くしかねえ」
回復が追いつかないくらいまで叩く……それしか俺には思い浮かばない。もしそれが叶わなかったら……?
ヴィヒクスの足の力がゆるみ、隙をついてその下からビッグスが這い出てきた。
「わしを足蹴にしておいて許さんぞ、そこのデカいの」
壊れた戦斧は使えないので、ビッグスは手斧を手に取った。ゲットしたばかりのマジックアイテムだ。
ビッグスは振った。
その刃先がヴィヒクスの甲殻に当たるが、手ごたえのようなものは感じられない。
しかし、次に驚くべきことが起こった。
刃がヴィヒクスに触れた後で、手斧が白く輝きはじめた。
「なんだ⁉︎」
白い光はあっという間にヴィヒクスの巨体のすべてを包み上げた。その直後、光はヴィヒクスの体を抱えたまま天上に向かって輝きを放った。ジュワッ。ナメクジが塩に溶けていくような音がした。
光が消えると、そこに残ったものはチリにも似たヴィヒクスの残骸だけだった。
「一体何なんじゃ、これは? あれだけの巨体が一瞬のうちに
ビッグスは手斧を上から見たり、横から見たり、下から見たりする。何の変哲もない金属製の斧だ。よく磨かれてキラキラしていて、銀色に光っていた。
「この輝き……浄化の光でしょう」
クロードが言った。
「きっと聖なる属性の武器だよ」ワンドルが言った。「世界にはそういうものがあると古代の伝承で聞いたことがある。その武器は、魔人や魔獣に限らず、悪しき世界よりきたりしものを消滅させる効果があるんだよ」
「ワンドル、お前無事だったのか」
「この腕輪のおかげだ」
ワンドルは片手を持ち上げた。身につけていた腕輪が虹色に輝いていた。かなり強い魔力が放出されている。
「察するに、それは防護力を上げる効力があるんだな」
ワンドルの体には怪我ひとつなかった。すこし鎧の表面がくたびれただけだ。
「これならホッシーのエンチャントと相まって無敵の防御力を誇れるよ」
「――聖なる武器か。きっとヴィヒクスめが暴れたときのために宝物庫に置かれていたんじゃろうな」
いつになく真剣なまなざしでビッグスは聖なる手斧をながめていた。
「……これならダークドワーフの作った武器などバターのように切り刻んでやれそうじゃな」
「またダークドワーフですか」クロードが言った。「ビッグス殿、どうしてあなたはダークドワーフなどにこだわるのですか。いったいなぜ?」
ビッグスはこれには答えず、うつむいて武器を見つめるばかりだった。
「ビッグス殿……」
「この戦いで手に入れたマジックアイテムの性能も明らかになったね。飛行能力に火炎放射能力。透明化能力に魔属性特攻。それから防御力アップ。おいらたちこれまでの何倍も強いパーティーになったんじゃない?」
「ああ。これさえあれば魔獣も怖くない。俺たちも結構いいところまで進めるんじゃないの? 早速古代遺跡を抜けて、シェルパとロバと合流しないとな。先はまだまだ長い上に、なんだか山頂をめざしている奴らはなぜか知らんがたくさんいる。やつらに先んじて踏破してやろうぜ!」
この時の俺はそういうことが言えるテンションだった。
まあ、それぐらい自信がついたんだ。
スキルなしの俺も、スキルありに匹敵するぐらいの力を得たんだ。
「それにしても、この空間からどうやって抜け出しましょうか? 出入り口は天井に開いた穴しかないようですが」
クロードが言った。
「マントで飛行能力を得たから、俺がひとりずつ抱えて上まで行こうか? あ。想像してみたらものすごく疲れそう」
「よし、それで頼むぞ」
ビッグスはニヤリと笑った。
「ホッシーの腕に抱かれて数百メルーの距離をランデブーしちゃうだなんて……」
ミルズはぽうっと顔を赤らめた。
「実をいうと、ホッシー殿。私は空を飛ぶ感覚一度味わってみたかったんです。とても楽しそうですね」
「後悔先に立たずだな。なんか精神的に倍は疲れそうな感じがしはじめたよ」
「その必要はありませんよ」
第三者の声が俺たちに掛けられた。
「何者ですか!」
クロードはふりむき鋭い声で言ったが、その直後表情をゆるめた。
「あなたは……一体?」
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