第4話 魔の山へ

「魔の山とはですね。高い高い山のことです」

 白銀ビキニアーマーが得意げに言った。

「あの、もうちょっと具体的にというか」

「すごいすごーい高い山です」

 今度はいっぱいに腕を広げながら言った。

「いや、だから具体的に言ってくれよ!」

 一見クールビューティーだけど、天然ちゃんだな、この子。


「魔の山とは」ワンドルは言った。「標高1万メルー(※メートルの意)。この大陸の北側にある巨大な山。その頂上は漆黒しっこくの霧に包まれ、見ることはかなわない。魔獣がみつき、下位神すら存在する。挑戦したものは数知れないが、いずれも無言の帰宅を果たしている」

「わんちゃん、ナイス説明です。いい子いい子」

 ビキニアーマーはワンドルの頭をなでなでする。ワンドルは尻尾をふりふりしてうれしそうだった。


「ちょっと待ってくれ、その山ヤバすぎないか⁉︎」

 エベレストでも8,849メートルだぞ。それより高いとはどういうことだ? ろくな登山道具もないこの世界でどうやって登れと?

「魔王にいどむより無謀だよ。ちょっとさあ、考え直そうぜ」

「なんとかなりますよ」

 ビキニアーマーは無責任なことを言う。お前から提案しておいて、お前。

「ドワーフたるもの一度は魔の山に登れと言われておる。挑戦しがいのある目標じゃ」と意気込むビッグス。

「みんなで挑戦できるなんてうれしいな。わくわくしてきちゃう」と頬を手のひらで包んでうれしそうなミルズ。

「お前ら怖くないのかよ⁉︎」

 俺は抗議した。

「むしろ燃えますとも。我々の力で伝説の霊山に挑むのです。これが興奮せずにいられましょうか」

 キラキラ目を輝かせてクロードが言った。

 こらダメだ……。

 逃げよっかな。


「それでは」とビキニアーマー。「わたくしでよければ同行いたしましょうか?」

「えっ。マジで⁉︎」

「はい。わたくしはスキル持ちですし、提案した手前、少しでもみなさんのお役に立てたらと思いまして。それに、こう見えてわたくし旅行好きですし」

「それなら話は変わるかな……」

 多少ズレているとはいえ、この子は魔王をぶっ殺した勇者でもある。こんな子についてきてもらったら百人力だ。それこそ、魔の山踏破も遠い夢ではなくなる。

「でもいいの? きょう魔王討伐を終えたばかりで、さっそく冒険の旅に出ようとするなんてさ」

 ミルズはたずねた。

「体力ありあまってますから」

 ビキニアーマーはちからこぶをつくってみせた。なかなかのマッスルぶりだ。

「ふむ、腕を奮ってもらおうではないか」

 ビッグスもうれしそうに言った。


「本当にいいのか、スキルなしの俺たちの仲間になってくれるなんて?」

「もちろん!」

 ビキニアーマーは声を張り上げた。

「あらためてごあいさつを! わたくしは冒険者のシンデレラ・シルバーレイクといいます。よろしくお願いします!」

 パァと輝いたその顔は、ちょっとかわいかった。背中まで伸びた髪もサラサラしていて、いい匂いがする。

「おう。よろしく――」

 差し出されたその手を握ろうとして――


「――ダメだ」

 とキング・ザ・ブルの鶴の一声。

「えーっ⁉︎」

「どうしてですかー⁉︎」

「ダメに決まってんだろ。そもそも俺が金出す気になったのは、スキルなしどもがより集まって大きなものに挑もうってところにロマンを感じたからだ。なのに、お前みたいなチートキャラがグループ入りしてしまったら全てが台なしだろうが。サークルクラッシャーかお前は」

 などと批判するキング。この世界にもサークルクラッシャーって言葉があったのか。


「そんな。わたくしが提案した以上、それなりの責任を取らなくてはと思っていたのに」

 ガックリと肩をうなだれるシンデレラ。

「いいんだよ、シンデレラ。そういう条件なんだから仕方ない」

 俺は言った。

「ですが……!」

「もともとおいらたちでやらなきゃいけないことだしね」

「気の毒だが、お前の出る幕はないのじゃ」

「シンデレラ殿、お気持ちだけいただいておきます」


「というわけだ。シンデレラ、男の世界に首突っ込むんじゃねえぞ」

「はい……」

 しょんぼりした様子に気の毒に感じずにはいられない。シンデレラは勝手に提案して勝手についてくると言ったにすぎないが、それでもこんなにも人のいい子だ。がっかりさせておくに忍びない。


「俺たちを心配してくれてるんだろ。ありがとう。俺はこれでも魔術師なんだ。もし心配してくれるのなら、きみの水晶玉番号を教えてくれれば、定期的に生存報告するよ」

「いいえ、いらないです!」

「そうはっきりと言ってくれるなよ……!」

 さりげなく番号を聞き出そうとした俺の目論見はあっさりついえる。

「あの、いや、そういうことじゃなくて……その必要がなくなったからです!」

 シンデレラは何やら弁解しはじめる。

「どういうことだ?」

「なんでもありません! あの、えーと、ないしょです!」

 実にへんな女である。


「これで決まりだな」キング・ザ・ブルは指をパチンと鳴らした。「さっそく明日出発しろ。朝は早い。てなわけで散会だ!」

 プロデューサーとは実に強引なやつである。

 そんなわけで、魔の山踏破を目指すことが決まってしまった。

 って、こんな重大なことをその場のノリで決めてよいのかよ!?

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