第12話 いざ魔の山

 俺たちは明け方に集まった。

 改めてメンバーを紹介しよう。

 毎度おなじみ五人の仲間。

 それからシェルパの亜人レイニーとバニヤン。

 それからロバのドンク。

「こんだけ雁首そろえて死にに行くとは笑える話もあったもんだぜ。俺ぁ死にたくねえ。今すぐ解放しろってんだ、ゴミども」

 ドンクは悪態をついた。


 それぞれ使い慣れた武器防具を背に腰に提げる。俺たちの体は毛皮を仕込んだ鎧や厚手のローブで包まれている。これはキングのアドバイスに従い、ふもとの街で調達したものだ。

 それぞれの背には背嚢リュックサック――水、食料、ロウソク、火打ち石、傷薬、魔石といった異世界サバイバルに必要なものがふんだんにしまわれている。それからブランデーなんかも。

 残りの水と食料はドンクが背負う。ドサッ。荷物を背に載せられてドンクは「この野郎、ふざけるな、俺を奴隷扱いしてんじゃねえぞ。馬鹿野郎」などとのたまった。

「ロバ扱いはさせてもらうぜ」

 ビッグスはにやりと笑った。

 こうしていざ出発となった。


 俺を先頭に、一行は山頂へと続く荒れた道を歩き始める。

 青空が広がり、オレンジ色の太陽の光がまぶしかった。

「いい気持ちです。魔の山も、ふもとはほかの山のように穏やかなものですね」

 クロードは気持ちよさそうに深呼吸をした。

「二号目までは観光地みたいなものですよ」とカエル顔のレイニーが言った。

 レイニーの話によると、二号目と三号目の境には万里の長城みたいな長い塀が建てられていて、魔物の侵入を防いでいるのだという。


「みんな温泉たまご美味しいよ」

 ミルズはふもとの町で買っておいたらしい卵をみんなに配る。シェルパの連中にもだ。やっぱりいいやつだな、こいつ。

「俺のはねえのかよ、メスガキ。ロバだからって舐めてんじゃねえぞ」

「ドンクは草食だろ。それから僕はメスじゃない」

 ミルズはプンプンして言った。

「低脳の冒険者とアホのシェルパども、俺の飼い葉は持ってきてんだろうな」

「ご安心を。あなたの背中の荷袋に入っておりますので」

 クロードは言った。

「それもいいがよ。たまには道で足を止めて草を食わせてくれよな。道草食わずしてロバとは言えねえだろ? なあ?」

「こいつは黙らんのか。いつまでも一人でしゃべりよる」

 ビッグスはげんなりして言った。

「…………」

 ワンドルはドンクの頭をなでなでしている。


 それから半ば行楽気分の道行が続いた。

 途中、きれいな異世界の花を見つけて愛でた(生前のいつもの習慣からスマホに撮りたくなった)。河原で一休みし、水筒の中身を補充をした。


 途中、クロードは木を削ってオカリナを作った。仲間たちはクロードの演奏に合わせて歌を歌った。歌はなんだかよく分からないけれど悲しい旋律をしていた。

 異世界の気楽な住人もそれなりに辛いことがあるのだろう。


 途中、ほかの観光客らと出会って情報交換をしたり、食べ物を交換し合ったりした。

 中には俺と同じ転生者のやつもいて、現世の話で盛り上がったりもした。


 暗くなってくると、キャンプを張り、たき火を前にほら話や怪談、それから猥談わいだんなんかをした。

 パーティに女がいないのは寂しいかぎりだが、男同士なら男同士の気楽さがあるわけだ。

 俺たちはタバコ成分のある野草をくちゃくちゃ噛みながら、ブランデーのボトルを回し飲みした。


 そんな風にして山を登り、要所要所でキングと連絡をとった。相変わらず忘れられているようだが、俺たちが実績を積みつつあるのには感心してくれた。


 ある日、シェルパのレイニーに問いかけた。

「もし大きな竜にでも乗って、山を登ったらどうなる? こうタラタラと歩かなくても済むようになるんじゃないか?」

「あれが見えますでしょうか?」

 アマガエル色の指をレイニーは向けた。

 そこにあるのは、見たくなくても目につく、黒い霧におおわれた魔の山の頂上部だった。

「あの黒い霧のなかに、ドラゴンで乗り込んだ者がいます。その人は霧の向こうに消えて、二度と戻ってはきませんでした」

「マジか」

「あの霧の中には何があるか分かりません。風が強く吹き、雷がひっきりなしに落ちているとも言われてます。空から攻略するのはどれだけ巨大なドラゴンに乗ろうと無理な相談なのです」


 あはは。

 山頂行きたくねー。

 大苦笑した。

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