異世界転生したけどスキルもないしモテないし野郎グループで魔の山踏破する

馬村 ありん

第一章 俺たちの出発

第1話 スキルないしモテないし

 声をかけた人に背中を向けられるという経験は、何回味わってもツラいものがある。断っておくと、愛の告白をしたわけではない。冒険のパーティーへの参加を呼びかけたのだ。


「すまんでござる」とその剣士は視線をそらしながら言った。「せちがらい世の中でござろう? どうせパーティーを組むなら……その、めちゃくちゃ強いスキルを持った人と組みたいわけで。そなたはないんでしょ、スキル」

「そうだよ。スキル判定所ってところに行ったけど、『ない』って言われた」

「ああ、気の毒にでござる」

 去り際、剣士は俺の手をにぎってきた。

「いつかそなたにも心強い味方が現れるでござろう。その時を待つのでござる」


 これで何人目だ?

 百人越えたか……?

 異世界転生したやつは星の数ほどいるが、スキルをまったく持ってないやつはもしかしたら世の中に俺ぐらいのもんなんじゃないだろうか?

 話を聞くに、ほかの転生者は「あらゆるモンスターを手懐てなずけることができる」「あらゆる神秘を無効化する」「死ぬ度に時間をリセットできる」といった華々しい能力を持った奴らばかりだ。俺みたいな無能力者は珍しいらしく、ほかの転生者から同情される。でも同情されても一銭にもなりゃしない。


『あのー、それなら女神とか天使とかが仲間になっていたりしないの?』

 これは知り合った別の転生者からの質問である。

『スキルがない代わりにさあ、なんかすごい力を持った女の子が仲間になってるとかあるじゃん? 女神級の力持った女の子のパワーを借りつつ、いちゃいちゃしながらダンジョン探索をするとか……?』

 それも特になかった。

 転生者には得てしてそういう存在がいる。

 現にめちゃくちゃカワイイ女の子をはべらせている奴を何人も見てきた。

 そういう奴らを指をくわえて後ろから見てきた……。


 俺にもワンチャンあるんじゃないかと思って、女の子をパーティーに誘いまくってたときもある。

 ふしぎな力が作用してモテまくったりしないかな~などと思っていたが、甘い期待はもろく崩れ去った。特にモテなかった。

 転生者だと自ら名乗ると一目置かれたが、スキルなしがバレた瞬間離れられた。

 せちがらい世の中でござる。


「ちくしょう、やってられねえなあ! 無スキルとはそんなに冒険したくねえのかよ!」


 うさ晴らしに酒場に行くと、いるいる、いつものメンツ。

「これはこれはホッシー殿! うかない顔ですね? また冒険者に声をかけて袖にされたのでしょうか? おや? 冗談のつもりでしたが、もしかして図星ですか?」

 エルフのクロードが言った。長身長髪のモデル体型。美しき妖精の男だ。

「そのまさかだよ。見たところ、お前らも同じ境遇って感じだな」

 俺は言った。

「うるせえ。さっさと席についてビールでも飲みやがれ」

 野太い声を張り上げたのはドワーフのビッグスだ。ヒゲ面をしかめている。完全にできあがってるところをみると、ご機嫌ななめに違いない。


 いつものメンツ。いつもの五人衆――人間の俺とそれから森妖精エルフ鍛冶妖精ドワーフ小人妖精ホビット犬妖精コボルド

 五人が五人ともスキルを持っていない。

 冒険者としてそれなりに実力はあるのだが、スキル持ちにはどうしても勝てない。そんなやつらだ。

 いつもこの酒場で顔を合わせるので、すっかり顔なじみになってしまっている。

 そして五人が集まると、くだらない世間話が始まるのだ。


「あらホッシー、いらっしゃい」

 樫材のスツールに腰を掛けていると、ウエイトレスのミーナがオーダーを取りに現れた。いつもの胸元の開いたエプロンドレス。無スキルにも優しく、この酒場の人気者だ。

「ご注文はいつものビールでいい? ワインも入荷してあるけど」

「ワインか、いいなあ」

「どう? 南の島のぶどうを使ってるからばつぐんに美味しいわよ」

「やっぱりいいや。金ないし。ビールで」

 そう。スキルがなければ、金もない。

 満足に冒険にも出られず、農作業を手伝ったり、樹木の伐採を手伝ったり、二束三文の生活だ。こうしてビールを飲むのだってどれだけぜいたくなことか。

「それと……腸詰ソーセージを頼む」

「了解」

 ミーナはウインクひとつ残して、厨房へと歩いていった。


「ミーナさんご結婚されたらしいですね」

 彼女の後ろ姿を見ながらクロードが言った。

「あれだけ美人なら他の男が放っておかないでしょうね。相手は『不死身』スキルの冒険者だとか。いやはやミーナさん狙いだった男たちはさぞや傷つくことでしょうね」

「やめてくれ。ミーナのこと狙ってたころもある俺が傷つくだろ」

「なにを気の弱いことを言ってやがる。旦那がいたからなんだ。好きなら突撃あるのみだろうが」

 などと威勢のいいことを言うのだが、ビッグスはどこか自信なさげだ。失敗続きでこの自信家もすっかり鼻を折られたと思われる。


「いっそさ、おいらたちでパーティーを組むのはどうだい?」

 そう言ったのはホビットのミルズだ。椅子にふんぞり返りながら、あどけない笑みを浮かべていた。

「それなりに世間で痛い目見てるおいらたちだから、冒険だって慣れたものだろ? パーティー組んだら、けっこういいところまで行けるんじゃない?」

「我々でパーティーですか? 面白いですね」

 木のコップを口に運ぶ手を止め、クロードはその端正な顔を輝かせた。

「ワンドルはどう思う?」

 ミルズはワンドルに話を振った。ワンドルはコボルドの男で、見た目はコーギー犬に似ている。

「…………」

 ワンドルはミルズを黒目がちな目でじっと見返しすばかりで答えなかった。

 人語がわからないわけではなく、極度の無口なのだ。


 ――いつかそなたにも心強い味方が現れるでござろう。その時を待つのでござる。


 あの剣士の声がふと脳裏によみがえる。

「もしかしたら、いまがその時なのかもしれねえなあ」

「ホッシー殿、なにか言いましたか?」

「なんでもないよ。そのパーティーの話乗ったよ」

「そうですか。もちろん私も賛成です」

「ふん、わしも一枚かんでやる」

「おいらの提案で決まりだね」

「…………」

 ワンドルはしっぽを左右に振った。


 こうしてパーティー結成となった。

 ……どうなることやら。

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